第20話  何を間違えたのか

「ビビ、ゼタールンド伯爵家の先代夫妻も死刑、君の父上も、ペルニラも、娘のマリンも死刑ということになったんだけど、君の父上が全てを差し出すから息子のノアだけは助けてくれと言っているんだよね。国王陛下は君の意見を尊重すると言っているんだけど、どうする?」


「え・・えーっと、エド兄様、死刑ってどういうことですか?」

「いやだからさ、今回、精霊の怒りを買うことになった原因となるゼタールンドの人間は、もれなく全員死刑は決定なんだけど、君のお兄さんであるノアはヘレナ夫人の実の息子だし、もしかしたら精霊の加護が残っているかもしれないし、こいつだけは生き残らせて欲しいという君の父上の嘆願なんだけど」


「えーっと・・死刑って本当ですか?」


 ビビはソファに置かれていたクッションを抱きしめると、そこに自分の顔を埋めながら唸り声をあげ出した。


「死刑?本当に死刑?」

「そりゃ、君の母上が殺されたわけだからね」


 辺境伯の娘だったヘレナは祝福の瞳を持っていた、その瞳が読み取る力は予言に匹敵するものだと言われている。本来なら王家に嫁いでも間違いない娘が、たかだか伯爵家に輿入れすることになったのは、一重に彼女が真実の愛を信じたからだ。


 その真実の愛はすぐに解けて無くなってしまったが、彼女は自分の夫が責められることを恐れて、自分の境遇を外に出て言うようなことをしなかった。だからこそ、義理の母や小姑に虐められ続けるようなことになってしまったのだ。


 本来であれば、出戻りであるペルニラとその娘であるマリンこそが肩身の狭い思いをするべきだったのだ。だというのに、精霊の加護を持つ二人が彼女たちに代わって肩身の狭い思いをするようになり、虐げられ、挙げ句の果てには殺された。


「先代夫婦の咎は大きい。もちろん夫のニコライもだが、ヘレナの産んだ息子には情状酌量の余地はあると言う意見もある」

「あの・・皆さんを助けることは出来ないのですか?」

「もちろん出来ない」


 エドヴァルトはあっさりと首を横に振ると、

「ヘレナ叔母様の息子であるノアの命を助けるかどうかという話でしかないんだよ」

 エドヴァルトはキッパリとビビに告げたのだった。



     ◇◇◇



 牢に入れられたペルニラは、冷たい石の床の上に蹲り続けていた。何処で間違えてしまったのだろう、何を自分は間違えてしまったのだろう。


 伯爵令嬢の嫁ぎ先としては、侯爵家は格上と言えた。投資で失敗してしまったとか、家が傾き始めているとか。金の為に選ばれた花嫁だとしても、結婚すれば侯爵夫人になる未来が約束されている。


 だったら何の問題もない。たとえ結婚相手に愛する恋人が居たとしても、自分だって恋人が居たのだから何の問題もない。何の問題もないと思っていたのだ。たとえ初夜の場で、

「私は君を愛することは一生ない」

 と、言われたとしても、その後、愛がないままに抱かれたとしても、何の問題もない、何の問題もないと思っていたのだ。


「愛人様の方が懐妊したかもしれないという噂が屋敷内で流れているようです」

 実家から連れてきた侍女がペルニラに報告してくるまでは、本当に、愛がなくても何の問題もない、何の問題もないと思っていたのだ。


 この時は軽い風邪を引いただけのことで、ビルギットが子供を授かったわけではないということが分かったものの、ペルニラは激しい焦燥感を覚えることになったのだ。


 貴族に嫁いだからには子供を授かるのが役目であり、子供を授かるための行為を続けてはいたものの、二年経っても授からない。

「こんな状態でビルギットが子を授かったらどうなってしまうの?」

 元々、愛がない夫婦だったのだ。愛人が子供を授かったとしたら、親族の反対など無視して、夫は愛人とその子供を侯爵家に迎え入れることになるかもしれない。


 愛人との勝負に勝つ為には、絶対に正妻である自分の方が先に妊娠しなければならない。だからこそ、結婚前の恋人と体の関係を持ったのだ。夫と恋人と、同時期に関係を続けて、妊娠することに賭けることにする。


 結果、ペルニラは妊娠した。腹の中の子供が夫の子供なのか恋人の子供なのか分からないけれど、生まれたマリンは母親にそっくりな娘だったため、ペルニラは夫と自分の子供であると思い込むことにした。


 その後、愛人のビルギットも娘を産んだけれど、先にマリンを産んでいるため、夫から離縁を切り出されることはなかったのだ。恋人が娘に宝石のプレゼントをするまでは、愛人の娘となるシーラが加護持ちであると証明されるまでの間は、ペルニラは賭けに勝ったままの状態で侯爵夫人としての生活を謳歌することが出来たのだ。


「死刑囚ペルニラ!牢の外に出ろ!」


 一体何を間違ってしまったのか、何処で間違ってしまったのか。

 本当に、ただただ、加護を持つ者が憎かった。

 シーラが加護を持つと証明されるまでは、自分はビルギットに勝ったままの状態でいられたのだから。


 生家に帰っていわゆる嫁いびりというものをすることになったけれど、母も嬉々としてやっているし、兄のニコライも何も言わなかったのだもの。父だって嫁がつけ上がらないようにするための教育だって言ったのだもの。


「お母様、面白い毒を手に入れましたのよ?」

 そう笑ってマリンがあんな瓶を持って来さえしなければ、私は楽しく生活を送ることが出来ていたはずなのに・・


「ペルニラ!早く出ろ!」


 蹲ったままのペルニラの腕を無骨な手が掴んで引き起こす。

「いやよ!私は死にたくない!嫌よ!嫌!嫌!いやーーーーっ!」

 牢屋にペルニラの悲鳴が響き渡る。




      *************************



文字が読めないシンデレラ、毎日16時と17時に更新していきます!!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。18時に更新しています。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!

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