第15話 お終い
旧市街が何故旧市街と呼ばれるのは単純な話で旧市街が元々の遠野市だったからというだけ。
何処までも続く緑の海原は手つかずの自然といえば聞こえは良いが、ド田舎と表現してまだ足りない程に長閑で何かが起こるという事が無い。
そんな旧市街の小高い丘。
その中腹。
目的の社はポツンと存在していた。
雪を片付ける人員なんぞの為に役場で働く職員さんが出張る筈もなく、こうして僕はスコップを手にしての任務報告となったのだった。確かに社は既に半分ほどが雪に埋まっている。これではお参りをする人間なんか居る筈もないしヤオロズネットに負の感情が集まり易かったのも当然だったわけだ。
セッセと雪を掘っては崖下に放るを繰り返す。
なんか、崖の下からは「ウゲッ⁉」と隕石でも喰らったかのような声が聞こえたが。
多分、丘の下に暮らす住民さんは重度の花粉症なのだろう。
その様子を、満足そうに眺める巨人が一体。
顔だけがお地蔵様で。
首から下は巨大な半裸のマッチョ。
僕が契約する土地神の長。
地蔵菩薩さまだった。
『結局、私が登場する事も無く事件は終わっちゃったね、康平少年』
「お地蔵様が出張るような案件じゃないでしょう?戦なんか何千年も前から在ったんですし」
『今回のは戦じゃないさ。大切な人間を確実に逃がす為に有効な手段は騒ぎに乗じさせるという事だ。戦火に紛れて女子供を逃がすなんてのはそれこそ何千年も前から行われて来たんだし。けれど産まれた祟りが弱い事だけが失敗だったね。其処だけは五月九日という人々が康平少年に同情し、また人々が康平少年を殺した人間に対する怒りを持ちやすい特別な日を利用するにも及ばず出来なかった。《何故なら彼は当事者じゃない》のだから、君の自殺に関連する祟りを喚ぶなんて事は不可能なんだしねえ?』
「充分強力でしたよ。後で調べてみれば、やはり昔にもイジメで自殺をしてしまった女子生徒は存在していたようです。緑色のセーラー服も今現在無いというだけで高校は名前と経営者を変えて存在していますからね」
『加害者狩りという騒ぎに呼応したのは過去の被害者であったというわけだね。そりゃそうだ。だって康平少年はまだ生きてるんだし祟りを生むだけの怨念が町に充満する筈も無い。《大前提として君は自殺未遂者というか無理心中の被害者》なのだしね。全く、康平少年が真実を話さない理由も理解しているけどさあ?真実を隠すのは仲間を裏切る行為だよ?』
「その前に神様の寵愛を裏切ってますのでね」
『結局それだって加害者ありきの話だろ。人々が本気で加害者狩りをしたいのだったら、《君を壊した二人目の彼女を狩るべき》なんだと解かっていない』
「ええ。僕が救おうとしていた彼女ですね。犯人だった心理学の先生は彼女の事は許せと僕に言いましたけど。今思えば、それは最後通告だったのかもしれないなあ…」
結論から言えば、犯人は二人目の彼女の父親だった。
若く見えるだけで、実年齢は兄貴より年上。
彼は娘に贖罪を強要する人々の手が及ぶのを危惧し、加害者狩りという騒ぎが起こるようにと人々を扇動した。
今年の五月九日にはもう存在しない三人目の彼女。
その死んだ人間に罪を擦り付けて。
三人目の彼女の死因は飛び降りだったらしい。
僕が自殺して、すぐの事だった。
それにもっと早く気づけていれば、どうだったんだろうか?
少なくとも、あの孤独な少女は更に孤独にならずとも済んだような気がする。
既に指名手配までされ、彼女にはそれこそ『逃げ場』がない。
『あ、気付いているかな康平少年。雪国にも漸く桜が咲く季節になったみたいだよ?』
「あの桜の花は幻影じゃなくて本物なんでしょうか?」
『今回の事件では桜の幻影は現れなかった。それが何よりの決め手だったね?』
「藤堂彩が殺されたのに大神降ろし本体が来ていないという時点で、僕とは無関係だとは気づいていたんですけどね…。二人目のサコちゃんが殺されるまで確証が持てなかった。調査すりゃ僕を襲った制服警官は逃亡中の彼女の彼氏だったわけですし…」
そういう事だ。
サルカニウォーズそのものがフェイク。
そして猿は人気者だったという事。
幻影じゃない本物の桜の花びらが風に乗って飛んでいく。
新緑と残雪が混じりあう緑と銀の世界。
何もかもが混じりあう。
真実と虚構と、本音と建て前と。
僕の正義と、彼等の正義が。
『ならば康平少年。その逃げているメス猿なんだがね。追って、殺しなさい』
「ええ。言われずとも。それが僕の役割だ」
それを聞いたお地蔵様の顔は。
満足げに。
狂気に、歪んでいた。
徳川千本桜 ~猿蟹ウォーズ~ 居石入魚 @oliishi-ilio
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