第13話
僕を真っ直ぐに見る事が出来ない人間が加害者であると誰かが言った。僕を見た瞬間にバツの悪そうな表情をする者は全てが加害者であると。そりゃ組織的に自殺するまで追い詰めてくれたもんだから完全に心は壊れてその後の未来も今の生活ですら難儀する程に精神を病んだわけだけれどもきっと彼等は一生僕に何かを償うという事はしないのだろうなとも思う。それは何故かってそんなもん僕が一番聞きたいんだけど。絶対に償う事も出来ないで抱えるしかないとか絶対に言わせたくはないし絶対に償わせるのだけれども。きっと彼等彼女等も何でそんな事をしたのかなんて解らないのだ。解らないからこそ償いようがない。もしかすればただ単に徳川康平がムカつくから殺しましたというだけなのかもしれないし、それならば話は簡単で警察署と裁判所に行って御家族共々人生狂って貰うだけなのだが。
僕のようにね。
「此処で一つ昔話をしようか。昔、僕は一人の少女を救おうとした。孤独に追いやられ孤独の辛さにずっと耐え忍んで来た人間の末路は誰でも良いから自分を救ってくれる人間と接点を持つ事だ。犯罪学上において親の愛情を受ける事無く育った子どもであったり友人に疎外されて成長した子供は大人になってから不特定多数の異性と遊ぼうとしてしまう。孤独が原因で更に孤独となる事を恐れた僕は彼女を何とか救い上げようとした。その結果、僕は彼女に『皆から嫌われてるよ?空気読んでよね?空気読んで死んでくれない?』と言われる事となったのだけど。其処で僕は学んだ。孤独に苦しんでいる人間が必ずしも善人ではないって事にだ。苦しんでいる人ならば誰でも助けたいと思わなくて良いんだと僕は其処で知った。だから誰でも助ける正義の味方を辞めて自分が大切な人だけを助けるサムライになった。しかし僕と彼女の間に何か異物のような物が混入した事が彼女にそう言わせる原因となったのだし、その異物は僕に対しても彼女が何故孤独なのかをしつこい程に説いて来た。その彼が大神降ろしの元凶であると誰もが思っているけど、《そうじゃない》」
彼は異物ではあったけれど僕を救おうとしていただけ。
ただそのやり方が稚拙で優しさに欠けていたから失敗しただけで。
彼は他者に強いコンプレックスを抱えてはいたけれど元凶ではない。
悪人かも知れないけど、それだけだ。
「僕の自殺、大神降ろし事件というのは《状況を利用した第三者》が元凶である事は僕に連なる者であれば誰でも知っているんだ。そしてその第三者こそが『手を繋いだ迷子』の中心。他者に対する攻撃性が高く自己保身の為ならば人を殺しても良いとし罪を罪だと認識したうえで如何にして逃れるのかを考える《犯罪者的思考の持ち主》であるとも言える。これだけ言うとさぞ凄い人間だと思いそうだから訂正しておくけれども、彼等彼女等に残る手札は意外と少なくそのカードも非常に弱い。彼等には《結託する》というカードしか持ち合わせがない。この国は多数派が正義と言われる国。まず多数派になろうとする国民性がそもそもの間違いなんだ。赤信号を皆で渡ればお巡りさんから皆が捕まるけど、その前に赤信号を皆で渡ったら皆がダンプに轢かれるんだ。そのダンプこそが大神降ろし事件。新遠野市に妖怪を呼んだ未曾有の大惨事だよ。だから大神降ろし事件を利用しようとか考えている時点で一つの事実が浮かび上がるんだ。貴方は大神降ろし事件をまるで見てきたように語るが《貴方は大神降ろし事件の関係者じゃない。何故なら関係者ならば利用しようとさえしないのだから》。どんな奴が犯人かと思って重装備で来てみりゃクソつまらねえ愉快犯ってのは実に僕らしいんだけど」
人が自殺した事を利用する者がいるとは考えにくいというのが僕の考えであったが。
それよりも確かな確信として僕の中にあったのだ。
自殺に関わった者であれば絶対にこんな事は考えないと。
「罰というのは罪を犯した者が己の良識で自ら背負う物だとされる。社会通念的な与えられる罰ではなく概念的な罰になるんだけど、それがどんな罰であれ背負う事から逃げない者を被害者である僕は許す。背負う事から目を背ける者だってまだ良い。だけど《目に見える幼い罰そのものが目的だった》アンタだけは許せねえ」
籠釣瓶を抜いた。
気持ちに反応したのか。
ぶぉぉんと怪しく輝く。
「警察に出頭しろ。さもなくば僕は此処でアンタを殺すぞ?」
最後通告が終わっても。
彼の口元は笑った形のままだった。
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