第12話
「会長さんは存在自体が『罰』なのかもしれませんね。其処に存在するだけで何か怒られるんじゃないかと思わせるような警察官にも似た雰囲気が在りますし、会長さんを見た人間は何故か会長さんに辛く当たる事が多いです。それは回り回って自分自身を苦しめる『罪』となりますから」
そんな事を言われたところで僕は誰にどんな罰を与えれば良いのか。
それが判らないというか。
それを選べないというか。
だって、クソみてえな人間が多過ぎるからな。
「会長さんがただ其処に在るだけで周りにいる人は自身に『罪』を自ら与えてしまうというのは苛められっこを極めた会長さんらしいんですけど。それって自殺に追い込まれたからこそ開化した能力ですし性質なんです。だってイジメは小学校や中学校の時にも在ったんでしょ?それを乗り越えて高校生活を頑張るぜって時に自殺をさせられて覚醒したわけです。罪と罰はセットなのが法治国家ですから、周りが急に罪人になってしまうというその個性はなるべく隠した方が良いかもですね」
結局、それは苛められっこという事。
なんにも誇る事が出来ない個性だった。
「あ。その顔は嬉しくねえとか考えてやがりますね、この会長さんは。ハッキリ言ってムチャクチャ厄介ですよその才能は。会長さんが『罰』そのものなんですから会長さんの周囲に居る人間は常に自分の『罪』を認識して向き合わなくちゃならないんです。それって自分が悪者であるとの認識ですからね。誰だって自分は良い奴だと考えているこのご時世にそれを真っ向から否定するんですから会長さんと一緒に居たいと思うのであれば自分が咎を受ける人間であるというのが第一条件なんでしょうか」
「そうでもないだろ。伝統工芸科の連中はなんの『罪』も背負っていない」
罪どころか、彼等は僕のような自殺した人間を支えて持ち上げてくれている。
咎人というか聖人にも近い存在だ。
「だから伝統工芸科の皆さんは『自殺をした会長さんに仕えるという罰』を受けているじゃないですか。友情も愛情も在るんでしょうけど、伝統工芸科の皆さんは贖罪のように会長さんを護ろうとします。つまりはそういう事ですよ。『其処に居るだけで会長さんは周囲を罰するんです。会長さんに対して罪を犯してしまうから』。だから自分が貴方の自殺の関係者である場合、忠宗君やキヨちゃんのように尽くす事を己に科します。他には加害者の皆さんのように会長さんから離れようとします。地平線の向こう側に逃げようとします。罰せられたくないから、逃げるんです。最低ですよね、人を殺しておきながら自分は罰を受ける事が嫌だなんて」
最低ですよね、ただの人殺しのくせに。
そう言って、お姫様はモグモグと菓子パンを頬張った。
人殺し。
まあ、そうなんだけど。
「リアル社会不適合者はネット社会適合者であると考えられた時代もあるんすけど。それも今や全然違います。リアル社会不適合者とされる人間は社会に適合するしかないのです。逃げ場も何も用意されていません。それが社会人という事ですし、それが社会で生きるという事です。警察はネット犯罪をムチャクチャ本気で取り締まってますからね。其処にリアとかネト充とかの区別は無いのです。悪い言葉を使う人間は悪い人間です。優しくない人間は優しくない人間なのですよ会長さん」
「僕はそうは思わない。優しくない人間というのは他人に気を遣う余裕が無い人間の事だ。優しくない人間こそ僕等は救わなくちゃならない」
「その甘さで殺されてるのにですか?」
「弱者は甘ったれだから弱者なんだとの言葉を見つけたのもネットだけどさ。困難な事に挑める人間ばかりじゃない。僕は自分がそうだったから、そう言い切れる」
逃げるばかりだったのは何故か。
それは、これ以上傷付いたら確実に自殺するからで。
それこそ三人目の彼女が望む事だったのか。
というか、僕は三人目もクソも三人全員を許す気なんか無いんだけど。
確かに僕(私)は人を自殺に追い詰めました。
でもそれは当時ムシャクシャしてたからでした。
今はムシャクシャしてないので関わらないで下さい。
そういう事だろ?
テメエのコロコロ変わる気分で自殺させられてちゃ堪ったもんじゃねえよ。
「人殺しを擁護するんです?」
「どちらかを非難してどちらかを擁護するという話じゃない。被害者と加害者が正面からぶつかり合えば両方が多くを失う。僕等が相手にするべきは『上等だよ!』とか声を荒げて争おうとする双方に存在する一部の人間だ」
白黒はっきりさせる事が必ずしもいい事ばかりを呼ばない。
「お主等、無駄口は程々にして戦闘現場の掃除を終わらすを頑張るべきじゃぞ?なんせヒーラーが弾薬を大盤振る舞いじゃったからな。天照大神も今頃ヒーラーの内奥で苦笑いじゃぞ?」
「元人間の英霊と元々最高神である天照大神じゃ強さが全然違うって痛感したよな…」
「全く!地縛霊程度に後れを取るだなんて次代の奥州源氏が情けねえって話ですよ!義経公も弁慶も個人戦闘能力は頗る高かった筈!そぉーれをオメエ等はルーズソックスの女子高生にボカスカジャンされるってんですからね!」
凄かった。
何が凄かったって、平坂の戦い方が僕等のそれとは桁が違った。
アッパーで祟りを浮き上がらせたかと思えば追撃ですぐさまハイキックを繰り出し空中に固定し、其処からサマーソルトで更に浮き上がらせたと思えばGSRによる銃弾を浴びせてマガジンオーバーになったら左手に持っている方のGSRで銃弾を浴びせて、祟りが落ちて来たら腰に隠し持っていた象撃ちライフルでズドン。
ヒメちゃんコンボ。
銃弾に霊力を込めて放つ〈アマテラス〉が在ろうと、あれは平坂自身の驚異的な身体能力と驚異的な落ち着きの無さが在って初めて可能な殺人コンボである事は間違いが無い。
「なーんか、会長さんの自殺騒ぎにしちゃ芯が通ってねえんだよなあ?皆で悪に堕ちるというのが多数派の悪、『手を繋いだ迷子』である筈ですのに。大神降ろし事件で町中に現れた祟りは例外なく『手を繋いだ迷子』の祟りの筈ですのに。同じような加害者狩りの騒ぎで現れた祟りがこの程度ですか?」
「いや…、その祟りをこの程度呼ばわり出来るのはヒーラーだけなんじゃがな……」
「…確かに。僕の自殺に呼応して現れた過去の自殺被害者という地縛霊って感じだもんな…。僕の自殺が原因なら祟りが自殺をするような事は絶対に無い。何故なら自殺にはエンターテイメント性が無い事を理解している筈だもんな……」
ただ、終わって狂うだけだ。
なのに、あの祟りは自殺を何かキッカケにしか考えていないような行動を起こした。
自らの首を、断ち切った。
「だっしょ?だっしょ?会長さんの人生が狂った一連の流れって関わりたいとさえ思わない筈なんですよ。だってシャレになってねえから。本人はイジメで自殺をして、お母さんは気が触れて瀕死の会長さんをなます切りにしてて、親友はそのお母さんを殺してるわけですよね。そして加害者主犯格であるキヨちゃんは御家族全員が警察からマークされてて芸能人でもあるカズちゃんは会長さんに関わりたくともマネージャーさんがそれを許さないみたいな状況なんですよ?みーんなが不幸になってる大神降ろし事件、延いては加害者狩り騒ぎです。《それで現れる祟りが自殺を全面に押し出すような強引な存在だったことがまず不自然だ》とは思えませんか?ラストワード級の祟りが出るモンだと私は覚悟してたわけですし」
「…ふむ。神降ろしの中でも最弱だと言われる英霊タイプを宿すワシと殿が戦うからこそ実力は拮抗していたわけであって、確かに大神降ろし事件の祟りが現れたら町を破壊してでも祓うような有様になるもんじゃしな。そして加害者狩り騒ぎは疑似的な大神降ろし事件じゃと呼んでええ。それなのに現れた祟りは『悪鬼』クラスじゃった。それはもう《この騒ぎと殿の自殺は無関係じゃ》としか思えん」
「…つーことは模倣犯。この加害者狩りの流れを生み出したのはそもそも誰だった?扇動者が『三人目の彼女』であると犯罪心理学の先生は言ったけど。僕の自殺騒ぎをあの先生は何処で知ったんだ?そして警察署内部にも僕を狙う制服警官が居た。それも対神人用ブレードまで持ち出して…。なあ平坂。今日は僕の誕生日、確かに五月九日なんだけどさ?《僕が誕生日に自殺をしたという事実はヤオロズネットに流れているのか?》」
扇動者とは民を導く存在ではなく、民の怒りを煽り焚きつける存在。
人間の心を、操る事が出来る存在。
「ヤオロズネットに会長さんの自殺騒ぎの情報が更新されてる日時って今日の午後ですよ?」
「今日の午後?ワシ等、何をしておったかのう?」
「…僕等は貴族街に居た。そもそも、僕を呼んだのも『彼』だった」
真犯人が視えたな。
この加害者狩り騒ぎと僕の自殺は無関係。
善良な人々を巻き込んでいる人間はあの野郎しか居ない。
新遠野市北地区・貴族街へと僕等は走った。
犯罪心理学の先生。
この騒ぎを巻き起こした犯人を。
民に怒りを焚き付け、今度は加害者の彼等を自殺させようとしているような。
サルカニの当事者を放っておき、サルカニを戦争騒ぎにした。
あのクソ野郎を、斬る為にだ。
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