第19話 終わりに向けて

 天守塔から全体を見た。襲撃してくるワイトは人間も含めて20匹ほどで、生者せいしゃのいる5軒に分散して向かっている。迎撃に向いた狭い地形というのは見つからない。地面に下りて戦えば囲まれてしまう。

 北側に位置して襲撃を受けているロカヤコピの屋根にはコボルトが歩いている。他の、南側の家の屋根にはそれぞれ人が立っていた。

 アンデッドは切っても叩いてもひるまずに攻撃をしてくる。また力も生前より強い。弱点は動きが単純で攻撃を当てやすいことだが、数が多いと長所のメリットが上回ってくる。村人よりワイトの数が多い現状だと、屋根に登ってくるワイトを上から突き落としても押し負ける。時間の問題で、ロカヤコピの家のように屋根も含めて家のまわりをワイトに包囲されてしまう。

 家の中にいる限りは安全だが、持久戦になったら生きている村人側に勝機はない。

「無限の水と食料があっても寿命で負けちゃうもんなあ」サンは言った。期待はしてないが一応、「何日か籠城したら助けが来るってことはないですか?」と確認する。

 ゾグパゾは首を振った。「行商人が来ることもあるが、逃げるだけだ。とはいえ、このまま隣の村々が襲撃されていったら自警団が組織されるだろう」

「襲撃でワイトの数も増えるから、自警団ができてもそれでは防げないでしょうね。北の村落が全滅しちゃう」

「いますぐ北の村で団結してここで迎撃するか、全員でビャペラの城塞の中まで避難するかだ」ゾグパゾは冷めた声で言った。「どっちも無理だが」

「思ったんだが」とランス。「奴らは家の中にいる生きている人間をどういうわけか把握している。目的もなく徘徊しているわけじゃない。生きている人間ならおとりにはなれる」

 ゾグパゾは彼を見た。「で?」

「ビャペラまで誘導してやればこの村は助かる」

「途中の村は?」サンが言った。「この村ほど家が頑丈じゃなかったよ」

「ある程度犠牲は出るだろうな」

「そんなったことしなくてもいいよ」サンは言った。「この家に招き入れればいいんだ。一匹入れてはドアを閉める。入った一匹をみんなでバラバラにする。それを繰り返せば片付く」

 ランスははっとした。その発想はなかったようだ。「そうだな。つい戦術の思考になってた。確かにそれで充分か……」

 サンはゾグパゾと村長代理のバラックと目を合わせた。「どうですか?」

 2人はひそひそと話し合った。サンの耳に声が聞こえてくる。即断即決とはならない。自宅というのが嫌なようだ。

「別にここじゃなくてもいいですよ」サンは最初に襲われて全滅してしまったトガタロの家を指した。「あの家ならどうですか?」

 今度は即決だった。4人でトガタロの家で迎撃するための作戦を話し合った。

 作戦が決まった頃に、わらわらと村の中にワイトたちが侵入してきた。サンたちのいる家にも何匹が群がってきたが、他の家の方が多い。この家に子供がいないのが原因だろうかとサンは思った。

 さらに村の家をスルーして反対の柵から出ていくワイトもいる。ゾグパゾとバラックはその背中を黙って見ていた。その先には別の村がある。

「あれは無理ですよね?」

 2人は黙ってうなずいた。


 その後のサンとランスの戦闘については簡単にまとめる。

 トガタロの家の中に侵入したと見られる子供のコボルトは自主的に二階の窓から出てきて隣家の襲撃に加わった。サンとランスは梯子を借りてその二階から入ると中の無人を確認し、迎撃の準備を整えた。戦斧を村長の家から運んだのはそのときである。サンが家の中で戦斧を構えて待ち、ランスは村の中に出てはワイトたちを誘き寄せた。

 誘き寄せるといっても声をかけても石をぶつけても反応しないので、思った感じとは違った。やっているうちに彼らの生体センサーようなものに引っかからないといけないと分かり、それは体の大体正面にあるということが分かった。センサーの横の範囲は狭いが距離は長い。そして障害物を無視する透視のような能力が備わっていた。すぐ横の人間ではなく、遠くの村の人間に反応してしまう性質のものだ。

 それが分かってからはランスが誘き寄せるのも簡単だった。1匹あるいは2匹を誘い込んでは戦斧と槍で確実に撃破していった。ランスの槍は途中で2回ほど交換が必要だった。

 ワイトの正面に立って招き寄せるランスは村人からは勇気ある英雄的行為と見られ、賞賛を受けた。

 厄介だったのは番犬のワイトだった。戦斧では動きをとらえきれなかった。ランスがなんとか槍で仕留めた。生きている犬より動きが速いのでランスも怪我を負わされた。

 ビャペラの冒険者のワイトに関しては、村人のヘイトが集まって愉快な雰囲気になっていた。その頃には村全体に助かりそうという楽観が広がっていた。ノリがよかった。やっちまえーという声がかかるほどだった。

 コボルトの犠牲になっていた子供がワイト化した死体については逆に粛々と処理した。死体を埋葬しやすいようになるべく形を保っておきたかった。しかし後半はワイトが濃縮されて、どんなに細切れにしても動き続けるので、扱いが難しかった。危険がない程度まで小さくして、あとは村人の判断に任せた。手や足はいつまでも動いていた。

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