悪役令嬢? その2

「ファルラさん…? 」


最悪だ。


「は、はい。なんでしょう? 」


平然を装ってやり過ごそう。


「これは…ファルラさん、魔王を倒してくださったんですね! 」


「違います」


「いや、でも、なんでここにいるんですか?」


「えっと、たまたま通りかかっただけです。」


「こんなところたまたま通りかからないと思いますけど」


「あと魔王を倒したのはアリアさんです」


「なんで私たちが魔王倒したって言えるんですか? 見てたんですか?」


く、くそ…なんでこんな時に限ってそんなに冴えてるのよ…


「とにかく、助けてくださって、そして魔王を倒してくださって本当にありがとうございます! 」


そう言って土下座をしてくる。いや、空中なのだから空下座?


さすがにこれは無理だと観念した私は彼女たちを降ろしてから言った。


「分かりました。確かに魔王を倒したのは私です。でもそれはアリアさんたちが追い詰めたからで…なので魔王はアリアさんたちが倒したと報告してください。私は関係ないです」


これでアリアちゃんを邪魔する悪役令嬢としての道は閉ざされてしまった。

しかし、せめて世間的には悪役令嬢でいたい。


「…そこまで言うのなら、分かりました」


「ありがとうございます」


「でも、本当のことを言えば英雄になれるのに、何故? 」


本当のことを言えば嫌われるだろう。

でもそれは悪役令嬢として嫌われるのとは違う、望んでいるものではない。


だからあえて理由を言うのであれば…


「私が欲しいのは名声ではなくて、物語のような日常ですから」


プレイヤーのいない物語ほど大変なものはないと改めて実感した。


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翌日、これからについて考えていた。


アリアちゃんに対して悪戯するのはちょっと厳しいよね…

だからって他の人に対してっていうのも悪役令嬢とはまた違うような…


「ファ、ファルラ様! お、お、お…」


そんなことを考えていたら、侍女がとんでもなく慌てた様子で駆け込んできた。


「そんなに慌ててどうしたの? 」


「お、王族の使者様が…」


は?



そうして物語は冒頭に戻る。


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「ドラゴイド公爵家長女、ファルラ・ドラゴイド様。こちらへ」


悪魔とも呼ばれた私が今まさに、魔王を倒した英雄の1人として表彰されようとしている。

横にはにっこり顔のアリアちゃんと、怒りの表情で睨みつけてくる攻略対象3人衆。


もちろん、王宮に連れてこられてアリアちゃんと会った時はさすがの私も怒りを抑えきれずに問い詰めた。

するとにこやか顔で


「国王陛下に報告した時、他に協力者はいないのかって聞かれたので、倒したのは私だけどファルラさんが1番頑張ってくれた。と伝えました。あれ? 約束は破ってないのになんで怒ってるんですか?」


―だそうだ。

呆れて気を失いそうになった。

この馬鹿聖女を信じた私が本当の馬鹿だったようだ。


「ファルラ・ドラゴイド。この王国を救ってくれたこと、国王の名において感謝する。貴殿は王国の全貴族、そして全国民の模範である」


王よ、貴方はこの国の全員を悪魔にするつもりですか?


盛大な拍手に包まれながら…数人には睨まれながら、私は今世、いや前世も合わせて最も最悪な時間を過ごしていた。

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