私は悪役令嬢です

魔王討伐をしてからというのも、学園では疎まれるどころか仲良くなろうとしてくる生徒が増えた。

もともと公爵家ということで疎まれていても虐められるなどということはなかったのだが、魔王を倒したことで権威が限界突破してしまった。


「ファルラ様! お昼ご飯ご一緒しても? 」

「ファルラ様! 放課後空いていますか? 」

「ファルラ様! 今夜空いてますか? 」


たまに変なお誘いもあるが、全部丁重にお断りしている。


といった感じに、私の学園生活は悪役令嬢とは程遠いものになってしまっていた。

数人を除いては…


「見つけたぞ! 悪魔め!! 」


放課後。もともと特に当たりの強かったレードルは見かける度に詰め寄ってくる。

ここまで追いかけてくるとペットのようで可愛げがあるのだが、あいにく私には奴隷趣味などない。


「どうやってアリアをそそのかした? 」


「だから、何度も言いますけどそそのかしてません」


「わかった。お前が真の魔王ということだ! お前を倒す! 」


なんでそんな結論に至るのかが意味不明すぎる。


「えっと、もし仮に私が真の魔王だとして、偽の魔王に瞬殺されたあなたたちが私に勝てるとでも? 」


あ、今の台詞は完全に敵サイドだ。


魔法陣を構えて今にも魔法を撃ちそうな姿勢だが、さすがに勝てないと分かっているのか撃ってこない。

ここにいたらさらに厄介事が増えそうな気がしたので、さっさと帰ろうとしたが遅かった。


「ファルラ・ドラゴイド。やはり君が魔王だったようだね」


シュベルトが木の影から出てくる。

なんでこいつも同じ結論にたどり着いているんだ。


もういっその事学園もろとも破壊してやろうか。

そうすれば指名手配級の悪役令嬢になる。


「ドルク・ジーゼ…」


「もうやめろ! 」


魔法を撃とうとした瞬間、誰かが大声で叫んだ。

見ると、ディルケンが走り寄って来ていた。


「もうやめろ。ファルラは魔王を倒した。それで今は平和だろう? 」


ディルケンの意外な発言に、私を含めその場にいる誰もが呆気に取られていた。

最初に口を開いたのはレードルだった。


「ど、どうしたんだ? お前までこの悪魔にそそのかれたのか? 」


「こいつは悪魔じゃない。れっきとした王国の救世主だ。俺らだけでは魔王には歯が立たなかったんだ」


「ふ、ふざけるのも大概にしろ。僕らが、アリアがなんの為に産まれてきたんだ? 魔王を倒すためだろ? こんな異端児が救世主だって? 認めるわけが無いだろ!! 」


「いい加減にしろ! 俺は王国第2王子だ。言葉を慎め」


普段の彼からは想像もつかない厳しい言葉に、全員が口を閉じた。


なんだろう? これ、庇われてる…よね?

私は別に庇ってもらうほど弱くないのに、何故か嬉しいような気分になる。


「ファルラ、お前もだ。なんでも魔法で解決しようとするのはやめろ。 君の力は学園ごと全生徒の命を奪えるんだ。それで君がなんの罪にも問われないと思っているのか? 」


完全に私の心配をしてくれている。

ディルケン、実はかなり優しい人物らしい。


「レードル、シュベルト。とりあえずお前らはもう帰ってくれ」


彼らは悔しそうな顔をしながらも帰って行った。

彼らが見えなくなったところで、ディルケンは私を向いて言った。


「魔王を倒して疎まれることは減ったかもしれないが、それでもあいつらのようにまだお前を嫌っているやつもいる」


そして少し恥ずかしそうに目を逸らしながら


「つい最近までお前に対して散々なことを言っていた俺が言えることじゃないのは分かっているが、自分をもっと大切にしろ」


「…ディルケンさんは私が真の魔王だとか何か企んでいるとか思わないんですか? 」


「父上はずっと魔王のことで頭を悩ませていた。だから俺は魔王を一刻でも早く倒さなければと思っていた。だがあの時の実力では勝つことが出来なかった。つまり死んでいたんだ。そこにお前が来て、魔王を倒した。本当に感謝しているんだ」


彼の父、つまり国王のことだ。

国王とは表彰の時に少し言葉を交わしただけなのだが、国思いのいい王だという噂は聞いたことがある。


「恩人のお前を守りたい。それだけの事なんだ。そこで俺の今の実力を知っておきたい。1戦混じえてくれないか? 」


「…はい。構いませんよ」




「はぁはぁ、参った」


防壁魔法で彼の攻撃を全部防いでそのまま彼の目の前に魔法陣を展開した。


「やっぱり俺はお前の足元にも及ばないのか…」


魔法値が違いすぎるのでそんなに悔しがらないで欲しい。


「いえ、ディルケンさんの魔法の打ち方は効率的でしたので、戦術面で学べるところは多いです」


正直私は魔力値に頼ってめちゃくちゃにしてるだけなので効率が悪すぎる。


まだ悔しがっていながらも少し嬉しそうなディルケンを見て、本当に心配してくれていたのだと実感する。


「…ありがとうございます」


悪役令嬢として暮らすことが夢だったが、全ての人から疎まれることの厳しさを知った。あらためてゲームの中のファルラはすごいと思った。


「こちらこそ、本当にありがとう」


その上で、こうして自分を認めてくれる人物がいるのは、正直嬉しい。―アリアちゃんも含めて。


散々馬鹿だとか言っていたが、この世界のアリアちゃん、そしてディルケンはやっぱり大切にしたいと思った。


でも、それでも私は悪役令嬢だ。

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