悪役令嬢?

週末の休みの日、私は禍々しい塔の前に立っていた。

魔王のいる塔だ。

1人でこんなところに来ているのには理由がある。


それは放課後に学園内を散歩していた時のこと。

中庭を通り掛かったとき、4人ほどの話し声が聞こえた。


「でも、まだファルラさんが…」


ん? なにやら私の名前が聞こえた。

植木鉢に隠れて様子を伺うと、アリアちゃん、レードルにディルケン、そしてもう1人の攻略対象こと剣術の天才、シュベルトがいた。


「なんでそんなに悪魔を頼ることに拘るんだ? 魔王なんて俺たちがいれば敵じゃないだろう」


「ファルラさんは悪魔じゃありません! それに魔王はそんなに弱くないと思いますし…」


まさかもう魔王を倒す気でいるんじゃないよね!?


「シュベルトが魔王討伐を手伝ってくれると言っているんだ。この機会を逃す手はない」


「僕の実力を疑っているのか? それなら手を貸すことは出来ないな」


あぁ…シュベルトってこういう面倒なキャラだった。

ストーリー上攻略必須だから仕方なく攻略したけど、嫌いなキャラナンバー1だった。


「魔王一刻も早く倒すことは聖女の役目なんだろ? それならば明日にでも魔王を討伐することが最善策だ」


今明日って言った!?


彼らには魔王を倒すのに圧倒的にステータスが足りてない。

ただでさえ入学前に7年間ぶっ通しのトレーニングをして来なかったにも関わらずまだ入学後1週間と少ししか経っていない。


「聖女の役目…分かりました。行きましょう…! 」


あーあ、上手いこと口車に乗せられている。 プレイヤーのいない主人公とはここまでなのか…


普通に考えて、このまま行けば残るのは死のみ。

アリアちゃんがいなくなればこの世界のコンセプトともに私の生きがいは消え去ってしまう。


なんとかしなくては。




ということで、私は今魔王の塔に来ているのだ。


「とりあえず幹部は倒しておくか…」


魔力値カンストの私にとって、幹部を倒すのは簡単だった。

低級魔法を2、3発適当に撃っておけば倒せた。


ついでなので、塔内の危険そうなトラップと魔物は全部排除しておいた。


そんなこんなで待っていると、不安そうな顔のアリアちゃんと張り切る3人の元凶が歩いてくるのが見えた。


「<影無>」


姿を消して、塔に入っていく聖女一行に着いて行った。


彼らは幹部どころか魔物の一体もいない塔に不思議がっていたが、その安全な道をどんどん進んでいき、魔王の部屋の前にたどり着いた。


「ついに魔王との決戦だ。みんな、準備はいいか!? 」


ただ歩いてきただけなのに、あたかも連戦をくぐりぬけてきたかのような掛け声にさらに不安を覚える。


中に入ると、いかにもな格好で鎮座する魔王がいた。


「ふはははは、我の下僕たちを倒し、よく来た。褒美に我が直々に貴様らを葬ってやろう」


「そんな口を叩いていられるのも今のうちだ! 聖女と俺たちの力の前にひれ伏せ!! 」


実際には魔物の一体も倒していないのに、どこからそんなセリフが出てくるんだろうか。

やっぱり聖女含めて全員馬鹿なようだ。


決着はすぐに着いた。

最初こそアリアちゃんの光属性の魔法もあって押しているように見えたが、魔王の最初の一撃で全滅した。


あーほら、言わんこっちゃない。


さすがに死んではいないようだが、気絶している以上もう放っておけない。


<影無>を解除し、魔王の前に姿を現す。


「ん? 誰だ? 貴様、いつからそこにいた?」


「一度に2個も質問しないで欲しいですね。そこの聖女だったら答えられてないですよ。私はファルラ・ドラゴイドです。彼女らがここに着いた時に一緒に来てました」


「…<影無>か。それも精度の高い。貴様、相当高い魔力値を持っているとみた。どうだ? 我の仲間にならぬか? 」


お決まりの文句を貰った。

世界の半分でも貰えるのかな?


「丁重にお断りします」


「そうか、ならば仕方がない…我が直々に…」


「<闇極砲>」


魔王が言い終わる前に中級魔法と上級魔法の中間レベルの魔法を叩き込んだ。

魔法弾は魔王を跡形もなく消し去った。

このまま聖女一行の手柄にしてハッピーエンド。


という希望は叶うことがなかった。


威力を少々間違えたようだった。

魔王を葬った魔力弾は塔を粉々にするには十分な威力だったようだ。


「っっ、やばい! 」


足場を失い落下し始めた一行を、<浮遊>でなんとか助けるが…


「ファルラさん…?」


塔の崩壊音はちょうど良い目覚まし音だったようだ。


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