波乱の学園生活

それからは足をひっかけて転ばせたり(普段から転んでるので気づかれなかった) 食事に激辛ソースを混ぜたり(辛いもの好きだった) など、とにかく嫌われようと努力したのだが、全て無駄な努力に終わった。


むしろその度に私に詰寄るレードルに怒るアリアちゃんという構図ができてしまい、ゲームのシナリオが崩壊しかけている。


そんな日々を過ごして1週間が経った。

入学1週間は基礎魔法の座学をしていたが、今日から実技が始まることになった。

それに合わせ、私の魔力再計測も行われたのだが……



「ファルラ・ドラゴイド様、ま、魔力値…999…」


これにはさすがの私も驚いた。MPカンストなんてゲームを普通に進めていたら起こりえない状況だからだ。

確かにレベルという概念のないこのゲームにおいて、能力値の限度は999、つまりカンストしかないのだが、何年ゲームを続ければそんな状況に達するのか…


いや、実質私は今までの人生、7年間ゲームを休む暇もなく続けた状況なのだ。

ファルラの魔法の才能も合わせて考えれば妥当な数字だ。


「ファルラ嬢…さすがにこの値はおかしいですよ。小細工などして何になるのですか? 」


そんなことを知る由もない学園長とその他は冷たい視線を向けてくる。完全に呆れられている。



それに加えて実技クラスては、教師が一人一人に魔法の打ち方を教え、生徒が的に向かって打つということを繰り返している。


ついに私の番が回ってきた。

魔法を撃つのを躊躇っていると、


「ファルラさん、魔力値が随分と高いようですけど、魔法の撃ち方知らないのですか? 」


ちがう。こんな狭いところで魔法を撃ったらこの場にいる全員死んでしまうから躊躇ってるんです。

そんな私の心の声も届くことなく、教師は魔法の撃ち方を私に教え始めた。

あぁ、めちゃくちゃ煽られてる。

あぁもう…撃てばいいんでしょ。


とにかく最低威力の、魔力をギリギリに抑えて…


「<闇小砲ドルク・カノ>」


小さな魔力弾が的に向かって一直線に飛ぶ。

魔力の調整は上手くいったと思った。ただしちょっとの誤算があった。

魔力弾は的のど真ん中に見事命中した。しかしそれで止まることなく教室の壁をつきぬけ、破裂した。


やってしまった…教室にぽっかりと空いた穴を呆然と見つめる教師、生徒一同の目を盗んで教室から脱出した。



そんな事があってから、周りからの視線は軽蔑から恐怖に変わっていた。

悪役令嬢としてはいいこと(?)なのだが、1番恐怖を覚えて欲しい人物にはまるで効果がなかった。


「ファルラさん! やっぱり私は間違ってませんでした! ファルらさんがいれば魔王なんて敵ではありません! 」


聖女ことアリアちゃんだ。

食堂で昼食を食べていたところを捕まえられた。


「私が使える魔法は闇魔法です。闇魔法の使い手を魔王討伐パーティーに入れるなんて正気ですか?」


「うーん、魔法の属性とかよく分かんないんですけど、私の魔法も光魔法ですし、似たようなものなので大丈夫です! 」


光と闇は対極です。全然似たようなものではありません。


無意味な討論をしていたら、凄い形相で近づいてくる生徒が1人。


「おい! 今すぐアリアから離れろ、悪魔め! 」


そう言ってくるのは、確か攻略対象その2こと王国第2王子、ディルケンだ。

第2王子なだけあって、ゲームではもっと目立っていたのだが、私のせいで霞んでしまっている。ごめんよ、悪気はないんだ。


「私は人間です。あと私が近づいたわけでは…」


「そうです! ファルラさんは救世主です! 」


いや、ただの悪役令嬢です。


「救世主? 黒髪に赤眼に闇魔法使いのこいつが? 」


はい、だから私は悪役令嬢です。


「ディルケン様まで差別を!? 見損ないました」


まずい、レードルに続きディルケンまでアリアちゃんに嫌われてしまえばもう悪役令嬢どころではない。


「本当に大丈夫ですから、アリアさんはディルケン様と仲良くしてください。それでは私はここで」


これ以上争いを生まないためにその場を離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る