悪役令嬢は嫌われたい
「ともに魔王を倒していただけないでしょうか? 」
さすがに耳を疑った。
いや、聖女なのだからともに魔王を倒すパーティーを作るのは当たり前なんだけど、問題はそこではない。
「えっと……なんで私なんですか…? 自分で言うのもなんですが、悪魔の子なんて呼ばれてますよ? 」
まだアリアちゃんに危害は加えてないけど、ここまで疎まれている私を魔王討伐パーティーに入れていいの?
「なんでって…ファルラさんの魔法値、すごく高いじゃないですか」
「…疑ってないんですか? 」
「恥ずかしながら、私は聖女って呼ばれてるくらいなので、相手の能力値がわかるんですよ―大体ですけど、ファルラさんの魔力値は今まで見た人の中でも最大値です」
あ、確かにゲーム内でバトル時に敵のステータス見えるけど…あれ主人公の能力だったんだ。
「だ、だとしても…そもそもなんでこんな時期から勧誘を? もうすこし周りの人を攻略…じゃなくて知ってからでもいいのでは? 」
「いえ、明らかにファルラさんはほかの方と比べてもとてもお強いので、できるだけ早くお誘いしておきたくて…そんなことはないとは思いますけど、いつかファルラさんと戦うことになんてなりたくないですし」
図星をつかれた。
ゲームでは攻略対象とパーティーを組むことになっていたし、それもどんなに早くパーティーを組んでも入学後3週間は立っていたはず。いうまでもなく、ファルラは攻略対象ではない。
どちらにせよここでパーティーに入れられてしまえば悪役令嬢なんてできなくなってしまう。
「と、とにかく、まずは学園生活になれてからでも遅くはないと思います! 」
そう言ってまだ諦めてないアリアちゃんを部屋から出す。
「また来ますからね」やら「仲良くしましょう」
と、税金取り立てやら宗教勧誘並の執着心を見せて去っていった。
見ると、侍女が顔面蒼白だった。
聖女が少なくとも正義ではない見た目の私にパーティー勧誘なんて、普通はそういう反応なんだよね。
……かなり面倒になった。私はあくまでも悪役令嬢としてアリアちゃんをいじる立場にいたいのだが、パーティーに入ってしまえばそれも叶わない。
とにかくなんでもいいから悪役令嬢っぽいことをしてアリアちゃんに嫌われよう。
そうすればパーティー勧誘もやめてくれるはず。
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翌日、学園生活初日が始まると共にいち早くまだ誰もいないアリアちゃんの教室へ行き、黒板に思いつく限りの悪口を書いた。
ただアリアちゃんに恨みがあるわけでもなんなら嫌いな訳でもないので中身のない悪口だ。
そして犯人が私だと知られないとアリアちゃんに嫌われることは出来ないので、クラスは違うのに教室の前で待っていた。
しかし、1番最初に来たのはアリアちゃんではなく攻略対象その1こと超イケメン貴族長男レードルだった。
彼は黒板を見るなり私をすごい剣幕で睨みつけてきて近付いてきた。
そのまま胸ぐらを掴んで
「おい貴様、アリアの悪口を書いたのはお前だな? 」
これは都合がいい。ここで彼にも悪印象を与えれば、そのままアリアちゃんと彼の仲が近づくかもしれない。
「はい。そうで……」
「レードルさん! 何してるんですか!! 」
アリアちゃんが走り駆け寄ってくる。
「アリア! こいつがお前の悪口を……」
「悪口? 」
アリアちゃんが黒板を見る。
「こ、これって…」
勝利を確信した。
「なんて書いてあるんですか?」
「「は?」」
あまりにも拍子抜けな返答に2人の声が重なった。
あぁ…そういえば、前世の世界でも中世のヨーロッパの識字率はあまり高くなかったような……
彼女は聖女として特別にこの学園にいるだけで、元はと言えば庶民なので字が読めなくても仕方がない……ともいえる。
「とにかく、レードルさん、ファルラさんを離してください! ファルラさん、大丈夫でしたか? 」
「い、いや、だから! そいつがアリアの悪口を…」
「ファルらさんが悪口なんて言う訳ありません! 見た目で差別するなんて酷いですよ! 」
「いや、本当に…」
弁明しようとする私の声もかき消される。
「ファルラさん、レードルさんは根は悪い人ではないんです。許してあげてください。」
「ア、アリア! ちょっと待て! 」
アリアちゃん、人の話聞いて…
そんな私の願い虚しく
「ところで、魔王討伐の件考えてくれましたか? 」
無駄とわかってながら、一応丁重にお断りした。
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