第10話 3度目は仕組まれたもの

ずっと和式の玄関や廊下を通って来たから、てっきり部屋の中は畳だと思ったら、フローリングの床に、ソファや大きめのデスクが目に飛び込んできて驚いた。


そして、そこには、着物姿ではない風早さんがいた。


ソファに座って、iPadを見ていた顔が、ゆっくりとこちらを向いた。


「いらっしゃい。司の友達? 初め……まして」


目が、合った。


風早さんが、微笑んだ。


「何? ふたりは会ったことあるの?」


「月島美雪さん、だよね?」


「はい」


「なんだ、知り合いなんだったら話でもしたら? 藤原さん、あっちに親父がいけたやつあるけど、見に行く?」


「見たい! いいの?」


「いいよ」


そう言うと、風早司は愛梨を連れて行った。


「入ったら?」


風早さんに声をかけられ、部屋に入ってドアを閉めた。


「会うの、3回目」


「そうですね」


「これって、もう運命だよ」


風早さんがわたしに笑いかけてくれた。



ずっとテニスのことだけで、男の子のことなんか考えたこともなかった。

高校を中退してからは、そんな気持ちの余裕なんてなかった。

大学に入ってからは、何度か誘われて遊びに行ったこともあったけれど、楽しいのか楽しくないのかもよくわからなくて、連絡もしなくなった。



そんなの楽しいわけがない。



だって、わたしは、あの雪の日から、この人に恋をしていたのだから。



「月島さん?」


風早さんが近づいてきて、自分の指でわたしの涙を拭った。

それで自分でも気がつかないうちに涙が出ていたことに気がついた。


「ごめん、家だとハンカチとか持ち歩いてなくて……そうか、ティッシュならある」


風早さんが慌てて、デスクに置いてあったティッシュを箱ごとわたしの前に差し出した。


「何か、あった?」


心配そうにわたしの顔を見ているその顔を、間近で見てしまった。



すぐに、この場を離れた方がいい。


何も言わないで、すぐに……


そう、頭ではわかっていたのに……



「また、会えたから」



自分のその言葉で、罪を負った。


この気持ちに嘘はないけれど。


自分から選んだ。


この仕組まれた出会いを『運命』だと言ってくれた、この人を、騙すことを。

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