第5話 手紙
教室に入って席に着くと、すぐに友達の藤原愛梨がわたしを見つけて隣の席に移動してきた。
「美雪、もう学校出て来て大丈夫なの?」
「うん……まだちょっと痛いけど、全然大丈夫」
「尊敬する」
「何が?」
「だって、全然知らない人のために、通院とか入院とかして、今だってまだちょっと痛いんでしょ? 針の痕消えた?」
「まだ残ってる。でも半年もたてば消えるって言われたし、もし残ったとしても小さい痕だから気にならない」
「わたしにはムリだわ……怖い」
「でも、手術は全身麻酔だから」
「いやいや、その前も後も大変じゃん」
「でも、わたしのたったちょっとの時間で、誰かの一生が救われると思ったら、意味がある」
「やっぱり尊敬する」
「そう思ってくれるんだったら、休んでた間のノート見せて」
「いいよ、まかせて」
20歳を迎えてすぐに、骨髄バンクから手紙が届いた。
それからはめまぐるしくて、コーディネーターの人からいろんな説明をされて、病院での検査や、面談、父の同意……
随分手続きには長い時間を要した。
夏頃になってようやく全てが終わって、4日間の入院後、学校に来ることができた。
入院中、少し体調を崩してしまったけれど、すぐに良くなったし、退院後しばらくして、風早恭一さんも誰かから骨髄移植を受けることができて、順調に回復しているというニュースを目にして元気が出た。
どこかの誰かが、わたしのようにドナーになって、彼を救ったんだと思うと自分が役に立てたような気分になって嬉しかった。
移植を受けた側も、提供した側も、お互いの情報は知らされない決まりだけれど、大学が夏休みに入ってしばらくして、直筆のサンクスレターが届いた。
年齢も、住んでいるところも、個人情報がわかるようなことは何も書かれていない。知らせてはいけないから。
でも、その手紙は……
特徴的な漢字の跳ね方に見覚えがあった。
きっと勝手な思い込み。
そう思いたいだけ。
でも、あの日もらった、名前と電話番号が書かれた紙の字と、手紙の文書の中にあった『早く元気に』の『早』という文字、『風邪をひかれないように』の『風』という文字は同じに見えた。
あり得ないと思いながらも、考えずにはいられない。
わたしがドナーになった相手は……
風早恭一さんかもしれない……
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