第12話

 冒険者ガイドブックによると、“シェールの小川”には“キラーバラクーダ”という殺人魚や“水魔マーマン”といったモンスターが出没するとのこと。また、上流にある滝壺や清流に行けば行くほど食用に適した川魚が生息しており、モンスターの危険に対処できる中級以上の冒険者たちには割と人気な釣りスポットになっているそうだ。


 ということで、シェールの小川に辿り着いた俺とアルシアは、とりあえず身を隠せるベースキャンプを探すことにした。狩に慣れたら釣りも楽しみたいので、食用の川魚が生息する清流や滝壺付近が望ましい。


 と思って上流の方向へ散策を続けていたら。初心者には見えない中年の冒険者たちがまばらに釣り糸を垂らす開けた滝壺が見えてきた。そこを避け、木立の中の迂回して歩いていたら、人気のない小さな洞窟を発見した。洞窟の中を見ると特に何かが潜んでいる様子もなかったので、この洞窟をベースキャンプにすることにした。


 洞窟の中で空間収納(小)からゴザやら簡易竈やら簡易布団やらを取り出し、キャンプの準備を整える。


「で、これから何するの? わたし釣りがしたいんだけど! お魚食べたい!」

 と顔を輝かせるアルシア。この子はこんなに可愛いのに色気より食い気、花より団子のようだ。

 俺の勝手な、しかしアルシアや街の人たちの話を総合した結果、かなりの確度をもった予想によると、これは第二王子アグニス様の苦労も相当なものと推察される。


 つまりアグニス様はアルシアに惚れているが、この鈍チンのアルシアちゃんはそれに気づいていない。アグニス様は再三困窮するアルシアの支援を申し出たそうだが、アルシアは頑なに自分の力で強くなって王家に育ててもらった恩を返すの一点張り。アグニス様もアグニス様で「お前に惚れている、俺の嫁になってくれ」と言う勇気を持てなかったのか、今の今までずるずると来てしまっている。そんなところだろう。


「まあいずれにせよ強くなって王家に奉公すれば、自ずと道は開かれるか……」

「なんのこと?」

 首をかしげるアルシア。この鈍チンめ! だがここで俺が真実を伝えるというのは、いささか無粋というものだし、まだ少年と言って差し支えないアグニス様が乗り越えなければならない壁でもあるのだ。


「いや何でもないよ。これから何をやるのかを決める前に、とりあえず偵察だ。敵を知り己を知れば、百戦危うからずってね。俺の国の言葉だ。ということで、いでよ影鷹!」

 ボフンと影から影鷹が飛び出した。別に呪文とかはいらないので、これは雰囲気だ。


 影鷹は、「ちょっと空から偵察してきてくれ」という俺の指示で岩陰から空高く舞い上がっていった。


 それからしばらく待つこと数分後、俺の頭の中に影鷹が空から滝壺付近を俯瞰している映像が流れ込んできたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る