第11話

「さあ、今日も気を引き締めて狩をするぞ! えいえい、おー!」

「えいえい、おー! シャーデン、これでいいの? うう……、なんかこれ恥ずかしいんだけど!!」

「おう、中々いい感じだと思うぞー」

 と涼しい顔(の体)の俺。


 初心者冒険者の定番狩場“リアス草原”のど真ん中。それなりの数の冒険者がいる中、ちょっと恥ずかしそうに足をもじもじしながら右手を腰に、左手に魔道具パンツもといシュシュを巻いた状態で左拳を突き上げるポーズとともに「えいえいおー」の気合いのかけ声を発するアルシア。


 実はこの馬鹿みたいな行動は俺なりに計算があってのことだった。あえて馬鹿な姿を他の冒険者に晒すことでピエロを演じて油断を誘う、俺の生前からの十八番おはこ、敵のシャーデンフロイデを喚起して油断を誘う作戦の一環だ。

 事実、アルシアをイジメていた冒険者たちは呆れ顔で、あるいはニヤニヤと馬鹿にしたような表情でアルシアを遠巻きに眺め、ヒソヒソと話していたのだった。しめしめだ。


「じゃあ新スキルを試すとしますか。影獣(鷹)!」

 もちろん自分たちの本当の実力を晒すほど馬鹿ではない。いつもの木立と窪みで身を隠せる場所に移動した俺とアルシアは、さらに念には念を入れて誰にも見られていないことを確認した上で、新しいスキルを試すことにした。


 スキルを発動すると、アルシアの影から3メートルくらいのデカくて真っ黒な影鷹が出て空中でホバリングを始めた。続けて俺はいつもの影狼を出し、「影鷹は敵を探しつつ影狼の方に追い立てろ」と指示。すると影鷹とピルルル〜と返事をして大空へ舞っていった。


 しばらくすると、影鷹から獲物を発見したとの報告が入る。何といったら良いのか、影鷹が言語をしゃべったというよりも、草を食む草原鹿グラスディアーの親子の映像とともに思念が流れ込んできたという感じだ。


「影狼、あっちの方向から影鷹に追い立てられた草原鹿グラスディアーが来るので仕留めろ」

 すると今度は影狼がアオーンと一鳴きし、あっちと俺が思念で指示した通りの方向に駆けていったのだった。


 待つことしばらく。

「私、することなくて暇だなあ〜」

「獲物が取れたら、魔石だけはとらないといけないから。あと気抜いてると、ケガするからな?」

 そんな呑気な会話をしていると、影狼と影鷹が戻ってきた。影狼が親の草原鹿グラスディアーを引きずってきており、影鷹は小鹿を鍵爪に掴んでいる。


「草原鹿も一応魔石もちの低級モンスターだったな。これから川にも行くし、アルシア、魔石の抜き取りだけ頼むわ」

「うん、わかった!」

 ようやくやることができたアルシアは、俺が空間収納からペッ! と出した解体用の皮手袋とナイフを手に腹を掻っ捌いて魔石の取り出しにかかったのだった。


 その間、影狼と影鷹を引っ込めた俺は闇魔法(小)で何ができるかの実験をすることにした。結果、影を伸ばして敵を拘束する“シャドーバインド”、影を槍のように突き出して敵を貫く“シャドーランス”という技というか魔法が使えることがわかった。これで新たな攻撃と防御の手段が増えたことになる。


 一通り実験を終えた俺は、取り立てほやほやの草原鹿の魔石を食べ魔力を回復した。草原鹿は魔石を取り出されただけで血抜きもされていない状態だったけど、空間収納内では腐らないので、そのまま獲物は放り込む。


 さて新スキルの実験も済んだことだし、次は冒険者ガイドブック通りに“シェールの小川”に行ってみよう。

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