第10話

「アルシア、今日は軽く“リアス草原”で新しいスキルを使ってから、次の狩場に行こうか。ガイドに書いてある“シェールの小川”が良さそうだと思うのだが」

 冒険者ギルドが初心者用に配布しているガイドブックによれば、初心者はリアス草原、少し慣れたら必要な素材や狩りたいモンスターに応じて“シェールの小川”か“ネテラの沼地”に行こう! と書いてあった。ちなみにガイドブックはノルドからもらったものではなく、市で鑑定スキルを発動したところたまたま二束三文で売っているのを見つけたものである。冒険者ギルドの嫌がらせはこんなところまで及んでいるのかと思うと、逆に燃えてくるな。


「川に行きたいわ! 魚釣りとか楽しそうだし!」

 俺の提案にハイテンションになるアルシア。“シェールの小川”はモンスターの出る狩場と書いてあるし、そんな楽しいピクニック気分にはならないような気もするけど、無邪気に喜ぶアルシアが可愛いので今はこのままにしとこう。冒険の準備をするときに、ちゃんと気を引き締めさせればいい。



 それから宿を出た俺たちは、新しい狩場に行く前に素材を取引した馴染みの“ガイアス武器防具店”で装備を新調することにした。

 

 夫婦でお店を切り盛りしているお店には、ちょうど店主のガイアスさんと奥さんのエリナさんがいたので装備の相談してみたところ、水耐性の高いネテラリザードの硬皮で作られた“ネテラリザードシールド”、沼や川にはそれなりに毒のあるモンスターがいるらしいので“毒耐性(小)リング”、今まで素手で魔法を使っていたのを最低限威力を底上げしてくれる“古木のワンド”があると良いだろうとのアドバイスがもらえた。

 冒険者ギルドなどよりもよっぽど頼りになるな。ギルドの存在意義とは一体……。


 それはさておき、店主のガイアスさんがカイゼル髭を生やしたおっちゃんだったこともあるのだろう、その崩れた相好から装備価格にアルシアの「美少女おまけ補正」が入っていることが丸わかりだった。

 さらにこれまでリアス草原で狩った素材の取引をしている「お得意さん補正」も入り、“ネテラリザードシールド”4500ワルド、“毒耐性(小)リング”5500ワルド、“古木のワンド”5000ワルドのしめて15000ワルドと格安の値段で装備を譲ってもらえた。これで残金は10530ワルドだ。


 アルシアにちょっとだけデレデレするガイアスさんに目力の強い迫力美人なエリナさんが「あなた……?」と目が笑っていない笑顔で問いただしていたのが物凄く怖かったけど、これは正直俺たちのせいではない。

 それでもエリナさんはこれまで不憫なアルシアを娘か妹のように可愛がってくれていて、特別扱いしてくれること自体に反対はしなかった。結局いい人たちなんだなと思うので、これからもガイアス武器防具店はご贔屓にさせてもらおう。とりあえずなんだ、ガイアスさん夫婦円満のため頑張ってくれ。


 ガイアス武器防具店に別れを告げた俺たちは(俺が意思ある魔道具であることはバレてない)、これから川に行くつもりなので、釣り用の丈夫な糸と木の長枝。川や沼では毒をもったモンスターが出るそうなので解毒ポーション1瓶を市場で適当に800ワルドで見繕い、新スキルの実験のためリアス草原に向かったのだった。

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