第13話

 影鷹から送られてきた映像には、休憩がてら滝壺で暇そうに釣りをしている冒険者パーティーが3組。さらに滝の上流には誰もおらず、水面に沢山の魚影とモンスター“水魔マーマン”たちが鋭く長い爪に突き刺したアユやイワナをのんびり食べている姿が映っていた。


 あ、殺人魚キラーバラクーダがアユごと水魔の顔に食いついてら。なかなかカオスな狩場だ。


 川周辺の森には真新しいモンスターなどはおらず、それらを狩るならリアス草原で事足りそうという感じ。


 なるほどねー。ここはまたあの作戦でいくか。


 俺は影狼を追加で出すと、影鷹とともに滝の上流にある狩場で狩をさせ、獲物をこちらに届けるように指示。


「じゃあアルシア、俺たちはのんびり釣りでもするぞー」

「え、いいの? やったあ!」

 ぴょんぴょんと無邪気に喜び飛び跳ねるアルシア。この子のこういった純粋さは無くさないでほしいので、人間のまさにシャーデンフロイデやその逆の醜い嫉妬のようなドロドロしたものにはなるべく無縁でいてほしい。だからそういうクソみたいな感情を知り尽くした俺が、なるべく彼女が健やかに暮らせるように心をくだこうと思う。


 アルシアは根本的に俺とは全く別の人種で、俺が隠属性だとすればアルシアは完全に陽属性だ。だからこそ俺は、俺にはないものを持っているアルシアを眩しく感じるし、憧れもする。

 地を這いつくばる醜い毒虫が、太陽の下羽ばたく蝶を羨ましく思うように。だから俺と同類の醜い毒虫どもにアルシアを汚させたりなんかするもんか。


 そしてアルシアのような陽属性の人間には、同じく育ちの良いアグニス王子のような陽属性の人間が間違いなく似合う。アルシアに例えばそんな素敵な未来が訪れれば、こんなに素敵なことはないだろうと思ってる。


 そう、世の中にはどんなに憧れたところで、決して手の届かないものがあるんだ。俺は分をわきまえることを知っている。だからこそ俺は、クラスでピエロを演じてあえて自分を下げ他人のシャーデンフロイデを利用してきたわけだし、スクールカースト上位の初恋の女子に告白して付き合おうみたいなバカな夢も早々に諦めた。俺の短かかった前世はずっとそうだった。


 そしてそのスタンスは転生する前と今とで何ら変わることはない。魔道具? チートがあるからモテるだって? モテる男は心根からしてイケメンなんだよ、夢見てんじゃねーよと言わせてもらいたい。


 俺は決して手の届かない素敵女子の恋愛が成就するよう全力でサポートする。もし徳ポイントとやらを稼ぎこちらの世界に再び人間として転生できたなら、俺が昔ちょっといいなと思った美少女がイケメン王子と幸せになっていると風の噂を聞きつつ、俺は俺で一人自由気ままな第三の人生を送るつもりだ。


 それが分をわきまえてる生き方ってもんだろ?


「もちろんだ。見た感じアユとイワナがいるから、後で焼き魚にして食うといい。あと釣り場には他の冒険者もいるから、何か言われた時のセリフと対処法を教えておくぞ」


 とはいえこのまま俺が指示を出し作戦行動をとり続けることで、アルシアの心が汚れてしまう恐れもある。だがこれまでのアルシアの様子を見ればきっと大丈夫。今だって真剣な表情で俺の言うことに頷きながらメモをとっている。俺の言う通りに行動した結果今があるので当然なのかもしれないが、俺がちょっといいなと思っている彼女は今日も気持ちのいいくらい真っ直ぐだ。


 さて、そろそろ次の行動に移るとしよう。ベースキャンプ作りを一区切りした俺とアルシアは、シャーデンフロイデ作戦の仕込みをするべく滝壺の釣り場に向かった。

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