第8話

 アルシアはとりあえず機嫌を直してくれたようで、なんとか無事に仲直りすることに成功した俺は、もう一つの懸案事項を伝えることにした。


「そういえば昨晩野盗っぽいオッサンが寄ってきたから影狼で追っ払っておいたんだけど、荒くれどもの界隈で噂になってるかもしれないし、もうあの廃墟で野宿はしない方がいいと思うぞ」

「ええっ! 何それ、きもっ!」

 下卑た笑みを浮かべる小汚いオッサンに寝込みを襲われるところでも想像したのだろうか。アルシアは半泣きになりながら自分の体を抱きしめる。


「じゃあ、さっさと鍵付きの宿屋でも探そうぜ」

「うん、そうする……」


 結局アルシアが選んだのは、前に金が払えなくて追い出された初心者冒険者御用達の安宿、“雀の涙亭”だった。鍵付き四畳一間ベッドのみの部屋に素泊まりで銅板2枚20ワルド。黒パンと野菜クズスープというあまり食指の進まなそうな、どうにか朝食と呼べるような代物が付いて銅板2枚銅貨5枚25ワルド。


 それでも廃墟で餓死しかけていたことを考えれば、朝食があるだけありがたいというもの。アルシアは朝食付き10日分の宿代銀貨2枚銅貨5枚250ワルドを恰幅が良くオレンジ色の癖っ毛を後ろで束ねた宿屋の女将さんに支払い、ようやく部屋で人心地つくことができたようだった。


 ベッドに横になったアルシアは、廃墟暮らしで溜まった疲れがどっと押し寄せてきたのだろう、一瞬でスヤスヤと寝息を立て始めた。


 暇を持て余した俺は空間収納(小)に入ったアイテムやお金の残りのチェックをしたりスキルツリーを眺めながらどのスキルからとっていくべきかを考えたりと、元ゲーマーにとって中々に楽しい時間を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る