夏休み集中特訓 Part1

第45話 新しい自分 1年生【7~8月】

コンクール地区大会、県大会への切符を手にしたのは10校のうち2校。

当然のように双葉高校は全体1位で通過したらしい。


そんな現実と向き合い、それでも俺たちがした『決意』は変わらず心に火を灯す。

今日からコーチ陣にもできる限り来てもらい、本格的に特訓を始める。

基本的に1週間のうち、ほとんどがパートごともしくは金管・木管の合同練習。

週末に合奏練習を設けている。


今日の指導者は、結城兄弟と俺。

トランペットは学に任せるとして、他の金管は秀にお願いするか。

木管は明日コーチ陣に見てもらえるから、その準備だな。

パーカッションはもちろん俺が徹底的に教え込む。覚悟しとけ、吉川。


「おはよう、みんな体調は万全か?」

「もちろんです!」

「睡眠もごはんもバッチリですよ!」


部室に入るとエアコンの涼しさがあるのに、部員たちの熱気がすごい。

ちゃんとモチベーションになったようで何より。


「今日からの練習は、今までと全く別物だと思ってくれ。覚悟をもって挑んでほしい」

「先生、なんだか嬉しそうですね!」

「そうか?まぁ、やりがいがあるってことだ」


自然と顔が緩んでいたか。

だが浮かれている暇はない。

昨日夜ふかしして作った書類の束を手に、俺は吉川を連れて楽器室へ。


「これが楽器室にある打楽器の一覧、こっちは基礎練用の譜面、んでこれがよく使う譜面記号の一覧と解説な」

「わぁ、こんなに!ありがとうございます!」

「お前は他のみんなより基礎知識が足りない。まずは勉強、そしてこの譜面で実践。その反復で格段に変わるぞ」


ここの楽器室はそう広くはない。

楽器の数もそこそこ。覚えるのが早い吉川なら楽勝だろう。


「同じような見た目の楽器でも、こんなに種類がたくさんあるなんて…なんかすごいです!」

「名前全部暗記しなくてもいいからな」

「いやいや!愛着が湧くので、あだ名つけて覚えますっ!」


俺の想定とは違う反応が返ってきた。

吉川は目を輝かせて、資料と実物を見比べながら何やらブツブツ言っている。


「2枚の『シンバル』をぶつけ合うと豪快でアクセントになる音…なのに1枚をスタンドにセットしてマレットで叩くと全然違う音になる!何これ…楽しすぎます!!」

「シンバルは種類が豊富だからな、音色もひとつひとつ違うよ。ほら、ドラムセットの左右のやつも――」


吉川はひとしきりシンバルの音の違いを楽しんでいた。

まるで新しいおもちゃを与えられた子どものようで、なんだか微笑ましかった。


「この子たちと夏休み中毎日練習できるのかぁ…ワクワクしてきました!」

「そうだな、良い機会だろ?」

「はいっ!こっちの譜面記号も、なんでこんな形なんだろ?とか気になるので、じっくり読みたいです!」


吉川は、早速椅子に腰掛け机に資料を並べて、黙って読み始めた。

ページをめくる音が静かな楽器室に漂った。

楽しく夢中になれるものに出逢ったとき、俺もこうだったなと、ふとあの頃を思い出した。

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