第8話 天才と呼ばれた男
高校に入学しても、推薦枠ということもあり『天才』呼ばわりされた。
俺にとっては褒め言葉でもないのに。
でも父さんから言われたように、やりたいことをやればいい。
勉強はギリギリだったが、部活の練習だけは何よりも集中していた。
だから高校の思い出はあまりない。
ほとんど吹奏楽しかやってないし、仲の良い友達もできなかった。
中学でも高校でもコンクールには出場したが、上位大会には進めなかった。
だけど高校でパーカッションをやっていて思ったことがある。
俺は一生パーカッションに関わっていたい、叩き続けたいと。
それくらいドラム以外の楽器も好きになっていたし、やりたいと思えた。
自分なりに進路について調べてたどり着いた答えは、プロ奏者になること。
これこそが夢であり目標だ、とそのとき確信した。
そして俺は音大に進学する決意を固めた。
父さんにそのことを報告すると、音大の受験対策を練ってくれた。
俺に興味がないと思っていたが、そうでもなかったらしい。
そのおかげで、俺はトップクラスの成績で音大に合格した。
音大に入ってからも楽器にしか興味がない俺は、周りから避けられるようになった。
どうやら高校の頃の噂だとか、そういうのが好きな奴らもいるみたいだ。
「あいつ、高校の頃『天才』とか呼ばれてたらしいよ。絶対調子乗ってるよな」
「
「そういう奴多いもんなぁ。てか課題マジしんどいわ」
音楽好きで入ってきてんのに課題が大変だって言うんだったら、噂話してる間にもっと練習しろよ。こいつらバカじゃねーの。
俺はいつもそう思っていた。
見下してるわけじゃない。練習しないで愚痴ほざいてる奴に腹立つだけ。
テストやコンサートになれば、練習を積み重ねた分だけ実力に差が出る。
俺は毎回コンサートメンバーに選ばれた。
コンクールの出場は何度も打診されたが断った。
俺と対等に渡り合える奴がいないからだ。
しかし音大でも音楽だけやっているわけにはいかなかった。
でも音楽が大好きな俺は、音楽に関わる勉強をするのも楽しかった。
「亘くんはプロ志望だったよね?」
「はい。それ以外考えてないです」
「プロになっても稼げるようになるまでだいぶ苦労するのよ」
「それは分かってます。でも俺の目標はそこなんで、変えるつもりはありません」
「まぁ、亘くんの実力なら達成できるかもね。でも、保険もかけておいたら?」
「保険?」
「そう。万が一プロを諦めざるを得ない状況になったときのためのね」
進路指導の話なんてすぐ終わらせて、練習に戻りたいのに。
でも、この先何があるか分からないのは確かだ。
プロになれる保証もない。
「それって、やっぱ教員免許ですか」
「そうね。一番良い保険だと思うわよ」
今俺は、楽器だけやってきた中高生時代とあまり変わらない道を歩んでいる。
バイトもしたことがない。
プロを諦めるなんて考えたくもないけど、一応音楽の教員免許を取ることにした。
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