第3話 芽生え【3月】
翌日、新3年生には新歓の練習をしていてもらい、新2年生の演奏を見ることに。
春休みまであと少し、俺には本当に顧問が務まるのか試されている気分だ。
「村上、聴かせてもらうぞ」
「はい!よろしくお願いします!」
新2年生の村上
村上はピアノが得意だと聞いていたが、それはホルンにも活かされているようだ。
正確なピッチ、リズム感、表現力…どれも大きく欠けているところはない。
まだ1年しかホルンに触れていないのに大したものだ。
「結構良かった。ホルン経験者じゃないよな?」
「ありがとうございます!経験者ではないですけど、卒業した先輩たちにたくさん教えてもらって…本当に感謝してます!」
村上は満面の笑みでそう答えた。
そうか、卒業生には俺は会っていなかった。
何人いたか、どんな演奏をしていたかも知らない。教頭からも聞いていない。
俺はもっとこの吹奏楽部のことを知らなきゃいけない、と改めて感じた。
村上にも新歓の譜面を渡し、最後の部員のもとへ。
塩谷
部員に低音パートが居てくれて良かった。だいぶ譜面構成に幅が出る。
と言っても全パートひとりずつだが。
「塩谷はどうしてチューバを選んだ?」
「それはもう!一目惚れです!」
「おぉ…でかくてかっこいいもんな」
「そうです!音も見た目も最高です!」
「じゃあ吹いてもらおうか」
話した感じは茶目っ気のある塩谷だが、演奏を始めた途端表情が一変した。
真剣な眼差しで譜面に忠実に演奏している。出来も悪くない。
それは演奏家にとって当たり前のこと。
でも高校生が、満足に練習のできる環境ではないのに頑張っている。
こんな俺でも心が動いた。
とりあえず、部員のパートと現時点での実力は把握できた。
全員に新歓の譜面を渡し終えて、ミーティングの時間を設けた。
「みんなお疲れ様。新歓の譜面には目を通せたか?」
「はい!!」
「今回新歓では、新入生の興味を引くために分かりやすいポップス曲にアレンジを加えてある。それと分かっていると思うが…うちにはパーカッションが居ない」
「ドラムセットは一応あるんですけどね…」
「そうみたいだな。んで、ひとつ考えがある」
「もしかして…!?」
「俺が叩く。指揮者がいなくなるが、俺のバス(バスドラム)に合わせて
一瞬無音になった部室。そして部員たちの歓喜の声が響き渡る。
そんなに喜ぶことか?むしろ、指揮者のいない吹奏楽って大変なんだぞ。
この短期間でどれだけまとまるかは正直未知数だ。
でも、久しぶりにドラムを叩く高揚感と、高校生たちの熱意が自然と俺を笑顔にしていた。
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