第4話 新入生歓迎会【4月】

「いいか、合奏練習通りやれば大丈夫だ。人数とか関係ない。自信を持って吹け」

「はい!!」


春休み中もそれぞれ練習に励んだ。もちろん俺も。

いきなり指揮者なしで、短い曲ながら部員をまとめることは相当難しい。

でもできることは全てやったつもりだ。

そして今日、俺たちにとって最初の本番、新入生歓迎会が行われる。


「次は吹奏楽部が演奏を披露します!どうぞ!」


体育館のステージの幕が開く。

音大のコンサートに比べたら、なんてことない広さのステージ。

でもここで良い演奏ができなければ、この2、3年生の『青春』が終わってしまう。

やりたい放題やっていた音大生時代のステージとは、責任の重さが違う。


俺のスティックの4カウントから曲が始まった。

みんなよく俺のバスを聴いて合わせてくれている。

曲は誰もが知っているポップス曲を選んだ。

これはメリットも大きいが、ミスが目立つという点でデメリットも大きい。

いや、練習は嘘をつかない。それは俺が一番分かっているはずだ。

時々、部員たちとアイコンタクトを取りながら曲は終盤へ。

その頃には体育館に手拍子も響いていた。


「吹奏楽部の演奏でした!最後に、顧問の先生から一言お願いします!」

「今まで楽器やったことなくても、なんとなく音楽やってみたいとか、吹奏楽なんかかっけーなとか、少しでも思ってくれた1年生がいたら、遠慮なく部室に来てください。ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「吹奏楽部の皆さんありがとうございました〜」


幕が下りたらすぐ撤収。講評はその後だ。

でもそれにしても、叩いていて心地よい演奏だった。

高校生と俺が一緒に演奏するなんて、考えたことなんかなかったな。

音大でも見学に来た高校生に、演奏や練習の様子を見せることはあったが。


「ねぇ、吹奏楽部って人数少ないのにちょっとかっこよかったよね」

「ね!私もそう思った!」

「今度3人で見学行こうよ!」


楽器を片付けて体育館に戻るとそんな会話を耳にした。

思わず部員たちと顔を見合わせてにやけてしまった。

少なくともあの3人には、俺たちは爪痕を残せたのだろうか。

そう思うと心踊るような、そんな気分だ。


「先生!聞きました?今の会話!」

「もしかしたら、あの子たち入ってくれるかもですね!」

「あぁそうだな。今日結構良かったんじゃねーの?」

「やったー!!先生、本当にありがとうございます!」

「いや、俺は何も。みんなの練習の成果だから、自信持てよ」


そう、俺はほんの少し手を貸しただけ。

全員の『吹奏楽がしたい』という想いが、練習に繋がり今日の結果になった。

人数が少なくても、少ないなりの吹奏楽ができた。

俺にその手助けができるなら、全力で向き合いたいと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る