第2話 芽生え【3月】
5人に初めて会ってから1週間。
学校での仕事以外の時間は全て譜面づくりに費やした。
部員は新3年生が3人と新2年生が2人。
春休み期間に練習ができるよう、事前に全員のパートと実力を見させてもらった。
まず、部長になった野田
簡単な譜面を用意して吹いてもらい、一音ずつ確認していく。
ピッチ(音程)にそこまでブレはない。
そして小柄な体格からは想像できないほどの肺活量だ。
部長に抜擢されるのも納得がいく。
「よし、そこまででいい」
「ありがとうございました!」
「色々話したいが時間がない。新歓はこの譜面を練習してくれ」
「はい!ありがとうございます!」
そういえば、野田は音大のコンサートに来たって言ってたな。
それで憧れて入部したってことは、トロンボーンを始めたのは高校からなはず。
これまで相当な練習を積んできたかセンスが良いのか、どちらにしろ予想以上だ。
次は副部長の斉藤
野田と同じように吹いてもらったが、少しパワーが足りない感じがする。
ピッチも所々気になる箇所があった。
「音がちょっと細いな…腹にもっと力入れて吹いてみて」
「はい!」
「おお、良いじゃないか。その調子で最後まで!」
斉藤のすごいところは、1回指摘すればすぐに修正できるところだ。
必死に応えてくれる斉藤を見ていると、こちらにも熱が入る。
1週間前の自分が嘘のようだ。
斉藤には少しアドバイスをして譜面を渡した。
野田もそうだったが、俺の書いた新歓用の譜面を嬉しそうに抱えていた。
新3年生最後は音楽一家の木村 エミリー。サックスパート。
木村の父親はうちの音大のOBだよな…サックス奏者のなかでも有名だった。
OB会でたしかアメリカの歌手だって噂の嫁さんを連れて来てたっけ。
「亘先生のお話は父から聞いていました」
「木村さんから?どんな話だ?」
「後輩に天才パーカッショニストがいるって言ってました」
「そんな大袈裟な…まぁいい。お父さんによろしくな」
「はい!きっと私の学校に来たと知ったらびっくりしますよ」
そんな木村の吹くサックスは、やはり他の2人と別格だ。
父親からの厳しい指導があったと容易に想像がつく。
滑らかで流れるような演奏。安定感が段違いだった。
木村にも新歓用の譜面を渡し、今日の部活の終わりを迎えた。
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