ハートビート・パーカッション!
海音
無気力教師が来た理由
第1話 芽生え【3月】
「
なんで俺が飛ばされるんだ。
保護者からクレームでも入ったのか?何もしていないのに。
そんなことばかり考えていたら、数ヶ月経っていた。
そして俺はもう赴任先に居る。
音大を首席で卒業した意味は何だったのか。
こんな無気力な教師人生を歩むためか?
ため息しか出てこない。
「…先生!亘先生!」
「あ、すみません。ぼーっとしてました」
「ぼーっとしすぎだよ本当に。吹奏楽部の子たちは君を心待ちにしているんだから」
「はぁ…で、部員は何人ですか?」
「あぁ言ってなかったね。5人ですよ」
「え、5人…ですか?」
「うちは田舎の小さな高校なんだから、そんなもんだよ」
5人ってそれ、部活として成り立ってないぞ。
いつもどんな練習してるんだ。
まさか幽霊部員じゃないだろうな。
いやでも、心待ちにしてるってことは…やる気はあるのかもしれない。
まぁ俺のほうがやる気が起きないのだが。
「亘先生、ここが部室です。とりあえず今日は部員が先生とお話ししたいことがあるようですので」
「そうですか…」
「じゃ、僕はここで失礼。頼みましたよ〜」
俺を案内してくれた教頭は悪い人じゃない。それは分かった。
だけどもう少し配慮があっても…と思っても仕方ない。
俺は部室に入った。
「あ、きた!」
「亘先生ですよね??」
「…はい、はじめまして。亘
「わぁ〜本物だ!私ファンなんです!」
「え?ファン?」
ん?何だ?ファンとか言われる覚えないけど…
5人はみんな目を輝かせて俺を見る。
「私、中学生のときに音大のコンサートに行ったことがあるんです!そのときの演奏がすっごくかっこよくて!」
「あーそういうことね。まぁ俺なんて大したことな…」
「それで憧れて吹奏楽部に入ったんです!」
憧れ、ねぇ。本当に大したことないよ、俺はね。
この子は純粋に憧れてくれていたのに、なんだか申し訳ない。
あの頃の俺は調子に乗りまくって、めっちゃカッコつけてたっけ。
ダサすぎだろ。恥ずかしい。
「えーっと…分かった。それで、話って?」
「先生にお願いがあるんです。本当に真剣なお願いが」
「来月、新入生歓迎会があって、そこで演奏を披露しなきゃいけなくて…」
「でも私たち5人しかいないし、できる曲が見つからないんです」
「まぁそうだろうな」
「部員が少ないから、新入生が入ってくれないと廃部になっちゃうんです」
「だから先生、助けてください!お願いします!!」
高校生に深々と頭を下げられている。なんと奇妙な光景なんだ。
助けてって言われてもな…新歓で挽回するには期間が短すぎる。
それに、まず俺にそんなことができるのか?
譜面を書くことはできても顧問なんて初めてだし。
5人の演奏を仕上げることが本当にできるのか?
「とりあえず、頭上げて。君たちのやりたいことは分かった」
「じゃあ…!」
「俺が譜面を書く。でも正直自信ないかな。みんなのパート(担当の楽器)も実力も知らないし、俺いつもプレイヤー側だったからまとめてあげられるか分からないよ」
「お願いします!ちゃんと目標に向かって練習できるだけで嬉しいです!」
あぁ、この子たちは吹奏楽が好きなんだ。
5人しかいないとか関係なくて、純粋に今を楽しもうとしてる。
なんか俺ってバカだったな。
プロ諦めたのだって自業自得なのに、どこか周りのせいにして適当に生きてきてしまった。
この子たちみたいに、俺も今を全力で生きてみたい。そう思った。
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