なりすまし
半ノ木ゆか
*なりすまし*
白昼堂々、とある豪邸に一人の男がやってきた。電子錠に指を当てると、ガラガラと音を立てて立派な門が開いた。玄関のカメラを見つめ、「ただいま」と言うと、扉もすんなりと解錠されてしまった。
ひっそりとした廊下を我が物顔で歩く。実は彼は、この家の住人ではない。さまざまな道具を使い、空巣が変装しているのだ。
家の主に瓜二つの顔は、3Dプリンターで作ったマスクだ。両手の手袋には指紋が立体的に印刷されている。喉に取り付けた変声機で、声もそっくりに似せることができる。黒目の模様も、特別なコンタクトレンズで再現してあった。マスクは頭全体を包み込んでいるので、髪の毛を落としてしまう心配もない。
手持の鞄に、金目の物を詰められるだけ詰め込む。去り際、天井の監視カメラをまっすぐ見据え、男は挑発するように言った。
「どうだ、俺の完璧な変装は。指紋認証も声紋認証も虹彩認証も、子供だましに過ぎない。この装備があれば、世界中のどんな人物にでもなれるんだからな」
本人の体を写し取ったかのように、抜目なく化けている。家族や友人にも見分がつかないほどだ。だから数日後、自分が警察にあっけなく捕まってしまうだなんて、男は夢にも思っていなかった。
取調室で、彼はうろたえながら言った。
「どうして俺が犯人だと分ったんだ。証拠はただ一つ、残してこなかったはずなのに」
「
彼の目をまっすぐ見据え、警官が教えてやった。
「指に指紋が、声に声紋があるように、歩き方にも一人々々、変えられない癖がある。近頃、動画解析の技術は目覚しく進歩していてね。監視カメラの映像をAIに見せれば、犯人と同じ歩き方の人物を、人混みからぴたりと探し当てることができるのさ。私は私、君は君だ。どんなに優れた道具で化けても、別人にはなれないんだよ」
なりすまし 半ノ木ゆか @cat_hannoki
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