第一章 第二節 秘密と勧誘
「で?ノアはどういうことをしているんだ?」
私とノアは現場から少し離れた喫茶店に来ていた。名前はネコノヒゲというらしい。とてもではないが私一人なら見つけられないような場所にあった。いわゆる隠れ家カフェというものなのだろう。
どうやらこの店を見つけられないのは私だけではないようで、店内には私とノア以外のお客さんはいなかった。他にいるとすればカウンターの奥で座って本を読んでいる人の良さそうなおじいちゃんマスターと窓際の席で寝ている彼が飼っているのであろう黒猫がいるくらいだ。正直私は気に入ってしまった。今度一人で来よう。
「んもう、私の個人的なことが気になるんすか?そういうのはもうちょっと仲良くなってからゆっくり教えてあげるっすよ?」
「いやどうでもいい」
「即答しなくたっていいじゃないっすかぁ!」
面倒極まりない奴だ。話しやすいという長所を全てウザいという短所に変換しているのではないか。
ノアはこの会話が始まるまでに既にケーキを二皿食っている。ふざけてないでちゃんと話せと睨みつけてやると、三皿目のケーキを食べようとしていたノアは仕方ないというようにフォークを置いて話し始めた。殴りてぇ。
「ラボのことっすよね。簡単にいうと異能力者の研究、保護っすね」
「は?」
「あ、異能力者っていうのは魔法少女や超能力者のことをいうっす。普通の人が持ってない力を持ってる人って認識で大丈夫っすよ」
私は空を仰ぎたくなった。何を言っているんだこいつは。
「つまり何?魔法を使ったり念力を使えるように研究してるってこと?」
「使えるようにっていうか実際に使う人がいるから研究してるって感じっすね。数は少ないっすけど」
「……そんな人がいるとは思えないんだけど。テレビで念力使ってる人いるけどあの人も職員って言いたいの?」
「信用してくれないっすねー。それとテレビに出てる人は異能力者じゃなくてマジシャンっすよ」
「聞いた限りの説明からじゃそれくらいの眉唾組織にしか考えられないんだよ」
漫画やアニメやゲームじゃあるまいしそんな人類がいるわけがない。いたとしても何故今まで誰もそれを見たことがないのか。今日のハーフツイン少女のように厨二病と呼ばれる人間が爆弾を作って爆破し、それを魔法だと言い張る方がまだ理解しやすい。
「でも今日見たじゃないっすか。あの子は間違いなく魔法で火球を作って飛ばしたっすよ。イブキも怪我はなかったっすけど熱さは感じたんじゃないっすか?」
確かにすさまじい熱風と衝撃を感じた。電柱の裏にいたおかげで助かったのだ。
「でもあれは爆弾でしょ?拗らせてテロの真似をしたんじゃないの?」
「爆弾だったら破片が飛び散って今頃イブキの身体はズタズタになってるっす」
真顔で怖いことをいうノア。言われてみればあの時に感じたのは熱風と衝撃だけだった。もしあの衝撃に乗って石でも飛んできていればただでは済まなかっただろう。今更になって冷や汗が垂れる。
「実は魔法でできた炎の爆発は爆弾みたいに殺傷力が高いものではないとラボで判明してるっす。まあ制圧力は高いっすけどね」
「そうだったんだ……」
「あの子の魔法が炎をイメージしたものだったのは幸運だったっすね!もしあの子の魔法が爆発そのもののイメージで道路や電柱が壊れるくらいの威力だったら命は無かったっす!」
そんな明るく言われても嬉しくはない。想像もしたくない。
「……魔法ってものが本当に存在してることはわかった」
「おぉー!わかってくれたっすか!」
「でもなんで魔法が本当にあるってことを皆知らないんだ?何かの拍子に使う人もいそうなものだけど」
純粋な疑問だった。科学が発展し宇宙にまで行くような文明を築いている人間が魔法の存在を知らないとは思えない。もし魔法が一般的に普及していればもっと人類は発展しているはずだ。
「そこは機密組織機関が機密たる
「え?そりゃ技術革命とかじゃないの?」
私の回答に首を軽く横に振ったノアは紅茶で唇を湿らせた。なんかこいつこういう仕草が腹立たしいほど映えるな。
「イブキは良い子ってわかるっすね。人類を良い面で考えすぎっす」
手をテーブルの上で組み、笑いながらこちらを見つめてくる。
「正解は”戦争”っす」
「……っ!」
身震いした。
「人間は良くも悪くも不完全っす。特に大きな力を手に入れた時、その力に溺れてしまう人が多いのは歴史からもわかってしまうことっす。そんな人間が魔法の存在に気付いた時、技術を独占しようと国が
どうやら私がおとぼけ組織だと思っていたラボは重大な役目を背負っていたようだ。何事もなく平和に暮らしていると思っていたが、裏の世界では平和を守るための仕事が行われているのだ。
「私たちラボはそうやって魔法の存在を隠して平和を守っているっす。もちろん隠しきれるものじゃないから各国のトップは魔法の存在自体は知ってるっすよ。でも魔法技術は別っす。そこでどの国にも技術提供しないことを条件にどこの国からも独立した組織として成り立ってるって訳っすね」
「へぇ……すごいんだな……」
規模が大きすぎる。私みたいな一学生には話が壮大すぎたのだ。そして懸念点が一つ生まれてしまった。
「でもそれを私に言っちゃって良かったのか?知ったからには消されるなんてことはないよな?」
少しばかり真面目な顔で語っていたノアは、私の言葉を聞いて破顔した。
「さっきまでの話はよそ向きの理念っす!正直言うと私はどうでもいい部分っすよ!だからここからが本題っす!」
身も蓋もないことを言い放ちやがった。ちょっと凄いなって感心してた私の気持ちを返せ。
呆れる私に対して、おもむろに立ち上がったノアが手を差しだしてきた。
「イブキ!一緒にラボ職員になってほしいっす!」
思考が止まった。
「一応聞くんだけど、なんで?」
「私がイブキを気に入ったからっす!」
「もう一回聞くね。なんで?」
「私がイブキを気に入ったからっす!!!」
ダメだ。取り付く島もない。私はすっかり冷めてしまったホットコーヒーを一気に飲み干す。ブラックで飲んでいたが今は砂糖たっぷりにするべきだった。頭が回らない。
「……そういうのって頭の良い人が入る組織なんじゃないの?私は普通の学生だよ?」
ノアは頭悪そうだけどという言葉はギリギリ飲み込んだ。こいつと話しているとイライラして冷静さを失いそうになる。今日が初対面とは思えない。
でも思っていることは本当だ。機密組織であると共に研究機関でもあるということは頭が使えなければ役に立てないということに他ならないだろう。飛び級して海外の大学に入学したお姉ちゃんほどの頭の良さなら問題なく入れるかもだけど。
「頭の良さは関係ないっすよ!だってイブキには私と同じ実行部隊に入ってほしいっすから!」
「実行部隊?」
名前からして嫌な予感しかしない。
「異能力者を見つけて実行部隊に勧誘したり危険な異能力者を制圧して保護するのが仕事の部隊っす!」
「そんな危険なところ入る訳ないだろ!」
おもわず立ち上がってバカみたいにニコニコしているバカに指を突きつける。なんでこいつはこんなに楽しそうなんだ。物凄い美少女が笑いかけてきているように見えているが、私からすれば悪魔が舌なめずりしてこちらを見ているようにしか思えない。
「普通の女子高生に戦えってのか!?大体私は勧誘なんてできないし!」
「イブキってそういう冗談も言える人なんすね!ますます気に入ったっす!」
「冗談じゃねぇよ!どこからどう見ても普通の女子高生だろうが!」
息を絶え絶えにしながら抗議を続ける。当然ながら私は戦闘経験などない。授業で習った柔道で簡単な試合をしたことがあるだけだ。ましてや命がけで戦うなんて出来る訳がない。危険なことなどやりたくないに決まっているのだ。
仮に危険でなかったとしても、私は学校生活をほどほどにこなしつつ食って寝て本を読む生活を続けたいのだ。なにがなんでも拒否させていただこう。
「でもうちの秘密知っちゃった訳っすよね?職員にならないなら監禁しなきゃいけなくなっちゃうんすけど」
「まあまあ勝手にお前が喋っただけだろ!回避できたことだっただろ!」
「だって絶対一緒に来てほしいし?」
「なんなんだお前ぇ!」
クソ、やっぱりこいつは詐欺師だった!信用するんじゃなかった!でももう後戻りできないところまで引きずられてきてしまったんだよなぁ……。
「ということで諦めて私と一緒に働くっすよ」
「うぅ……なんで私にそんなに執着するんだよぅ……」
「だから、私がイブキを気に入ったからっす!まあそれ以外にも理由はあるんすけどね」
「なんだ……?私の運の良さを異能力者探しに使おうってことか?」
どうやら異能力者の発現は予測できないらしく、どうやっても対応が後手後手に回ることになるらしい。それを私の運でどうにかしようってことだろう。
「運が良いの自覚あったんすね……まあそれもあるっすけど」
先ほどのテンションからは不自然に少しだけ前置きをしたノアから改まって質問を受けた。
「
「え、なんだよ急に……有名な小説の登場人物だろ?」
鮫島玲子と言えば国民的人気を誇るシリーズ推理小説の登場人物だ。ミステリアスな雰囲気を纏い、重要な局面で主人公へ意味深な助言を残しては姿をくらますという人物で、人気キャラクターの一人だったはずだ。私も好きで昔読んだことがある。
「やっぱりそうっすよね……私の師匠の名前なんすけど、その人とイブキが似てたものっすから、ちょっと気になってたっす」
「え、それだけで実行部隊に誘ったの?」
「顔が良かったからずっと頭から離れないんすよ!それに一緒に働くなら顔の良い女の子と働きたいっす!」
「欲望を私にぶつけるな気持ち悪い!」
褒められているのはわかるが全く素直に喜べない。あんたのせいで私は危険な部隊に強制所属させられそうになってるぞ鮫島玲子。しかもこのイカレた金髪の師匠なのかよ。どんな顔なのか見てみたいね。いや私に似てるのか。
「さ、最後に一番重要な理由があるっす!」
そろそろ本当に手が出そうになっている私にビビったのか少し控えめに告げてきた。
「次はなんだ?これでしょうもないことだったら別の職員さんに言ってお前の詐欺師っぷりを報告してやる」
「そ、それだけはやめてほしいっす!実行部隊の中でもノアのやり方は強引すぎるって私の評価ギリギリなんすから!」
当然の評価だろう。ラボの職員にもまともな思考をしている人がいて良かった。全員ノアのような人間だったら私はラボに対して無能組織の烙印を押さなければならないところだった。
「ごほん、さっきイブキは自分は異能力者じゃないって言ってたっすよね?」
「言ったね。実際私に魔法なんて使えないし」
「単刀直入に言うっすけど、イブキ、魔法使ってるすよ」
「え……?」
どういうことだ……?私の周りで何かおかしなことが起きていただろうか。
「勧誘する前に異能力者とはって話したじゃないっすか」
「うん、魔法少女と超能力者が異能力者だって言ってたな」
「正確には魔法使いと超能力者っすね。まあこれはイブキが入隊した時の研修で説明するっす」
「おいまだ入るとは」
「言ってなかったっすけど私も異能力者なんすよ」
私はぎょっとしてノアの顔をまじまじと見つめる。考えてみれば確かにそうだ。異能力者への対抗手段としてぶつける人材だというのに、ノアがただのおちゃらけウザ絡み女な訳がない。何か凄い異能力があるのだろう。
「私の場合は超能力者の方っすね。戦闘向きの異能力じゃないっすから実際に戦う時は肉弾戦か武器を使うっすけどね」
前言撤回。異能力者相手に異能力なしで戦う
「私の異能力は異能力の反応が色として見えるっていうものっす。認識の魔眼って私は呼んでるっすね。これのおかげで私は一人で異能力者探しができるってわけっす」
「もしかしてその目の色って異能力の影響で……?」
「え、いや目の色は生まれつきっす」
赤い瞳なんて普通にはならないだろと思ったのにただの人体の神秘だった。勝手に空回っただけだが少し恥ずかしい。耳が熱い。
「それで今日の魔法少女の子と話してた時、魔法反応を見る為に認識の魔眼を発動してたんすけど、その子とは違う異能力の反応が視えたんすよ」
「それが私だったってこと?」
「そうっす!一瞬見間違いかと思ったっすけど、今日一日一緒にいて確信したっす!イブキは無意識で魔法を使ってるっす!しかもその魔法は多分運に関係してるっす!」
言葉を失った。私が運が良いと思っていたものは魔法によるものだったらしい。
「イブキ、運が良いって思い始めたのはいつからっすか?生まれてからずっとっすか?」
「あんまり覚えてないけど小学生の時に事故で入院してからかな」
「じゃあイブキはその頃から魔法が発現したんすね!」
実感は湧いていないが納得しかけていた。急に運が良くなってそれが続いているなんて普通はおかしいのだ。それが無意識に使っている魔法のおかげだったのなら幸運が続いている理由として理解できる。
「でもまだわからないことがあるんすよね。認識の魔眼は異能力の反応を色として視ることができるっす。今までの傾向として魔法少女は赤系、超能力者は青系だったっすけど、イブキのは黄色とかオレンジみたいな色をしてたっす」
「そんなこと言われても私はさっき自分が魔法を使ってるって知ったばかりだぞ。何もわからないよ」
そもそも魔法を使っているという実感はゼロなのだ。使うなと言われても止められないだろうし使えと言われても使い方がわからない。
「基本的に超能力は魔法にできないようなことを扱える傾向にあるっす。そして魔法とは違って使用する度に対価を支払わなければいけないのが超能力っす」
「じゃあノアも何か対価を支払ってその魔眼を使ってるってことか」
「私の場合はこれっす!」
ノアはそう言いながらショートケーキを食べ始めた。気付けば空になった皿が5枚に増えている。その細い身体のどこに入るのかと思っていたがもしかして。
「認識の魔眼を使うと対価としてカロリーを物凄い勢いで消費するっす。今時腹ペコキャラなんて典型的すぎるっすよね」
「いやそれは知らないけど」
ノアの魔眼は消費カロリーが激しいらしい。対価というからもっと恐ろしいデメリットかと思ったのに、ダイエットしなくても痩せそうでちょっと羨ましいまである。
「つまり私が言いたいのはイブキには対価が発生してないっぽいからイブキの異能力は消去法で魔法だってことっす!色が違うのも多分私が初めて見ただけで、黄色やオレンジも魔法の反応の一種なんだと思うっす」
結構適当なんだな異能力の分類。しかし当然かもしれない。異能力者の数は少ないらしいし情報がまだ足りてないのだろう。
「そもそも分類なんて研究でしか使わないっす!現場担当の私にとっては自分の能力だけわかってればなんとかなるっす!」
足りてないのはノアの頭だった。実行部隊とはいえお前も研究所の職員だろ。
「はぁ、とにかくノアの目で見ると私から異能力の反応があったんだな?」
「そうっす!うちに入ってくれる気になったっすか?」
「入るかどうかは置いておいて、行かなきゃいけないんでしょ?」
「それはそうっすけど、どうせなら一緒に異能力者探ししたいっす~!」
ついに駄々をこね始めた。小学生の子ならまだしも、私と同世代の女がじたばたしながら我儘を言う姿を目の前で見せられるのはキツイものがある。
「見苦しいからやめなよそれ」
「嫌っす~!イブキと一緒に遊びたいっす~!」
仕事するんじゃないのかよ。
「遊ぶくらいならラボに入らなくてもできるじゃん」
めんどくさいけど。心からめんどくさいけど。
しかし実行部隊とやらの危険な仕事をするのは絶対に嫌だ。それなら見た目だけは美少女のノアと遊んでいた方がいい。いやこいつにとっては異能力者探しが遊びなのかもしれない。
「でもイブキも自分の能力について詳しく知れるっすよ?気にならないっすか?」
「うっ……」
そうだ。確かに自分の魔法?異能力については知っておきたい。危険なことはしたくないものの、自分が魔法を使えるというのなら使ってみたい。そもそも既に無意識で使っているようだが、自分の意思で自由に使ってみたいのだ。少しだけワクワクしてしまっている自分がいるのは事実だった。
「わかったよ。本当に実行部隊に入るかは別としてラボには行こう」
好奇心には勝てなかった。
「やった!よかったっす!ラボには連絡しとくっすから明日早速向かうっすよ!」
「あ、明日!?急過ぎないか?」
「何か予定でもあったっすか?さすが、現役JKは週末も忙しいんすね!」
ふっと目を伏せた。そんなキラキラした目で見ないでくれノア。私には女子高生らしい予定などあるわけがない。別に興味がないというわけではないが、そういうものに興味のない知り合いが多いのだ。結果的に話が盛り上がることもなく終わるのだ。あるとしたら家事を終わらせて読書に勤しむくらいだ。
「な、なんかごめんっす……」
「そ、そういうノアも女子高生だろ!?自分のことはいいのか?」
他人事のように語っているが、ノアも私と同年代のはずだ。それともとても若く見える成人だったりするのだろうか。
「私っすか?私は学校通ってないからJKじゃないっすよ。でも16歳だからJKとほぼ同じっすかね」
「学校通ってないの?中卒でラボに入ったってこと?」
「そもそも学校行ったことないっすね!憧れるっす!」
「えっ」
「ちゃんとラボで最低限の勉強はしてるっすよ?しないと師匠に殺されるっすから」
学校に行ったことがないというのはどういうことだろうか。親からの虐待か、ひきこもりか、何れにせよあまりよくない過去がありそうだ。深掘りは避けた方がいいだろう。
「そうなんだ……」
「なんか勘違いしてるみたいっすけど特に不自由があったわけじゃないっすよ?」
問題がないようならいいか。触れないでいいことは触れないでおこう。
「まあ私の話はどうでもいいっすよ!とにかく明日会いに行くっすから準備しておいてほしいっす!」
「準備って言われても何を……」
「イブキに用意してもらうものはないっすからしっかり休んでほしいっす!明日の朝迎えにいくっすから!」
朝か……。せっかくの休みだから少しは長めに寝たいと思っていたが仕方ない。
「じゃあ集合場所を決めておかないと」
「勝手にイブキの家まで迎えに行くっすから気にしなくていいっすよ!」
「は?」
私の家まで来る?教えた覚えがないんだけど?
「ラボの方で調べてもらったっす!うちにかかれば個人情報の調査なんて朝飯前っすよ!」
「はぁ!?なんだそれ!」
個人情報を勝手に集めて共有するなんて犯罪ではないか。ラボの権力はいったいどうなっているのか。
「既にイブキの情報は私の手の中にあるっす!あ、連絡先交換していいっすか?まあ既に送っちゃってるっすけど」
急いでスマホを確認すると確かに見知らぬアドレスからメールを一件受信していた。開いてみるとどこで撮ったのかわからないがSNS映えしそうなパフェと一緒に自撮りしたノアの写真が送られてきていた。さらにはメッセージアプリには「のあ」というフレンド外のユーザーから知らないアニメキャラクターのスタンプが送られていた。反射的にブロックしそうだった。
「着信拒否とかは悲しいっすからちゃんと登録するっすよ?でないと別の端末から送らなきゃいけなくなってちょっと面倒っす」
どうやらもう私に逃げ場はないようだ。
「……わかった」
「そんな嫌そうにしないでほしいっす!これからはいっぱいお話するっすよ!」
「せめて仕事の連絡で使えよ」
こいつは基本的に公私混同をするタイプのようだ。連絡を受けない訳にはいかないので私に拒否権はないが既読無視するくらいはしてやろう。ついでに通知もオフにしておこう。
その日はここで解散となった。ノアは「家まで送るっすよ!」と言ってきたが出会って初日の人間、ましてやノアを家に連れて行くのは嫌だったため断固として拒否しておいた。まあ明日には来るらしいのであまり意味はないのだが。
余談だがノアがケーキを食べまくったせいで喫茶ネコノヒゲでのお会計はとんでもない額になっていた。少なくとも私の手持ちで支払ってしまうとしばらく本が買えなくなってしまう。顔から血の気が引きかけたところで、ノアがクレジットカードを取り出して「一括でお願いするっす。あと領収書もお願いするっす」と言って私の分まで支払ってくれた。
ノアによると「能力のせいで食べなきゃいけないっすから実質経費ってことでタダで好き勝手に食べられるっす!これだからラボは好きっす!」とのことだった。ちなみにお給料もかなりのものらしく、ノアは拠点と称した別荘を日本に複数持っているのだとか。ほんのちょっとだけラボ職員になるのも悪くないかもと思えてしまった瞬間だった。
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