告白の行方
第30話 体育祭開始
空に向かって体育祭の開始を告げる花火が、パンパンと打ち上げられる。
日向ちゃんがいなくなるって騒動から一夜が明けて、今日はいよいよ体育祭の本番だ。
うちの学校の体育祭は、学校の宣伝も兼ねて大々的に行われていて、家族の見学もOK。
だから校庭には生徒はもちろん、生徒たちのお父さんやお母さん。それに兄弟姉妹だろうなって人たちも、たくさん集まっていた。
その中には、私の家族もいる。
「ほら、巧。知世お姉ちゃんいたよ」
「知世ちゃんガンバレーっ!」
お姉ちゃんに抱っこされながら、たっくんが応援してくれる。
って言っても、今は入場行進の最中だから、頑張りようがないんだけどね。
せっかくたっくんが応援してくれてるんだから、本当なら手でも振ってあげたいところだけど、そんなことしたら悪目立ちするから、残念だけど我慢。
そしてそんな我慢をしてるのは、私だけじゃなかった。
「お兄ちゃーん!」
たっくんの隣で叫んでいるのは、お父さんに抱っこされた日向ちゃん。
日向ちゃんも、お父さんと一緒に吉野くんの応援に来ていたの。
しかも応援場所として陣取っていたのは、お姉ちゃんたちのすぐ横。いつの間に連絡とってたんだろう。
入場行進の後は開会式に移って、それから競技開始。
最初の競技では出番のない私たちは、赤組のテントに入っていったけど、私と大森くんは、自然と吉野くんのところに集まっていた。
「なに? 日向ちゃん、応援に来たの?」
「ああ。父さんが、遊びに行きたい場所はあるかって聞いたら、動物園でも水族館でもなく、俺の学校って言ったんだと。体育祭のこと、日向にも話してたから、それを聞いて行ってみたくなったんだって」
きっとそれだけ、吉野くんのことを応援したかったんだね。
なんていうか、すっごく日向ちゃんらしい。
「父さんは、急に休みをとるのにかなり苦労したみたいだけどな。これからは家族の時間を大事にするって言ったし、仕事先にはかなり無理を言ったらしい」
吉野くんのお父さんがどんなお仕事してるのかは知らないけど、お休みとるのにそんなに苦労するなんて大変。
けど吉野くんの話では、昨日の日向ちゃんのことがなくても、近々仕事を減らすつもりだったみたい。
「けど星、せっかく日向ちゃんが応援しに来てくれた割には、なんだか微妙そうだな」
あっ、大森くんもそう思うんだ。
実は吉野くん、さっきから表情がとっても複雑そうなの。
わざわざ日向ちゃんがやってくるなんて、もっともっと喜んでも良さそうなんだけど。
「仕方ないだろ。ここでだらしなく喜んだりしたら、学校での俺のイメージが崩れる」
「あぁ……」
そういえば吉野くん、初めて日向ちゃんやたっくんと遊んでいるのを見た時は、すっごく恥ずかしがって、睨むような目で詰め寄ってきたっけ。
「お前のこと氷の王子様とか言ってるやつらに、実はシスコンだってことがバレるかもしれないからな」
「うるさい。だいたい、お前がそういう変なこと言うから、俺だって色々考えることになったんだよ」
「えぇーっ。だって、シスコンなのは事実じゃん。坂部さん、どう思う?」
「えっ? わ、私?」
大森くんに話をふられて、少し困る。
って言うのも、今の吉野くんとは、ちょっとだけ話しづらい。というか、どんな態度で向き合えばいいのかわからないの。
実は直接言葉を交わすのも、今日に入ってからはこれが初めて。
「わ、私は別にいいと思うよ。私だって、日向ちゃん可愛いと思うから」
とりあえずそう言うと、吉野くんはどうだって感じで大森くんを見る。
「そっか。坂部さんは吉野の味方なんだ」
「別にそういうわけじゃないけど……いや、そうなのかな?」
「ほらやっぱり」
大森くんはブーブー言って口を尖らせていたけど、もうすぐある競技に参加するってことでテントから出ていって、私と吉野くんの二人だけがその場に残る。
吉野くんと二人だけ。そう意識したとたん、なんだか急に緊張してきた。
その理由はもちろん、昨日吉野くんに言われた、あの言葉のせい。
「あ、あのさ、吉野くん。昨日私に言ったこと、覚えてる?」
まずは、これを確認しなきゃ。
もしかしたら、私の聞き間違いや、妄想を現実とごっちゃにしているかもしれないから。
でなきゃ、吉野くんが私にあんなこと言うなんてとても信じられない。
「それって、お前と付き合いたいとか、好きだとか言ったことか?」
「────っ!」
聞き間違いじゃなかった! あと、妄想でもなかった!
でも、なんで!?
「ど、どうして、吉野くんが私のこと好きになるの?」
吉野くんが冗談でこんなこと言うなんて思わないけど、理由を聞かなきゃとても信じられない。
ゴクリと唾を飲み込んで、吉野くんの言葉を待つ。
だけど……
「あっ、いたいた! 知世ーっ!」
この声は、紫!?
声のした方を見ると、そこには思った通り紫がいて、こっちに駆け寄ってきた。
「ねえねえ。競技に出る時って、どこに集合すればいいんだっけ。二人とも、実行委員やってるんだから知らない?」
「えっと……」
それは、もちろん知ってるけど……
とりあえず、集合場所と、どれくらい前に行った方がいいかを教える。
「そっか、ありがとう。ん? そういえば二人とも、何か話してる途中だった? だったらごめんね」
「う、ううん。大丈夫だから」
「そう? じゃあ、そろそろ集合場所に行った方が良さそうだから、もう行くね」
そうして紫は、あっという間に行っちゃった。
本当は、話の腰を完全に折られちゃったけど、それでよかったのかもしれない。
だって考えてみたら、周りには紫以外にもけっこう人がいるんだもん。とても、付き合うとか好きとか、そういう話を落ち着いてできるとは思えない。
「えっと、吉野くん。今の話、もう少し落ち着いてからでいいかな?」
「あ、ああ。こんな状況じゃ、ちょっとできそうにないからな」
けど、落ち着けるのっていつになるだろう。
人のいない所に行ってからする? けど、今日は一日中体育祭でどこに人がいるかわからないし、実行委員の仕事だってちょくちょくある。
なにより、改めてやるとなると、すっごく心の準備がいりそう。
もしかすると、この話、当分できないままかも。
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