第26話 どこにいるの?
吉野くんの家に向かう途中、そのことをスマホのメッセージアプリで連絡する。
そうして吉野くんの家にたどり着くと、そこには吉野くんだけでなく、大森くんと、それに大人の男の人がいた。
「悪い、坂部。こんなことに巻き込んで……」
「いいから。それより、日向ちゃんはまだ見つかってないんだよね?」
「ああ。もう少し探して、それでも見つからないようなら、警察に知らせようってことになってる」
警察って言葉に、大事になりそうだってのを改めて実感する。
「探すって、どこを?」
「そう遠くまでは行けないだろうから、とりあえず家の近所を。日向が自分で帰ってきた時のために、父さんは家に残って、俺と俊介で手分けして探してる」
そばにいた男の人に目を向ける。
そうじゃないかって思ってたけど、やっぱりこの人が、吉野くんのお父さんだったんだ。
前に吉野くんに聞いた話じゃ、いつも帰ってくるのはもっと遅い時間っぽかったけど、さすがに今日はすぐに帰ってきたみたい。
「坂部さん、だったね。手伝わせてしまって申し訳ない。それでも、日向を一緒に探してくれるなら、どうかお願いします」
深々と頭を下げる、吉野くんのお父さん。
私とは初対面だけど、とても初めましてなんて挨拶してる場合じゃない。
私と吉野くんと俊介くんの三人は、それからすぐに家を出て、日向ちゃんを探しに向かう。
「坂部は、誰かと一緒に動いた方がいいんだよな」
「うん。本当は、手分けして探した方がいいかもしれないけど」
できればそうしたかったけど、一人にならないってのが、探しに行くことをお父さんが許可する条件だったから、それを破るわけにはいかない。
それに私じゃ、吉野くんや大森くんと違って、この辺りに何があるかもよくわからなかった。
「じゃあ、坂部さんは星と一緒に探しなよ。俺は俺で、別のところ探すから」
大森くんはそう言って私たちと別れる。
私は吉野くんについて行くことになったけど、吉野くんは、いったいどこを探すつもりなんだろう。
「日向ちゃんが行きそうな場所に、心当たりってあるの?」
「いや、特別ここだって場所はない。けど、日向と外で遊ぶ時、よく連れていく所ならいくつかある。俊介にも伝えてあるから、そういうところを片っ端から探していくつもりだ」
そうして向かったのは、小さな神社。それにすぐ側が公園みたいになってて、滑り台やジャングルジムが一体になってるような、大型の遊具も置いてあった。
ざっと見渡したけど、日向ちゃんの姿はない。
けれど、もちろんこれで終わりじゃない。暗くて見えなくなってるだけかもしれないし、どこかに隠れてるのかもしれない。
もっと、細かく探さないと。
「日向ーっ!」
「日向ちゃーん!」
時々名前を呼びながら、神社の裏や遊具の中を見て回る。
それでも、日向ちゃんの姿は見つからないし、返事も聞こえない。
探し方が悪いの? それとも、最初からここにはいないの?
「こんなことになるなら、帰ってすぐ、日向から話を聞いておいたらよかったのかもしれない。そうしたら、出ていくなんてことしなかったかもしれないのに」
途中、吉野くんがそんなことを言う。
そうしたらどうなっていたかなんて、本当のところはわからないし、今さらどうしようもないこと。
それでも、考えずにはいられないのかもしれない。
「さっき、父さんに言われたんだ。日向のこと、任せ切りで悪かったって。けど、俺がもっとしっかりしていたら、保育園でのケンカも今回のことも、起こらずにすんだのかもしれない」
「そんな……」
いくらなんでも、そこまで吉野くんが一人で責任を背負うことなんてない。
そう思ったけど、さっき保育園で、けんくんのお母さんが言ってたことを思い出す。
『子どもが子どもの面倒見てるなんて、まともにならないのも当然ね』
そんなことないって、大声で言ってやりたかった。
だけど吉野くんは、私が思っていたよりもずっと、その言葉を気にしていたのかもしれない。
吉野くんと仲良くなって、それまで知らなかった甘いところや優しいところをたくさん見てきたけど、今みたいに落ち込む姿は、一度だって見たことがなかった。
だから、言わなきゃ。
「…………そんなこと、ないから」
「坂部?」
「吉野くんがしっかりしてないからダメって、そんなこと、絶対にないから!」
吉野くんがどれだけ日向ちゃんのことを大事にして、一番に考えてるかは、今まで何度も見てきた。
それを否定するようなこと、他の誰でもない、吉野くん自身に言ってほしくなかった。
それに……
「私、たっくんから聞いたの。日向ちゃんが、どうして他の子をたたいたりしたのか」
さっき聞いた話を、今ここで伝えようとする。
だけどそれは、話し出す前に止められた。
「その話は、日向を見つけてから聞くことにするよ」
「あっ、ごめん。そうだよね」
そうだ。今は何より、日向ちゃんを見つけることを優先させなきゃ。
話すのは、それからでも遅くない。
「けど、後でちゃんと聞くから。その時、何があったか、全部話してくれ」
「うん」
「それに、ありがとな。おかげで、元気出た」
それから吉野くんは、また何度も日向ちゃんの名前を呼ぶ。
もちろん私も呼んだし、返事がないか、耳を澄ませる。
だけど、相変わらず返事はない。
やっぱりここにはいないのかな?
「ここは諦めて、別の場所を探した方がいいか?」
「うん。そうなのかな」
これだけ探して見つからないなら、その方がいいかもしれない。
だけど、もしここのどこかにいたら。そんな思いが、ここを離れるのを躊躇わせた。
けど、神社の周りとか遊具の中とか、普通いそうな場所は、全部探したよね。
ん? でも、ちょっと待って……
「ねえ、吉野くん。日向ちゃんとは、何度かここで一緒に遊んだんだよね?」
「ああ。外に遊びに行きたいって言った時は、しょっちゅうだ」
「ならその時、かくれんぼってしなかった?」
「そりゃ、何度か…………そういうところに隠れてるってのか?」
日向ちゃんがここで何度も遊んでたなら、普通に探しただけじゃわからない、秘密の隠れ場所ってのを知ってるかもしれない。
家を飛び出した日向ちゃんだけど、そんなことして不安にならないわけがない。
そういう時、自分だけが知ってる場所があると、ついそこに行ってしまうんじゃないかな。
「本当にそうかは、わからないけど……」
「どのみち、どこにいるかなんてわからないんだ。もう少しだけ探してみる」
吉野くんはそう言ったけど、すぐにはそこから動かず、何か考えているみたいだった。
思い出しているんだ。日向ちゃんと一緒にした、かくれんぼのことを。
「ここで日向がよく隠れてた場所。それでいて、まだ見てない所……」
小さく呟いてから、ハッとしたように駆け出す。
後を追いかけると、神社のすぐ側にある、茂みの中に入っていった。
道があるわけじゃなく、普通ならこんなところに入るなんてしないけど、伸びた茂みがトンネルみたいになってて、小さい子が隠れるのにはちょうどよさそう。
背の高い吉野くんは苦労しながらその中を進んでいったけど、少し進むと、茂みのトンネルが、ちょっとだけ広くなる。
そこに、日向ちゃんはいた。
「日向!」
日向ちゃんは、横になって眠ってた。
「ケガ、してないよね?」
「ああ、多分な」
吉野くんが日向ちゃんを抱え上げて確認し、ホッとしたように息をつく。
それからユサユサと体を揺らすと、日向ちゃんは、閉じていた目をゆっくりと開いた。
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