第15話 嘘の理由

「嘘!? どうしてそんな嘘なんてついたの?」


 私を脅かしたかったのかな?

 でも、そんな理由でわざわざ話に割って入ったりはしないよね。


「さっき話してた草野さん。少し前に、星と色々あったからね。で、坂部さんは最近星と仲良いだろ。何か揉めてるんじゃないかって思って」

「揉めるだなんてそんな。ただちょっとお願いされて、私が断っただけだから」


 けど、大森くんが来てくれて助かったのは事実だ。

 あのままじゃ、どうして断るのかうまく説明できなかったと思うから。


 だけど、草野さんの気持ちを考えると、申し訳なくなってくる。


「草野さんのお願い、断ってよかったのかな?」

「その、お願いっていったい何なの?」

「実は……」


 さっきあったことを、大森くんに話す。

 体育祭の実行委員を変わってって言われたことや、草野さんが吉野くんと仲良くなれるチャンスをほしがってたこと、全部を話した。


 そしたら、ますますこれでよかったのかなって気持ちになってくる。

 草野さんが本当に吉野くんを好きで、少しのチャンスも逃したくないって思ってるなら、私にはそれを邪魔する権利なんてないのかも。


「いや。それってさ、断ってダメなことってあるの?」

「えっ。だって……」


 草野さんの願いや、私が悩んでたこと。大森くんは、それらを実にバッサリと切り捨てた。


「草野さん、もう吉野に告白してフラれてるんだよね。それってつまり、吉野は草野さんと付き合ったりする気はないってことだろ。なのに坂部さんまで巻き込んで強引に近づこうとするのって、吉野にとっては普通に迷惑になるんじゃねえの?」

「それは……そうかも」


 誰かを好きになるのが悪いなんて、思いたくない。

 けど大森くんの言う通り、あんまりやりすぎると、時には迷惑になることもあるのかもしれない。


「でしょ。だからさ、坂部さんが気にすることは無いんじゃないの」

「うん、そうだね。ありがとう」


 そう言ってくれると、さっきまであった心の中の重しが、少し軽くなったような気がした。


「だいたいさ、恋のライバルにそんなこと頼むなんておかしくない?」

「ふぇっ!? こ、恋のライバルって、誰が!?」


 って、そんなの私しかいないよね。


「ち、違うから! 私と吉野くんはそんなんじゃなくて……」

「えっ、そうなの? 星がこんなに女の子に構うなんて珍しいし、坂部さんだって星のこと嫌いじゃなさそうだから、てっきりそういうことだと思ってた」

「いやいや、吉野くんが私に構うのは、たまたま私が日向ちゃんのことを知っただけだから。大森くんだって知ってるでしょ」


 大森くんは、吉野くんのおうちの事情を知ってる数少ない人。

 だから私と吉野くんが話すようになったきっかけだって言えるし、吉野くんが私に構う理由も、わかってると思ってたんだけど。


「そう? けどさ、きっかけが何であっても、吉野は興味ないやつに、自分から絡んだりしないと思うよ」

「そ、そうなの?」

「そうだよ。氷の王子様は伊達じゃないって。ほとんどのやつには、本当に冷血人間なんだからさ」


 酷い言い様。これ、吉野くんが聞いたら、さすがに怒るんじゃないかな?


「まあ、坂部さんにそんな気がないなら、わざわざ意識しなくてもいいと思うけどね。けど、吉野のこと好きなら、ガンガンアタックしていっていいと思うよ」

「だから違うってば!」


 私が声をあげると、大森くんはおかしそうに笑う。

 ああ、そうか。大森くん、私をからかってるんだ。きっとそうに違いない。

 もう。本気にするところだったよ。


 思わずドキッとしちゃったけど、それもきっと、からかわれたせいだよね。

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