第13話 ハプニング発生
「もう少ししたら、お姉ちゃんたちのところに行った方がいいかな?」
いくつかのアトラクションに乗った後、スマホを見て時間を確認する。
ジェットコースターに乗った後も、吉野くんと私、それぞれ行きたい場所を交互に挙げて回っていたけど、予定していた合流の時間まであと少しになっていた。
「いつの間にか、結構時間が経っていたんだな」
「そうだね」
最初は、吉野くんと一緒に回るなって緊張してたけど、いつの間にかしだいにそれも無くなってきていて、この時間が終わっちゃうって思うと、ちょっと残念。
そう思っていると、前の方から賑やかな音楽が聞こえてきた。
見ると、この遊園地のマスコットくま吉とその仲間たちによるパレードが、道の真ん中を進んできている。
モコモコしたキャラクターが集団になって歩く姿は、愛らしくて爽快だ。
「なあ。あれ、写真に撮っておいた方がいいんじゃないか」
「そうだね。たっくんや日向ちゃんも、くま吉に会いたいってはしゃいでたから、パレードだって見たかったって言うかも」
二人ともスマホを構えて、次々に写真を撮りはじめる。
パレードを見てる人は他にもいるから、邪魔にならないように気をつけて、なおかついい写真が撮れそうなアングルを探す。
パレードの列通り過ぎようとしても、もう少し撮っていたいから、ちょっとだけ追いかけてさらに撮る。
そして、ようやく満足いったところで気づいた。
「あれ、吉野くんは?」
吉野くんの姿がどこにもない。
さっきまで、すぐ近くで写真をとってたのに。
「もしかして、はぐれた?」
周りに人が多かったし、なにより私、パレードを追いかけて移動してたんから、その間にはぐれたんた。悪いの私じゃない。
念のため辺りを見ても、吉野くんの姿は見つからない。
「どうしよう。あっ、そうだ。スマホで連絡すればいいんだ」
吉野くん宛にメッセージを打とうとしたけど、そこで、不意に声をかけられた。
「ねえ。君、一人?」
えっ?
見みると、そこにいたのは、知らない男の子が三人。
みんな、私より少し年上っぽかった。
「なんだかキョロキョロしてたけど、大丈夫?」
「はい。もう、何とかなりそうなので」
吉野くんとはぐれた時はどうしようかと思ったけど、スマホで連絡すればなんとかなるからね。
だけどそこで、男の子の中の一人が言う。
「それならよかった。ねえ、せっかくだからさ、これから俺たちと一緒に回らない?」
「えっ……?」
なんで、今の話でそういうことになるの?
まさか、これってもしかしてナンパってやつ?
いや、そんなはずないよね。そういうのって、もっと可愛い子が声かけられるものでしょ!?
「あの。私、家族や友達と一緒に来てるので……」
とにかく、この人たちとはあまり関わらない方がよさそう。
逃げようとしたけど、そんな私の手を、一人ががっちりと握ってきた。
「えぇ〜っ。そんなのどこにいるのさ? 会わせてよ」
「や、やめてください……」
叫びたかったけど、体が震えて、小さい声しか出てこない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう────
パニックになりかけた、その時だった。
「おい、何してる」
突然の言葉。それと同時に、私を掴んでた手が、無理やり引き離される。
「よ、吉野くん!?」
いつの間にいたんだろう。
そこにいたのは、吉野くん。それから吉野くんは、私を庇うように三人の男の子の前に立つと、キッと彼らを睨みつけた。
「嫌がってるのもわかんねーのかよ」
「あ? なんだよお前」
「こいつの知り合いだよ。お前たちこそなんなんだよ」
三人相手だってのに、吉野くんに怯む様子は全くない。
むしろ、彼の突然の登場に、男の子たちの方が動揺していた。
「なんだよ。文句あるのかよ」
「当たり前だろ。言っとくが、ここで揉めたら、どう見てもお前らの方が悪者になるぞ。こんなところに来て問題起こすか?」
「くっ……」
男の子たちは見るからに怒ってたけど、問題を起こしてまでどうにかしようとは思わなかったみたい。
チッと大きく舌打ちをすると、三人まとめて去っていった。
その姿が見えなくなったところで、急に体から力が抜けた。
「こ、怖かった……」
「おい、大丈夫かよ」
「な、なんとか。けど、ちょっとだけ休んでいい?」
とりあえず、近くにあったベンチに座り込む。
すると吉野くんが、その横にあった自動販売機でジュースを買って差し出してきた。
「とりあえず、これ飲んで落ち着け」
「う、うん。ありがとう。あっ、お金──」
「そんなのいいから。それより、大丈夫か?」
「うん。もう平気だから」
凄く怖くてびっくりしたけど、吉野くんのおかげで助かった。
それに守ってくれて、すごくホッとしたんだ。
だからかな。ジュースを飲み終わる頃には、だいぶいつもの調子に戻ることができたんだ。
「はぐれてごめんね」
「俺だって、お前のこと見てなかったから、お互い様だろ。悪かったな」
「そんな。吉野くんが謝ることなんてないじゃない」
「じゃあ、お前も謝るの禁止な」
ボソッとした声でそう言われたけど、なんだかそれは、気にするなって言ってくれてるような気がした。
「で、これからどうする。もう少し休んでおくか」
「だから、もう大丈夫だって。ほら、この通り」
勢いよくベンチから立ち上がって、平気だってアピールする。
「それならいいけど、きついなら無理せずすぐに言えよ」
「うん。それより、そろそろお姉ちゃんたちと合流しないと」
さっきまではまだ時間に余裕があったけど、パレードを見たりはぐれたりナンパされたりで、ずいぶん時間がかかっちゃった。
いい加減行かないとまずいかも。
「そうだな。今度は、はぐれないように気をつけて行くぞ」
気をつけるなんて大げさだよ。なんて言いたいところだけど、たった今あんなことがあったんだし、その方がいいよね。
そう思ったんだけど……
「ほら」
「えっ?」
よ、吉野くん。私の手をとってるんだけど!
思わず声をあげると、吉野くんは最初はキョトンとしてたけど、すぐにハッとしたように、慌ててその手を離した。
「あっ、悪い。はぐれないようにって思ってたら、つい」
「ついって……」
「仕方ないだろ。日向にそう言う時は、いつも手を繋いでるんだから」
ああ。こんなところも、基準は日向ちゃんなんだ。
なんていうか、すっごく吉野くんらしい理由だった。
「私は、日向ちゃんじゃないけどね」
「わかってるよ。悪かったな。さっき怖い目にあったばかりなのに、また手を掴んで。嫌じゃなかったか?」
「い、嫌じゃないよ!」
吉野くん、そこを気にしてたんだ。
確かに、急に手を握られたのは驚いたし恥ずかしかったよ。
けど、それが嫌かって言われると、そんなこと絶対にないから!
「吉野くん、私のためを思ってやってくれたんでしょ。普段、日向ちゃんにやってるみたいに」
「まあ、そりゃそうだけど……」
「だ、だから、全然平気だよ。ほら!」
さっき離した手を今度は私から握る。
嫌じゃないってこと、しっかり吉野くんに伝えたかった。
「む、むしろ気遣ってくれてありがとうだから!」
「いや、ありがとうって言われることなのか、これ?」
「えっと……どうだろう?」
なんだかいっぱいいっぱいになってて、自分でも何言ってるのかわかんなくなってるよ。
「と、とにかく、もうはぐれないように、お互い気をつけるぞ」
「そ、そうだね。それに、早くお姉ちゃんたちのところにいかなきゃ」
こうして私たちは、慌てて合流場所に向かう。
でもね。その間、さっき繋いだ手は、ずっとそのままだったんだ。
離したら、本当は嫌がってるのかもって、吉野くんに誤解されるかもしれない。そう思ってたら、なんとなく離すタイミングを無くしちゃった。
今日一日、ワクワクしたことも、怖いことも、たくさんあった。
だけどそのどれよりも、吉野くんと手を繋いでる今が、一番ドキドキしている気がした。
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