第11話 吉野くんと二人きり

 クマ吉カチューシャをつけたたっくんと日向ちゃんの写真を撮りまくった、私と吉野くん。


 できることならいつまでだって撮り続けたいけど、そんなことしたらアトラクションを回る時間が無くなっちゃう。

 たっくんと日向ちゃんも、早く行きたい行きたいって言いだしたから、写真撮影はそこで中断。全員で、園内を回ることにした。


 今日の主役はたっくんと日向ちゃんだから、どこに行くかは二人の希望優先。

 メリーゴーランドやコーヒーカップみたいな小さい子でも乗れるアトラクションを中心に回って、今は汽車の形をした子ども用のトロッココースターに乗っている。


 そして私と吉野くんは、そこでも次々に写真を撮り、お互い撮った写真を見せ合っていた。


「この、木馬にしがみついてるのなんてどう?」

「いいな。俺の中では、コーヒーカップのベストショットはこれだと思うんだが、どうだ?」

「あっ、これいい! 私のスマホにも送って!」


 こんな感じで、どの写真がいいか、そしてたっくんや日向ちゃんがいかに可愛いかを、延々話し続けてる。


 学校では氷の王子なんて言われて塩対応の吉野くんだけど、日向ちゃんのこととなると本当に甘々で、いくらでも話せちゃう。


 だけどそんな私たちを見て、お姉ちゃんが言う。


「あなたたち。写真撮るのに夢中になるのもいいけど、少しは自分の乗りたいもの言ってもいいんじゃないの?」

「えっ?」

「ここに来てから、二人ともほとんど何も乗ってないじゃない」


 確かに。

 って言うのも、たっくんや日向ちゃんが乗りたがるもの、乗れるものは、ほとんどが身長制限のない、小さい子向けのやつ。

 中学生の私たちが乗るには、ちょっと恥ずかしいものが多くて、ほとんど外から見てるだけだった。

 でも、それが嫌ってわけじゃない。


「元々、今日はたっくんがメインで、私は付き添いみたいなものでしょ。それに私、二人の写真撮ってるだけで楽しいから」


 吉野くんにいたっては、私よりもっと極端だ。


「俺は日向の保護者だから。ちゃんとついていないといけないし、自分が乗るなんて考えてなかったな」


 この通り。最初から、自分がアトラクションで楽しもうなんて思ってなかったみたい。


 だから、このままで全然問題なし。

 と思ったんだけど、お姉ちゃんや正夫さんは、どうにも気になってるみたい。


「二人がそれで大丈夫って言うなら別にいいのかもしれないけど、二人は二人で、もう少し楽しんでもいいんだよ。知世ちゃんは、普段巧の面倒を見てもらってるお礼がしてくて誘ったんだから」


 うーん、そういえばそうだっけ。

 もちろん私は今も十分楽しんでるけど、自分の行きたいところに行って遊ぶのも、それはそれで楽しいと思う。

 じゃあ、吉野くんはどうなのかな?


「吉野くんも、少しくらいなら日向ちゃんの面倒は僕たちが見るから、その間遊んできても構わないから」

「けど俺がいなかったら、日向が寂しがるかもしれないし……」


 日向ちゃんにしてみれば、吉野くんとたっくん以外は、ほとんど話したこともない人たち。

 そんな中吉野くんがいなくなったら、不安になるかもしれないよね。


 するとちょうどそのタイミングでトロッココースターが終わって、たっくんと日向ちゃんが降りてくる。


 そしたら日向ちゃん。なぜか吉野くんじゃなくて、お姉ちゃんの方に駆け寄っていった。


「日向ちゃん、楽しかった?」

「うん! 汽車がガタゴト言ってて、ぐるーんって回ってたの!」

「おぉっ。すごいすごい!」

「それでね、それでね──」


 日向ちゃんは、トロッココースターが面白かったのはもちろん、それをお姉ちゃんに話すのが楽しくてしかたないって感じ。

 お姉ちゃんも笑顔で聞いてるもんだから、ますます楽しくなって、次から次へと喋り続けてる。


「なんていうか、すごい懐きようだね」

「そうだな」


 これなら、少しの間吉野くんが離れても、日向ちゃんが寂しがることはないかも。


 お姉ちゃんや正夫さんもそう思ったみたいで、改めて吉野くんに聞いてきた。


「日向ちゃん、しばらくなら私たちが面倒見てなんとかなりそうだけど、どうする?」


 吉野くんは少し困ったような顔をして、すぐには何も答えない。

 今日は完全に日向ちゃんの保護者のつもりで来たから、急に言われてもどうすればいいのかわからないのかも。


 するとお姉ちゃん。吉野くんの側によって、小さい声で何か囁いた。


「えっ────?」

「というわけなの。頼まれてくれない?」


 なんて言ったの?

 気になったけど、声が小さくてわからない。


 それから吉野くんは、日向ちゃんのそばでしゃがみ込んで、言う。


「日向。兄ちゃん、少しの間いなくなるけど、いい子にしていられるか?」


 さらにお姉ちゃんが、遊園地のパンフレットを見せながら、それに続く。


「お兄ちゃんが帰ってくるまで、私たちと一緒に回ろうか。次はどこに行きたい?」


 日向ちゃんは最初キョトンとしたけど、パンフレットにあるアトラクションの写真を見ているうちに、すぐに興味が移ったみたい。


「観覧車! それに、お化け屋敷にも行きたい! あっ、たっくんはどこがいい?」

「僕は、ミラーハウスってとこ行きたい」


 たっくんと二人仲良く次に行く場所を選ぶ日向ちゃん。それを見て、吉野くんは安心したように息をついた。


「兄ちゃんがいなくても、ちゃんといい子にしてるんだぞ。ワガママ言ったらダメだからな」

「はーい」


 吉野くんは日向ちゃんの返事を聞くと、今度は私のところにやって来る。


「というわけで、しばらくの間俺は俺でみんなとは別に回るつもりだけど、お前はどうする?」


 そうだろうなって思ってたけど、吉野くん、日向ちゃんとは別行動することにしたんだ。

 迷ってたみたいだけど、お姉ちゃんが何か言ったとたんに様子が変わったよね。なんて言われたんだろう?


「なあ、どうするんだ?」

「あっ。 それじゃあ、私もそうしようかな」


 私も、さっきまでどうしようかなって思ってたけど、吉野くんが別行動するなら、私もそうしてみようかな。


「じゃあ、行くか」

「うん。お姉ちゃん、行ってくるね」


 そうして私たちは、お姉ちゃんたちと別れて歩き出す。

 だけど、そこで気づいた。


 吉野くんと私は、みんなと離れて別行動。

 これってもしかして、二人きりで遊園地を回るってこと!?

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