一緒に遊園地!?

第10話 みんなで遊園地

 遊園地行かない?


 お姉ちゃんからそう言われたのは、今から少し前の話。


 普段はお仕事で忙しい、お姉ちゃんと正夫さん。だからこそ、揃ってしっかり休める日は、たっくんと一緒にお出かけしようと、計画していた遊園地行き。

 それに、私も一緒にどうかって誘われたの。


 最初は、家族三人で行った方がいいんじゃないかって言ったけど、私も一緒の方がたっくんも喜ぶって言われて、それなら連れていってもらう事にしたんだ。


 私も、遊園地に行くのは久しぶりだから、楽しみにしてた。


 だけどまさか、こんなことになるなんて。








「……坂部。なあ、坂部?」

「────!? は、はい!」


 急に名前を呼ばれ、慌てて返事をする。

 それと同時に横を向くと、そこには学校一のイケメン、吉野くんの顔がある。しかも、すっごい至近距離に。


 ここは、正夫さんの運転する車の中。

 六人乗りで、運転席と助手席の後ろに二人がけのシートが二列あるって配置になってるんだけど、私の席は最後尾。そしてその隣に座ってるのが、吉野くんだ。


 私たちの前の席に座っているのは、たっくんと日向ちゃん。

 今は、このメンバーで遊園地に向かっている最中だった。


「俺と日向までついてくることになって、悪かったな。迷惑だったか?」

「そんなことないって。吉野くんこそ、急に行くことになったけど、予定とかなかった?」

「いや、特には。今日は保育園も休みで、一日日向と一緒にいるつもりだったし、日向も喜んでるから、正直すごくありがたい」

「よかった。日向ちゃん、すっごく楽しみにしてるもんね」


 昨日届いたメッセージで、吉野くんも一緒に遊園地に行くって聞いた時は驚きすぎて声をあげたけど、嫌とか迷惑とかは思ってないから。

 日向ちゃん。友だちから遊園地に行くって話を聞かされたら、自分だって行きたくなっちゃうよね。


「日向、昨日家に帰ってからはずっと遊園地の話ばかりしてて、夜寝かしつけるのに苦労したよ」

「わかる。私も、小さいころ遊園地に行く時は、前の日眠れなくなってたもん。たっくんもそうじゃないかな?」


 そんな日向ちゃんとたっくんは、今も二人揃って大はしゃぎだ。


「遊園地〜、遊園地〜!」

「遊園地〜、遊園地〜!」


 この通り、さっきから歌うように遊園地コールを繰り返してる。

 そんな二人を見て、お姉ちゃんも笑ってた。


「日向ちゃんと一緒の方が、巧も楽しそうね」


 そうしているうちに、車は遊園地の駐車場へと到着した。


「さあ、着いたよ。巧、日向ちゃん、今降ろすから、少し待ってて」


 正夫さんはそう言うと、一度自分だけ外に出てから、たっくんと日向ちゃんを抱えて下ろす。

 あと、走っちゃダメだよって注意していた。


 そうしないと、二人とも一目散に駆け出しそうだったから。


 遊園地に入る前にはぐれたりしないよう、たっくんは正夫さんが、日向ちゃんは吉野くんが、しっかり手を握る。

 そうして全員で入場ホールに向かって歩いていくけど、その途中、お姉ちゃんが私に言ってきた。


「吉野くんって子、面倒見いいし、しっかりしてていい子ね。それに、すっごくイケメン」

「うん。そうだよね」


 学校では、王子様って呼ばれてるくらいだからね。

 正確には氷の王子様だけど、今は完全に日向ちゃんの保護者モードだし、お姉ちゃんや正夫さんには礼儀正しくしてるから、普段よりさらに爽やかさがアップしてるかも。


「ねえ、知世。そんな子と一緒に遊園地行くのは、どんな気分?」

「えっ?」


 驚く私を見て、ニヤニヤ笑うお姉ちゃん。


「イケメンくんと、仲良くなれるチャンスかもよ」

「ふぇぇぇぇっ!?」


 ちょっ、ちょっと待ってよ!

 そりゃ、確かにそういうの、全然考えなかったわけじゃないよ。

 何しろ、男子と一緒に遊園地行くのなんて初めて。たっくんや日向ちゃんみたいな小さい子ならともかく、私たちくらいになると、どうしても意識しちゃう。


 しかも、その相手は吉野くん。うちの学校の女の子が知ったら、羨ましがる子はたくさんいそう。


 でもでも、ここに来た目的は、決してそんなんじゃないってこと、お姉ちゃんも知ってるでしょ!


「もう! 今日の主役は、たっくんと日向ちゃんでしょ。吉野くんだってそのつもりで来てるんじゃない」


 今の話、吉野くんには聞かれてないよね。

 チラッと様子を見るけど、吉野くんは日向ちゃんの手を引くことに集中していて、ちっとも気づいてないみたい。

 よかった。あんなの聞かれたら、気まずいどころじゃないよ。


「吉野くんにも、変なこと言ったりしないでよね」


 お姉ちゃんにそう言って、この話はこれでおしまい。きれいさっぱり忘れよう。


 ってできたらよかったんだけど、あんなこと言われたら、どうしても意識しちゃうし、心配にもなるよ。


 例えば、もしもうちの学校の誰かがここにいて、私たちが一緒にいるところを見られたら、あらぬ誤解をされるかも。


 そう思うとなんだか不安になって、チケットを買う時も、遊園地の中に入ってからも、どこかに知ってる人がいないかキョロキョロ探してた。


「知世、何してるのよ?」


 そんな私を見てお姉ちゃんは笑うけど、お姉ちゃんは吉野くんの人気を知らないからそんな呑気でいられるんだよ。


 吉野くんはどうだろう。女の子と一緒に遊園地に来るってこと、何も意識してないのかな?


 って思ったけど、吉野くんが意識してるなんて、まるでイメージできないや。

 だいたい吉野くんにとっては、私なんてオマケみたいなものだろうからね。

 今だって、吉野くんの目は日向ちゃんに釘付けになってるもん。


 だけどね。日向ちゃんの姿を見たとたん、私の目も釘付けになっちゃった。


「な、なにこれ!」


 と言うのも、今の日向ちゃんは、さっきまでの日向ちゃんじゃない。

 実はこの遊園地、クマ吉っていうクマのマスコットがいるんだけど、6歳以下の子どもは、チケットを買った時クマ吉の耳のついたカチューシャがもらえるの。


 日向ちゃんは、早速そのクマ吉カチューシャをつけてたんだけど、それがすっごく可愛いの。

 もちろん普段の日向ちゃんだって可愛いんだけど、クマの耳なんてキュートアイテムがついた日向ちゃんは、さらに可愛さがアップ!


 しかもしかも、可愛いのは日向ちゃんだけじゃなかった!


「わぁっ! たっくんも!」


 日向ちゃんのすぐ横で、たっくんも同じようにクマ吉カチューシャをつけていた。

 もちろんこっちもすごく可愛くて、そんな二人が並んで無邪気に笑っているもんだから、相乗効果でさらに凄いことになってるの!


「お兄ちゃん。似合う?」

「お姉ちゃん。似合う?」


 揃って私たちにそう聞いてきたものだから、もうメロメロになっちゃった。


「似合う似合う! すっごく良く似合うよ!」


 もちろん、メロメロになったのは私だけじゃない。


「坂部。お前もこの良さがわかるか」

「もちろん。ふたりとも可愛すぎ!」

「あっ、そうだ! 写真撮らないと!」

「私も撮る!」


 スマホを取り出し、揃ってカメラを連射する私と吉野くん。


 お姉ちゃんが変なこと言うからドキッとしたけど、たっくんと日向ちゃんの前では、そんなの吹っ飛んじゃった。


 そのお姉ちゃんはというと、正夫さんと一緒に、私たちを見ながら笑ってた。


「二人揃って子供たちに夢中とはね」

「こりゃ、僕たちが写真撮る必要ないかもね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る