第4話 星side 氷の王子様の独白

「まさか、あんなところで同じクラスのやつに会うなんてな……」


 保育園からの帰り道。日向の手を引いて歩きながら、ついさっきあったことを思い出す。


 日向、それに日向の友達のたっくんと思いっきり遊んで、猫なで声で話しかけている姿をバッチリ見られてしまった。


 別に悪いことしてる訳じゃないから、見られたからってなんだって言われたらそれまでだ。

 けどクラスのやつにそれを見られるのは、なんか、かなり恥ずかしい。


 坂部知世。今までろくに話したこともないやつだったけど、まさかあんなところで会うなんて、世間狭すぎだろ。


 思いっきり怒ってビビらせて、口止めしてやろうかって思ったけど、それをやめたのは、坂部の持ってた日向の写真がほしかったから────だけじゃない。


「楽しそう、か」


 父さんに変わって俺が日向を保育園に迎えに行くようになってから、ずいぶん経つ。そんな事情を知ると、ほとんどのやつが、自分の時間がなくなって大変だの、かわいそうだのと言ってくる。

 それが、すごく嫌だった。


 日向を迎えに行くのは家族の中での俺の役割だし、面倒見るのはむしろ楽しい。

 だって日向だぞ。天使だぞ。一緒に遊べて嬉しくないわけないだろ!

 なのに、勝手な基準で同情されたくなかった。


 昔からの友人の俊介だけは、「お前は日向ちゃんのこと大好きだからむしろラッキーだろ」と言ってたけど、それに加えてシスコンシスコンとからかってくるから、それはそれでウザいんだよな。


 だから中学に入ってからは、そんな風に言われることのないよう、日向を迎えに行くのは周りには秘密にしていた。

 放課後遊びに誘われても、適当な理由で断るようにしていた。


 けど坂部は、そんな俺の事情を聞いて、真っ先に言ったのが、楽しそうだったんだよな。


 そんな風に言われたことなんてなかったから、なんだか新鮮だ。


「もしかすると、あいつも俺と似たようなもんなのかもな」


 すぐに楽しそうって発想が出てくるのもそうだし、そもそもあいつ、スマホにたっくんの写真フォルダなんて作ってる。

 姉の代わりに迎えに来たって言ってたけど、ただ頼まれてやってるだけなら、あんなの普通は作らねえよな。


「なあ日向。さっき会った、たっくんのおばさん──いや、お姉ちゃんのこと、日向は何か知ってるか?」

「たっくんのお姉ちゃん? たまにたっくんをお迎えに来ることがあって、前に遊んでもらったこともあるんだよ。たっくんも、お休みの日はたくさん遊んでもらってるんだって」

「そっか」


 やっぱり、坂部も俺と同類みたいなもんだろう。

 それにしても、日向も遊んでもらったことがあったのか。

 今まではたまたま保育園で鉢合わせすることはなかったけど、どのみちどこかのタイミングで会ってたかもな。


 なんて思っていると、突然日向がこんなことを言ってきた。


「ねえお兄ちゃん。あのお姉ちゃん、お兄ちゃんの彼女なの?」

「かの──!?」


 ちょっと待て。いきなり何を言い出すかと思えば、俺と坂部が彼女?

 って言うか日向、そんな言葉いったいどこで覚えた?


「違う違う。だいたい彼女って、意味わかって言ってるのか?」

「うん。すっごく仲良しな人のことでしょ」


 まあ、間違ってはいないが、なんかそれだと肝心なものが抜けてる気がする。

 けど、小学生にもなってない子どもの感覚じゃ、そんなものか。


 まだ当分の間、そのままでいてくれよ。

 彼氏ができたなんて言って男を紹介するのは、十年以上は先でいいからな。


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