#007 条件破棄と限界
「……ぐえつっ!?」
体を駆け抜ける痛みに、思わず声にならない声が漏れる。
「ゆめ…………いや、現実か」
あまりにもハードモードな現実だが、残念ながら今日も俺は石と鉄格子に囲まれた異世界にいた。
「いつまで、続くのか……」
結局ミレーネさんに手も足も出なかったわけだが、残念ながら状況は『仕方ないよね』で済ませられない。
どうせ殺すならサッサとやってくれっと思わなくもないが、今思えばスキル対策なのだろう。召喚勇者には多彩な
「起きたようだね。骨などは折れていないはずだが……」
「まぁ、なんとか」
「そうか」
監視していたのか、それとも偶然か。ミレーネさんがやってきた。
「その…………どうでしたか? 俺」
俺の価値が示せれば、別派閥の召喚勇者として現状を打開できる。移籍したところでって問題もあるが、選択肢は多いにこしたことはない。
「正直なところ、まぁ、戦力外だね」
「ですよね」
まぁ分かっていた事だ。DがCになったところでそこらの兵士と変わらない。こういう低ステータスユニットは固有能力勝負だが、肝心のスキルも掴みどころがない。
「しかし、興味深くはあった。君は、才能は無いが実力はあるな」
「それは……」
この世界の才能はステータスと同義。つまりステータスのわりには強かったってことになる。
「「…………」」
そっと兵士の様子を確認するミレーネさん。牢屋内は外から見えないものの、看守の判断で中を覗きにくる可能性もある。会話は…………考えてみれは普通に話しているけど、もしかしたら消音の魔道具でも使っているのかも。
「最初、君は身体強化をすべて動きにあてているのだと思った」
「それは、まぁ、間違っていないかと」
「しかし違った。防御力や、探知能力も上げていたんじゃないのかい?」
「あぁ、そういう意味ですか。そうですね。とりあえずひと通り」
「対象を動きに限定すれば、あの動きも理解できるが…………それが他もあがっていたとなると話は変わる。本来、強化魔法は対象を分散させると、それだけ効果が弱くなるものなのだ」
無意識にやっていたので気づかなかったが、たしかにゲームだとそんな仕様のものが多い。とはいえ、ようするに単体強化魔法を全部まとめて使っていただけ。いちおう『素早さのみを集中的に上げる』みたいな使い方もできるが、あるていどバランスも考えないと(凡人並みの)体が耐えられなくなる。
「そういう使い方も出来ますよ。実戦的じゃないですけど」
「君はそれが当たり前だと思っているようだが、本来、強化魔法はそこまで柔軟に調整できるものではない」
「あぁ……」
たぶん<条件破棄>の効果なのだろう。型にとらわれないというか、任意の調整が得意になるのだ。
「それと、あの強化率は初級強化魔法の域を逸脱している。中級、いや、上級といっても良い」
「あっ」
そこでようやく思い出した。対魔の指輪だったか、何故かこの世界では、同じ魔法・効果を重ね掛けできない。そのルールを俺は無視できているとしたら、ミレーネさんの驚きも理解できる。
ゲームで例えるなら、10%アップの魔法を10回重ね掛けして100%アップしていたようなものだ。そもそも通常版を知らなかったので気づかなかったが、これは充分チートであり、勇者に授けられる特典として相応しいのがわかる。
「あれなら目撃者(一般兵士)に悟られることはないだろうが、無暗に使わない事をお勧めする」
「はい。そうですね」
ようやく武器を手にした気分だ。惜しむらくは基本ステータスの低さだ。これがA判定だったら、千倍や万倍、あるいはそれ以上を目指せたかもしれない。しかし現状では、もとのステータスが低いのに加え、魔力量の問題で重ね掛けにも限界がある。
「それじゃあ…………"これ"を渡しておく」
「これは……」
渡されたのは何やら文字が書き込まれた布切れ。これなら隠し持っていても気付かれづらいだろう。
「幾つか魔法を書きとめておいた。何かの役にたつだろう」
「ありが、どう、ございます……」
思わず涙が零れてしまう。そこに派閥や国益に対する打算があったとしても、ミレーネさんが俺にとっての光明である事実は変わらない。
*
ひとまずお試しで書いた部分はここまでになります。良ければ評価やコメントしていただけると助かります。
[お試し] ルールブレイカー~俺はこのゲームみたいな異世界に抗っていく!!~ 行記(yuki) @ashe2083
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