第10話 しっぽ取りゲーム
今はタグラグビーが普及して、ルールも確立してきた。でも豪介がしっぽ取りゲームを考えたのは、新任のころだから30年以上も前のことである。
ルールは単純だ。運動会で使う鉢巻きを、ズボンの後ろにつけて、奪いあうのだ。
「それでは、しっぽとりゲームをします。ルールがいくつかあります。
1つ目、しっぽをにぎりながら走ったりしてはいけません。すぐにとられるようにしておいてください。
2つ目、相手をおしたり、倒したりしないでください。そういうことがあるとゲームは終了です。
3つ目、しっぽをとられても相手のしっぽをとることはできます。
4つ目、チャンピオンは勝ったチームの中で一番多く取った人です。負けたチームからはチャンピオンはでません。以上です。質問はありますか?」
「先生、かくれてもいいんですか?」
「いいですけど・・かくれていたらつまんないと思いますよ」
「先生、二人で一人をおいかけてもいいんですか?」
「もちろん! それこそチームワークだと思いますよ」
というやりとりをした後、ゲームが始まった。
左右のサッカーゴールから紅白のチームが走り出す。運動の苦手な亮くんはサッカーゴールの後ろから動かない。まだ、自分がどうしたらいいかわからないのかもしれない。そのうちに、相手チームがサッカーゴールにせまってきて、亮くんは逃げ出した。近くの茂みに走ったが、すぐに追いつかれ亮くんの鉢巻きはとられてしまった。(おわった)という顔をしている。だが、今日は違う。同じチームの春樹くんが、
「亮くん、二人でつかまえよう。亮くんが追いかけて、オレが鉢巻きをとる。いこうぜ」
と言ってきた。亮くんはしぶしぶ従いながらも、足の遅い女の子を追いかけ始めた。そこを足の速い春樹くんが近づいて、鉢巻きを奪取する。
「亮くん、いいぞ。その調子!」
と春樹くんが声をかける。亮くんも少しやる気になった。また新たな相手をさがしに走り出した。
5分たったところで、豪介のホイッスルがなる。子どもたちは5分間走り続けていたので、へとへとだ。勝ったのは亮くんのいる紅チーム。春樹くんは3本とって、チャンピオンになった。
「亮くん、ありがとうな。オレがチャンピオンになったのは亮くんのおかげだよ」
という春樹の言葉で亮くんはニコッとしていた。エースにはなれなくても運動は楽しいと思えるようになったのである。
次の体育の時、子どもの中から
「先生、しっぽとりゲームまたよろうよ。それも全員がとられるまで」
という声があがった。
「それだと、紅白どっちも勝ちにならないよ」
と豪介が言うと、
「チームじゃなくて、全員が敵。一番多くしっぽをとった人が勝ちというルールではどうですか?」
「うーん、それじゃおもしろくないな。チームワークを大事にしたいからな。それじゃ、2人1チームではどうだ。2人で協力してやり、チャンピオンも2人だ」
「いいね。それでいこう!」
ということで、2人で1チームを作ることになった。亮くんは春樹くんといっしょである。1人余ったので、豪介と組むことになった。
いざ、ゲーム開始。校庭全体に子どもたちが広がる。亮くんは早々にしっぽをとられてしまった。それでも春樹くんといっしょに走りまわっている。最後の子は全員から追いかけられて、四苦八苦していた。10分ほどで終了。チャンピオンは春樹くんと亮くんチーム。2人で4本とった。ボクシングの勝利者のように腕を持ち上げたら喜んでいた。豪介といっしょにくんだ子は
「先生ったらさっぱり走らないんだもの。役にたたないわね」
とぼやいていた。ひたすら謝るしかない豪介であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます