第9話 2ボール・ドッジボール

 3年生になるとドッジボールが大はやりだ。でも、豪介はドッジボールが好きではない。得意な子ばかりがボールにさわり、苦手な子はあてられた後、外野でただ突っ立っているだけだからだ。そこで豪介はドッジボールをする時に、必ず守るルールを作った。

1.とったボールは自分で投げること。同じラインにいる友だちにパスをしてはいけない。

2.顔はねらわないこと。頭にあたってもセーフ。

3.投げる時に片足がでるのはセーフ。

4.投げた後に両足がでたらアウト。相手チームのボールになる。

5.元外野(最初から外野にはいる人)もあてないと内野に入れない。ただし、すぐでなくてもいい。

 これで、苦手な子も授業に参加できるようになった。あてることはできなくても、外野から内野にパスはできるようになったからである。

 だが、ドッジボールのだいご味は、なんと言ってもあてることである。苦手な子にも、そのだいご味を感じさせたいと思ってやるのが、2ボールドッジボールである。追加ルールは次のことである。

6.バウンドしたボールにあたってもアウト。

これは後ろからあてられることが多くなるので、それがノーバウンドかどうかはわからない。よって、ボールにあたったら、それはすべてアウトということにしたのだ。

 さて、ゲーム開始だ。そこで、子どもから質問がでた。

「先生、元外野は何人ですか?」

 ということで、

「何人でもいいよ。でもあてないと内野に入れないからね」

 と言われ、なかなか外野にでる子がいなかった。外野が多ければ負けになってしまう。すると運動の苦手な澄江ちゃんが外野にでると言い出した。

 澄江ちゃんは大忙しである。ボールにあてられることはないが、ボール拾いに走り回っている。ボールを拾っては、内野の子にパスをしている。もうへとへとになっている。そのうちに当てられた子がでて、澄江ちゃんの役目は終わった。と思った瞬間、澄江ちゃんのところにボールが転がってきて、それを取ると目の前に後ろ向きの相手チームの子がいた。目をつむって思い切って投げると当たってしまった。豪介の「ピッ」という笛がなる。澄江ちゃんにとって、人生初のドッジボールでとったアウトである。

 澄江ちゃんは立ちすくしている。あててすぐに内野に入る必要はないのだが、初めての経験なので戸惑っているのかもしれない。それに気づいた豪介が

「澄江ちゃん、内野に入っていいんだよ」

 と言うと、澄江ちゃんは内野に入った。そこで、5分間のタイムアップ。澄江ちゃんのチームが勝利。澄江ちゃんは満面の笑みを浮かべていた。

 今日も豪介は走らずに終わった。澄江ちゃんはたくさん走ったので、くたくただった。

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