第5話 1面ドッジボール

 2年生にドッジボールをさせることになった。でも、2年生のパワーではなかなかあてることができない。そこで、1面だけのドッジボールをさせることにしたのである。

 体育館にひかれているラインを使って、その4隅にカラーコーンをたてる。ふつうのドッジボールの半分の広さである。それでも2年生には大きい。ノーバウンドで投げられる子どもは半数程度だ。そこで、豪介は秘策をもっていた。それは途中で明らかになる。

「最初は紅チームが外野で投げます。内野の人はよけるか、とるかどちらかです。あたった人は外野にまわり、白チームといっしょに投げる方になります。チャンピオンは最後まで残った人です」

「先生! 内野でとったボールはどうするんですか?」

「それは外野の人にぶつけてもいいし、どこか遠くへ投げてもいいですよ。それととなりにいる人へのパスはだめです。とったボールは自分で投げてください」

 ということで紅チーム先攻で始まった。半数ほどはすぐにあたった。あたる子どもはどちらかというと、ドッジボールが得意な子どもたちである。ねらわれやすいし、ボールを捕ろうとして、手をだしてしまうからである。時々、内野の子がボールを捕ると、外野の子はクモの子が散るように後ろに下がる。そして、遠くへボールが投げられると我先にボールを捕りにいく。キャーキャー言いながら楽しそうだ。

 ところが、半数近くになってから、なかなかあたらない。逃げることが得意な子どもたちが残り、人数も少ないので動きやすくなったからである。そこで秘策をだした。カラーコーンの2本を移動してコートを狭くしたのである。内野にいた子どもたちは、

「エー! それはないよ」

 と騒いでいる。

「レベル2だよ」

 とゲーム感覚で子どもたちを納得させる。それでも、なかなか終わらない。そこでまたまたカラーコーン2本を内側に入れる。最初の広さのほぼ半分である。

「レベル3だよー!」

 と言うと、残っていた3人のうち2人があてられてチャンピオン決定。運動の苦手な澄江ちゃんだった。子どもたちの思いやりの精神なのか、澄江ちゃんをあててもつまらないと思ったのか、豪介が澄江ちゃんへ拍手をすると子どもたちも拍手してくれた。本人もまんざらではないようだ。

 後半は白チームの攻撃である。澄江ちゃんはボーッと立っているだけだったが、時々遠くへ投げられたボールを追いかけていた。足がおそいのでとることはないのだが、確実に体育の授業に参加していた。少しずつでも体を動かすことをしていかないと、こういう子どもは極端な肥満児になりかねないのだ。豪介はそういう子どもたちを何人も見てきて、なんとか楽しい体育をしたいと思っていた。

 今日の体育も走ることなく、終了。

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