第3話 ラケットベースボール
5年生の担任が足を痛め、松葉づえをついて授業をするようになった。そこで体育のゲストティーチャーでベースボールをすることになった。ふつうはティースタンドを使って、バットで打つのだが、運動の苦手な子はなかなかあたらない。あたっても内野ゴロでアウトになるのがオチだ。
豪介が用意したのは、テニスラケットと軟式テニスのボール。そしてフラフープのリング4本である。リングを野球のベース代わりに置く。そして説明をはじめる。
「このラケットでピッチャーがなげたボールを打ちます。1塁まではやくいければセーフです。2塁、3塁、そしてホームにもどってくれば1点です。ピッチャーは味方が投げるので、ぜんぶストライクです。3ストライクでアウトですが、フォアボールはありません。ピッチャーはどこから投げてもOKですが、守りはしません。ピッチャーがさわったらアウトです。それとチーム全員が打ち終わったら攻守交代です。最後の打者はホームランを打てそうな人がいいと思いますよ。質問はありますか?」
「盗塁はOKですか?」
「ピッチャーが味方なので、盗塁はなしです。投げるまではリングの中にいなければなりません」
「バントをしてもいいですか?」
「OKです。でもピッチャーはさわれないので、キャッチャーがとることになりますね」
「タッチアップはありですか?」
「タッチアップはなしです。フライをとられたら、ランナーは元にもどらなければなりません。だから、バッターが打ったら走っても大丈夫です」
という話に野球を知らない子どもはチンプンカンプンのようだったが、とにかくゲームスタート。
紅チームは野球の上手な子たちが後ろに並ぶ。ピッチャーはやさしく投げてあげて、バッターが打ちやすいようにしている。中にはラケットを寝かせてしまい、空振りをする子もいたが、3回目にはあてることができ、1塁に走っている。時には、守りのミスがでてセーフになる子もでてきた。だが、ひとつずつしか進まないので、後の子どもが長打を打っても2塁で止まってしまう。長打を打った子はがっかりしている。紅チームは全員がラケットにボールをあてることができて、なんとかベースボールらしくなったが、点数は後半しか入らず5点で終わってしまった。
白チームはオーダーを工夫してきた。運動の苦手な子どもと得意な子どもを交互に出してきたのである。すると、1塁にでた苦手な子どもを得意な子どもがすすめるという図式ができあがり、白チームは7点をとり勝利した。
負けた紅チームは
「作戦ミスだ」
と嘆いている。
「先生、またやろう」
という子が続出だった。指揮台で見ていた担任も
「ラケットでやれば、運動の苦手な子どももセーフになる可能性が高くなりますね。これは先生の発案ですか?」
と聞かれたので、
「違うんです。実は若い時にベルギーの日本人学校に赴任していたことがあって、その時の合宿で、現地のインストラクターから教わったんです」
「先生はベルギーにおられたんですか?」
「もう30年以上も前の話ですよ。その時に教員でフットサルのチームに作って、現地チームとやっていました。日本に帰ってきてからフットサルの普及に一役かったんですよ」
「すごい先生だったんですね」
「昔の話ですよ」
と豪介は笑っていた。
今日も走らずに終わった。
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