第48話 デモンストレーション?
「噂なんて当てになんないっすねえ」
新人護衛の喋りが止まらない。
「坊ちゃんが魔法を使えないなんて大嘘もいいとこじゃないっすか」
他の護衛たちがギョッとした顔になって俺やエレオノーラの方を見る。
すぐさま「ここで言うことじゃないだろ。空気を読め、バカ野郎!」という非難の視線が新人に向けられる。
が、新人はそれに気付かない。
「ホント、スゲーっす」
ヘラヘラしながらもキラキラした目でこちらを見てくる。
立場が入れ替わった状態なら絵面的にもおかしくないとは思うけど、子供の俺にそういう視線を向けるのってヤバくないか?
あまりに不自然で打算的な思惑を抱えているんじゃないかとすら考えてしまう。
「ゴブリンの体が一瞬で消し飛んだのも、見えない魔法で2匹をほぼ同時に仕留めたのも、すんげーカッケーっすよぉ」
こちらは冷ややかな視線を返しているにもかかわらず気にした風もなく喋り続ける新人。
「どんな魔法を使ったのかわかんねえくらい、あっという間に仕留めたし。まじパねえっす」
それにしても軽薄な口調を隠そうともしないとはね。
これで媚を売っているつもりなら、お粗末にも程がある。
「なんなんすか? 訳わかんねーっすよ」
訳がわからないのは俺の方だっての。
何も考えず思ったことだけを言葉にしているだけのようにしか見えない。
口調はチャラ男を連想させるけどコイツの中身は年端のいかない子供かよ。
子供は俺の方だっての。
ゴン!
こっちが呆れて言葉を失っていると鈍い音がした。
護衛の隊長が新人の頭にゲンコツを落としたのだが実に痛そうだ。
「痛ってえーっ! 俺が何したって言うんすかぁっ!?」
頭を抱えながら隊長の方へ振り返って涙目で抗議する新人。
「黙れ」
怒気まじりの重く低い声で短く言い放つ隊長。
殺意までは感じなかったが、それでも新人には効果的だったようだ。
一言の反論も許さず沈黙させた。
「誰が報告以外のことを喋れと言った。調子に乗って無駄な時間を使わせるな」
このまま説教タイムに突入しそうな雰囲気だと思ったのだが、隊長はこちらへ振り返った。
同時に新人へ向けていた怒りの空気は霧散している。
「新人の教育が行き届かず申し訳ありません、エレオノーラ様」
「構わないわ。完全な無駄口という訳でもなかったし、貴方がやめさせたじゃない」
姉はとがめないつもりのようだ。
隊長が止めていなかったら、どうしたかまでは分からないが。
「それよりも、ゴブリンの死体を片付けないとね」
言いながら俺の方を見るエレオノーラ。
「放置するとゾンビになりかねないからお願いね」
それはつまり強い魔法で死体を吹き飛ばせってことか。
他の方法より手っ取り早く片付けられると考えたのだろう。
他にも護衛たちに対するダメ押しのデモンストレーションの意味合いもあると思う。
新人が言っていたように俺は魔法が使えないというのが周知の事実であったから、それはデマであると強くアピールしておくに越したことはない訳だ。
「わかりました」
立ったままアサルトライフルを構え、3発の弾丸を作り出すべく魔力を込める。
炸裂弾をイメージしたのでゴブリンの上半身を爆算させた時よりも少なめだ。
「行きます」
間髪をいれず引き金を3回続けて引き絞る。
距離があるので、はた目には銃口がわずかに動いたのは分からなかったかもしれない。
なんにせよ死体は下半身だけのものも含め3体とも爆散した。
汚え花火だと言いたくなるくらい木っ端微塵になっている。
痕跡をゼロにするのは無理だが、大量に体液をまき散らすことは避けられた。
我ながら上出来だ。
「終わりです」
構えを解いて姉に報告すると満足そうな笑みを返された。
「手間が省けたわ。ありがとう」
「いえ」
短いやり取りが終わっても護衛たちはポカーンと口を開いている。
まあ、派手に爆算させたので魔力消費の多い大魔法を放ったと誤解されたのかもしれない。
それを3体分ともなれば呆然として言葉を失うのも無理からぬことか。
魔法の杖を補助に使ったとしても魔力量が少ないはずの子供だからね。
「大丈夫? 疲れてない?」
姉もそこは気になったようで心配そうな顔をして聞いてくる。
「御心配なく。破裂するように調整した魔法ですから見た目の効果ほど魔力は消耗していません」
種明かしをすると、姉だけでなく固唾をのんで聞いていた護衛の面々も表情を緩めた。
「何でしたら、ここの荒れ地も軽く掘り起こしましょうか」
この一言で全員がギョッとした表情になったけどね。
「ちょっと待ちなさい。耕作放棄地がどれだけの広さがあるか見えているでしょう」
慌てた様子で姉が言ってくる。
あ、やっぱり耕作放棄地だったんだ。
「見えていますよ」
目隠しされている訳じゃないからね。
ただ、現在も使われている農地との境界には気をつけねばならないだろう。
ギリギリまで地面を掘り返すような魔法を使うと作物のある農地にまで効果が及んでダメにしてしまいかねない。
ただでさえ収量が少ないはずなのに自分から収穫を減らす真似をするのは御法度だ。
余裕を見てマージンは確保すべきである。
「何もすべてやろうとは言いませんよ。余裕は見てやりますから」
農作物にダメージを与えちゃ本末転倒だもんなぁ。
他にも先程のゴブリンを消し飛ばした威力のままだと土が勢いよく飛び散って作物を傷つけかねないのも要注意である。
炸裂の度合いを落としすぎると今度は土を掘り返せなかったりするし調整は難しそうだ。
いっそのことグレネードランチャーのように曲射で弾を落とすのも悪くないかもしれない。
入射角によっては横に土が飛び散ることも防げそうだ。
弾を重くして発射速度も落とせばいけるか。
重くなったぶん地面に深く突き刺さるから飛び散りも抑えられるだろう。
「そう。自重できると言うのなら構わないわ」
姉のお墨付きをもらえましたよ。
さっそく荒れ地のド真ん中あたりに新たに調整した魔力弾を撃ち込むとしよう。
アサルトライフルへ魔力を流しながら荒れ地を掘り返すための弾をイメージする。
地面に深く刺さるように重く。
刺さる角度も地面と垂直に近くなるよう重心バランスも調整。
射出速度を遅くして落下しやすくすることも忘れない。
「じゃあ、始めますね」
前に出て射線を確保。
アサルトライフルの銃口を斜め上に向けて構え弾を撃ち出す。
弾は無色透明な上に発射音もないため魔力が見えない限りは発射されたかどうかは分からない。
このためエレオノーラたちは俺が引き金を引き絞っても反応しなかった。
荒れ地に着弾した瞬間も同様だ。
ドッ!
直後、鈍い破裂音がして土が小さく噴出。
この段階でようやく皆がビクリとしていた。
「ちょっと強すぎたかなぁ」
小さく噴出と言っても半径1メートルほどだったので想定していたよりも威力が強すぎた。
まんべんなく掘り返そうとするなら数十センチくらいが適当だろう。
「調整して次行きまーす」
威力を落とした次弾を撃ち出す。
今度は想定通りとなった。
「これで行きますね」
同じ威力の弾を次々と撃ち出していく。
1発の掘り返す範囲が狭いぶん弾数がどうしても多くなり、終わるまでそこそこ時間がかかってしまったが、どうにか掘り起こしを終えることができた。
「終わりましたよー」
振り返って姉たちの方を見たのだが、全員がフリーズしてしまっている。
「あれ?」
どうしてこうなった?
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