第38話 まずは自転車から

 秘密基地を作った翌日は自転車を作るところから始めることにした。

 魔力を動力源にした車やバイクを作りたいところなんだけど、さすがにノウハウが乏しいから構造の簡単なものからステップアップしていこうという訳だ。


 あと、前世で半分趣味みたいになっていた影響はあるかな。

 車ほどピリピリした状態で乗らずに済むからマウンテンバイクを乗り回していたことが影響して自転車に興味を持っていた程度なので本格的な人たちからすると素人同然だ。

 学生時代には荷物を積み込んでキャンプに行ったりもしたけど、それだって近場だからね。


 社会人になってからは乗る機会も激減したし。

 それでもネットで色んな自転車を見ては、あれが良いこれが欲しいと買いもしないのによく物色していたものだ。


 そんな訳で多少のこだわりはある。

 こっちは綺麗に舗装された道なんて望むべくもない世界なのでタイヤの細いロードバイクはなしだ。

 柔らかい地面だとズブズブ埋まっちゃうからね。

 そのあたりを考慮するとタイヤは凹凸のあるブロックタイヤか砂地でも埋まりにくい幅広のファットタイヤを選択することになる。

 両方の特徴を合わせ持つタイヤもあるけど……


「あんまり幅が広くてもなぁ」


 ファットタイヤは幅が広くて地面との摩擦抵抗が増えるぶん加速が鈍るしスピードも出ないのが難点だ。

 できれば走行中に爽快感も得たいところなのでビーチクルーザーで採用されるような幅のタイヤはなしということで。

 そうなるとブロックタイヤとなるからマウンテンバイクってことになるかな。


 ただ、頑丈さ優先でサスペンションは無しの方向で開発しようと思う。

 地面からのショックの吸収にはタイヤに頑張ってもらう。

 そのため柔らかい素材を芯にして固めの皮膜で覆うエアレスタイヤにするつもりだ。


 色んな場所を走れるようにしたいので変速機は採用する。

 ただし、多段変速する自転車でよく見かける大小のギアが平行に何枚も並んだタイプにはしない。

 車軸の中にギアが内蔵されたハブギアと呼ばれるものを使う。

 外装式の変速機よりも重くなるけど防塵や防水という点では有利だ。


 駆動伝達にはチェーンではなくシャフトを用いる。

 車で言えばFR車みたいなものだ。


 ブレーキはVブレーキがモアベターだろう。

 制動力だけで考えればディスクブレーキを採用したいところだけど調整が面倒だし、しょうがない。


 大まかな仕様が定まってきたところでイメージの助けになるようイラストに起こしていく。

 何枚も描いてデザインを調整していった。

 ついつい大人用の大きいサイズの自転車を描いてしまうのだけど、今の自分は10才児である。

 自分の体格に合うようタイヤ径が小さいものに修正。

 それでも、まんま子供用ではなく大人でも乗ることができるミニベロと呼ばれるタイプのデザインにしてしまったけどね。


 何枚も描いてはテーブルの上に積み上げていく。

 ふと気付くと、リスタがそれらを触手を出してつまみ上げながら興味深げに見ていた。


「そんなに面白いか?」


 くるんと振り返るような仕草をしてからリスタがうなずく。

 見たことがないものだから面白そうだってさ。


「じゃあ、ガイザーに変身して乗ってみるか?」


 乗るとは? という感じで返事のかわりに疑問が返ってきた。

 自転車のことがわかってないんじゃ、そうなるか。


「んー、言葉で説明するのは厳しいかぁ」


 あれこれと考えてみたけど上手く説明できる自信がない。

 リスタに乗り物という概念があれば多少は違ったのだろうけど。

 ならば百聞は一見にしかずだ。


 デザイン画を元にクリエイションで自転車を試作する。

 ただし、サイズは実際の12分の1だ。

 部品が細かくて実寸大で作るより難しかったりするけど、そこは魔法の練習だと思うことにする。

 同時に可動式フィギュアも用意した。

 こっちは学生時代に購入したことがあるから丸々コピーだ。

 自転車のサイズはこちらに合わせたのは言うまでもない。


 フィギュアが完成したらサイコキネシスを使い机上で歩かせて具合を確認。

 軽く飛び跳ねさせてみるけど、細かな動きが難しい。

 という訳で、しばらく動かしてみる。

 ラジオ体操から始めて体操競技の床運動のようなこともやってみた。


 一通り動かして慣れてきたので縮小した自転車に向けて歩かせる。

 そこでちょっとしたミスに気付いた。


「あー、スタンドもつけておくべきだったか」


 デザインに起こすのを忘れていたので自転車は横倒し状態だ。

 フィギュアに自転車のハンドルを持たせて自転車を起こす。

 さすがに指は可動式ではないので加工の魔法を使って変形させたのは御愛敬ってね。


 自転車にまたがらせてペダルをこがせるとゆっくりと走り始めた。

 スルスルとスムーズな動きを見せる。


「これが自転車。乗り物の一種だ」


 リスタに語りかけると興味深げに走り回る自転車を見ながらコクコクとうなずいている。

 食いつきがいいな。

 知らないもの見たことがないものだからなんだろう。

 何度も転生してきた俺も新しいものに出会った時には心が躍ったものだ。


「どうだ、リスタ? これは模型だが、本来の大きさで作ったら乗ってみるか」


 グリンと振り向いたリスタがブンブンとすごい勢いでうなずいた。

 すっかり自転車の虜になってしまったらしい。

 とはいえ、まだ試作の段階だ。

 問題点を洗い出して修正しないといけない。


 という訳で模型の試作車で色々と試していく。

 机上で段差やうねりのある路面を再現して走らせたり、ジャンプやテーブルからの落下で衝撃の吸収具合を確かめてみたり。


 その結果、頑丈さ優先で作っただけあって簡単には壊れないのは確認できた。

 一方で障礙吸収性は想定したよりもずっと悪いことも判明。


「やっぱりタイヤだけでは衝撃を吸収しきれなかったか」


 少し歪んでしまった自転車のホイールと腕が壊れたフィギュアを加工の魔法で直しながらボヤく。

 芯にした素材が柔らかすぎたのが良くなかったようだ。

 という訳で芯の素材を反発力のあるものに変えてテストする。


「これもダメか」


 落下試験でホイールは歪まなかったけどフィギュアがダメだった。

 大きく弾みすぎてしまったのが原因だ。

 まるでスーパーボールだったよ。

 それと段差などでは派手に弾んでしまって走行時の安定性が損なわれてしまう問題も発生。


 最初のが柔らかすぎで次が弾みすぎ。

 両方の中間くらいの素材が丁度いいのかと思って試してみたけど中途半端でどっちつかずな結果になってしまった。

 程度の差はあれホイールにダメージが入る時点でアウトだ。

 配合比率を変えても上手くいかない。

 弾みすぎて走りづらくなる問題も解決できない有様である。


「これはもうサスペンションを作るしかないか?」


 バイクでは採用するつもりだったから何がなんでも使わないという訳じゃないんだけどね。

 最初の目標がサス無しだったので、もう少し頑張りたい。


 そこで発想を少し変えてみることにした。

 一番外側の皮膜部分に弾む素材を融合させてみる。

 芯の素材で融合するよりはマシになったものの、やはりダメだ。

 それに摩耗しやすくなった気がする。

 となると外側の皮膜部分は元の素材のままの方が良さそうだ。


 ならば、その内側に弾む素材と柔らかい素材を皮膜状にして貼り合わせていく。

 多層構造にしてみた訳だ。

 これも厚みを変えたり積層数を増減させたりと試行錯誤する必要はあったけど、なんとか想定通りの衝撃吸収性を得ることができた。


 やれやれ……

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