第37話 秘密基地
「秘密基地がほしいな」
昼食のアジフライ定食を食べながら、ふと呟いた。
前々からそういう願望があったとかではなく単なる思いつきである。
自分でも唐突だとは思ったけれど拒否感はない。
むしろワクワクしているくらいだ。
これは精神年齢が肉体に引っ張られているなというのが瞬時にわかった。
何度も転生してきたので、この感覚は初めてじゃない。
大人になっても基本的な性格が変わってしまう訳ではないが、幼少期は欲求や欲望に対する抑えが効かないのである。
有り体に言ってしまえば元の性格に子供っぽさが上乗せされてしまっている訳だ。
元の性格が厨二病を罹患してもおかしくないと自覚しているので今の独り言についてもさほど恥ずかしいとは思わない。
人に聞かれれば多少は話も変わってくるが、ここにいるのは俺とスライムのリスタだけである。
故に後で思い出して悶え苦しむようなことはないと思う。
たぶん、きっと、おそらく、メイビー……
なんにせよ秘密基地がほしいのは事実だ。
その事実は認めざるを得ない。
という訳で誰にも知られないように作ってしまおう。
秘密とつくからには基地の存在が誰かに知られてはならない。
最初は森の奥にとも考えたが却下した。
オルランだって秘密のダンジョンでゴブリンを養殖していたくらいだから他の誰かに発見される可能性はゼロではない。
それに人に見つかる恐れは限りなく低い確率だとしても、森の奥にいる魔物となれば話は別だ。
相手は魔物だから発見されたら殲滅あるのみだけどね。
どうせなら魔物にも見つからない場所がいい。
昔のアニメとかに出てくる主人公の秘密基地みたいな感じでさ。
大抵は地下にあったりして事件が発生すると秘密のゲートから発進したりする。
俺の場合は発進する必要性がないので秘密のゲートは不要だけど。
だけど地下というのは悪くないアイデアだと思う。
書庫の地下深くに作ってしまえば、まずバレることはないだろうからね。
出入り口を発見されてバレるというのはありがちなパターンなので、これは設けない方向でいこう。
そんなのでどうやって基地に入るのかと言われそうだけど空間ゲートの魔法を使えば解決することである。
基地を作るため地下を掘る際には書庫とつながっている必要があるだろうけど完成時には埋めてしまえばいい。
換気とかの問題は出てくるけど、そのあたりは魔法とか魔道具で対応しよう。
という訳でさっそく工事開始だ。
加工の魔法で床を変形させて地面を露出させる。
続いては岩や土を掘る魔法ディグの出番だ。
魔法で真下に掘り進め掘削した際に出た土砂はストレージの魔法で回収していく。
ディグの魔法は掘った後の部分を補強する効果があるので土砂が崩れてきたりはしない。
サクサク進んで地下数十メートルくらいのところまで来たところで空間の確保に取り掛かった。
ディグでガバッと空間を確保していく。
書庫より二回りほど広い床面積を確保できたら隅っこのあたりを階段状に掘り下げてさらに下へと進む。
1層だけでは物足りないから何層か掘るつもりだ。
地下1層は深く掘り込んで地上の書庫と同じものをクリエイションの魔法で作った。
残りの階層は魔道具の開発スペースや鍛錬のためのスペースなどを考えている。
必要になれば追加や拡張もやぶさかではない。
掘るのが終わったら細かい部分を構築していく。
地下は湿気が多いので、その対策も怠る訳にはいかない。
壁面に複数の術式を記述して調湿できるようにする。
最初は結界で大半を弾くことも考えたけど、吸収浄化してタンクに溜めて水資源として使う方法を採用した。
その気になれば地下だけで生きていけるようにした訳だ。
地上の施設は魔法で丸々コピーしたけど、トイレは現代日本で使われるような水洗トイレに変更。
ついでというか勢いで風呂も増設したのは前世が日本人だったからだろうな。
水回りを設置すると汚水の処理も必要になるけど、そちらはディスインテグレイトの術式を付与することで対応だ。
地下では浄化して循環させると水がどんどん増えていってしまうからね。
「それにしても書庫のコピーは忠実すぎたかな」
地上なら外を見れば景色が広がるけれど地下だと壁だもんなぁ。
さすがに窓を開けたらいきなり壁って訳じゃないけど。
こちらでも畑を作るのでちょっとした庭くらいの広さのマージンを取ったのだ。
その下の階層は食糧倉庫にした。
地下の収穫物を地上で保管するとつじつまが合わなくなるからだ。
ストレージで格納すれば、そういうことを気にしなくても良くなるのだけど亜空間での保管は時間経過しなくなるから芋類は熟成できなくなるんだよね。
どうせなら美味しく食べたいので熟成が終わってからストレージに保管するのがマストだろう。
地下3層目は魔道具の開発のために使うことにした。
そのためだけの施設として考えると広すぎるとは思うのだけど、実は構想中の魔道具の中に大物がいくつかある。
有り体に言ってしまうと乗り物だ。
こっちの世界じゃ乗り物というと馬車一択になってしまうのでね。
普及させるかどうかは別にして操縦してみたいというのがある。
前世以前で色んなものに乗ってはきた。
けれども魂が世界に合わなかったおかげで人馬一体のような感覚を持って操縦できたことがないのだ。
反応がワンテンポ遅れるが故にね。
そのため常にピリピリした状態で運転しなければならなかったので、すぐに疲弊していた。
正直、運転を楽しむ余裕なんて無かったよ。
そうなると作った車とかを走らせるスペースがほしくなる。
今の床面積では厳しいけど森の中にコースを作る訳にもいかないし……
最下層は他の階層よりも大幅に拡張してレースができるくらいのコースを作るのもありだな。
あと鍛錬用の階層も作らないといけないんだった。
思いつきに近い形で秘密基地を作っていくと取り留めがなくなってしまうな。
何がなにやらって感じでこんがらがってしまう。
地下に2階建ての建物があるかと思えば、すぐ下には食料庫だし。
その下に魔道具工房というのも違和感を感じてしまう要因のひとつかもしれない。
他にもレース場と鍛錬の施設もそれぞれあるというカオスぶりだ。
しかも必要に応じて拡張するつもりである。
「これはもう階段で各階層をつながない方が良いかもな」
どうせ地上の書庫からは空間ゲートで移動するべく掘った縦穴は元に戻すつもりだし。
そう考えると各階層間の移動も階段を使うのは無駄に時間を費やすことになりかねない。
そんな訳で、階段も埋めてしまうことに決定。
「だったら階層をモジュール化するのもいいかも?」
各階層を独立させて組み替えたり移築できるようにするのもありかもしれないと思ったのだ。
階段をなしにするなら上下とか関係なくなる訳だし。
問題はどうやって階層を移動させるかだけど、これは転移魔法を使うことで解決する。
転移先の空間確保してからになるけどね。
言うまでもなく力業だ。
もっとスマートな方法があれば、そっちにシフトするさ。
あれやこれやと時間をかけたつもりだったけど、すべての作業が終わっても日暮れ前だった。
自分でもちょっとビックリである。
秘密基地の構築は行き当たりばったりだったので無駄な作業もあったけど、思いがけない方法にたどり着けたし面白かったので結果オーライだ。
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