第34話 ヒントをもらう
「ただの脳筋だと思っていたが、エロ脳筋だったのか」
ため息が出てしまう。
オルランは怠惰で下種な性格をしていたが野望があった。
だからグールに成り果てても悪役らしいと思える余地があったのだ。
同じく意図せずアンデッドになってしまったガルフはどうだ。
女の子にもてたいという動機だけで安易に力を得ようとしたのは軽率がすぎるというもの。
代償のことなど、まるで頭にないのではなかろうか。
少なくともオルランが消息不明になってからの堅実な行動とは掛け離れていると言わざるを得ない。
まあ、女の子にもてたいからこそ頑張った結果なのかもしれないが。
「だけど注意は必要だよ。低位で何も気付いていないとはいえバンパイアだからね。暴走する恐れがある」
それが問題だ。
ガルフにかかわれば暴走させてしまう恐れがある。
オルランも罠を使ってじかに始末しようとしたら無限再生するモンスターに覚醒させてしまったからなぁ。
奴の虐待ぶりを密告する文を父に送っておけば覚醒させずに人として終わらせられたんじゃないかと考えたりもするのだ。
何がトリガーになるかわからないので、それはそれで賭けになるのか。
賭に負けた場合はきっと大きな被害が出ていたに違いない。
やはり、自分の選択は間違っていなかったのだろう。
そう考えるとガルフには下手に手を出さない方が良さそうな気がする。
「触らぬ神に祟りなしで行くしかないか」
「それが暴走する確率が最も低いかな。絶対ではないけど」
「絶対じゃないんだ」
勘弁してほしいと思うものの、世の中に絶対や完全が存在し得ないのはよく分かっているつもりだ。
それでも口をついて出てしまったのは面倒事に対する拒否反応に他ならない。
有り体に言ってしまえば愚痴である。
「仕方ないよ。未来はほんの少しの違いから無限に派生していくからね」
「せいぜい被害を食らわないよう書庫生活を満喫させてもらうさ。俺は病弱ってことになっているし」
「それはそうと君は面白いことをやっているよね」
楽しげに言われてしまいましたよ。
「そう言われても……」
鍛錬したり食をあれこれと堪能したり魔道具の構想を練ってみたりと色々やってはいるが、楽しそうに話しかけられるようなことをしていただろうか。
強いて言うなら魔道具関連だけど相手は世界の管理者だ。
様々なモノを知っているはずだから俺が考えるような魔道具に興味を抱くとも思えない。
凡庸な一個人が考えることなど本人が画期的だと思っても他の誰かが同様のことを考えていたりするものだ。
元の世界で発明された電話なんて特許の取得がタッチの差だったことから明暗が分かれたようだし。
「鑑定だよ、鑑定。アカシックレコードに何度もアクセスしているだろう」
「ああ、あれか……。もしかして何か禁忌に触れていたとか?」
「大丈夫、大丈夫。派手にやらかさなければ大丈夫だよ」
そう言われてもなぁ。
今さらながら不安になってくる。
「知識チートで俺tueeeとかしてると情報管理にうるさいのが出てくるけどね」
ほら、やっぱり!
世界の管理者のようにアカシックレコードにも管理者がいるんだ。
そういう存在に悪い意味で目をつけられると即詰みだと思うのだが。
人生が詰みなら転生でやり直しもきくが、最悪のケースとして存在が消滅させられることも考慮しておかないと。
「警告なしにBANされることはないよ」
それはありがたい。
もし、やり過ぎたとしても自重するチャンスがもらえるってことだ。
もっとも警告自体もらいたくないんだけど。
次でBANされることを思えば後がない状況なんてものを享受したいとは思わないからね。
ここで言うBANの対象は肉体ではなく魂だろうし。
オルランのようになるのは御免被る。
「アカシックレコードの存在を喧伝するような真似をしなければ問題ないさ。買い物の時に相場を調べたり敵対した相手の情報を確認したりするくらいは何の問題もないよ」
なるほど。要するに個人利用にとどめましょうってことね。
仮に情報の出所を問われるようなことがあっても自分で調べたとか知っていたとか誤魔化せばギリセーフに持っていけると。
とはいえ、君子危うきに近寄らずだ。
あんまり危ない橋は渡らないようにしよう。
どのみち鑑定は未完成である。
そもそも橋を渡るかどうか以前に、たもとにすらたどり着けていないんだけど。
「苦戦しているようだから、ひとつヒントをあげよう」
「は?」
いくら情報伝達ミスがあったとはいえサービス過剰じゃないか?
「今のままだと寿命まで頑張っても瞬時に情報を得るなんて無理だよ」
それは嫌だなぁ。
頑張る甲斐がなさすぎる。
「アカシックレコードはね、常に情報が更新されているんだ」
それは分かっていますとも。
「言ってみれば情報の荒海、もしくは激流といったところか。そんなところに釣り糸を垂らしても魚なんて釣れないよ」
「うぐっ」
言われてみればその通りだ。
そんな当たり前のことに気付かず四苦八苦していたとは情けないにも程がある。
ただ、せっかくヒントをもらったのに解雇通知をもらったような気分だ。
どうやって大しけで荒れ狂う海や奔流となって流れる川で漁をしろというのか。
無謀にも程がある。
そうとも知らず成果を上げようと躍起になっていたのだから苦笑しか出てこない。
「釣りにたとえてしまったけど適切じゃなかったかな」
そんなことはないと思う。
わかりやすいし自分が無謀な挑戦をしていたことがよく理解できた。
「情報が絶えず更新されていることを直感的に理解してほしかったんだ」
理解できましたとも。
失念していたことに気付かせてもらったし。
「それじゃあ聞くけど、どうして情報が更新されるのかな?」
そんなのは決まっている。
「刻一刻と時間が経過するからだろう? 1秒先の未来も1秒後には現在になり、さらに1秒後には過去になる」
「それが分かっているなら答えは出たも同然だよ」
「なっ」
俺にはどう逆立ちしたって解決できそうにないと思っていたのに、これほど簡単な問題はないと言わんばかりだ。
「未来の情報は必要ないのだろう?」
当然だ。鑑定で得ようとしている情報は現在までの……
「アカシックレコードを止めれば、あるいは読み取りも簡単になるのか? いや、そんなのは不可能だ」
どうしてそんな自問自答を呟いてしまったのかと嘆きたくなるくらい浅はかで恥ずかしい思いつきだ。
「いい線行ってるよ。アカシックレコードそのものは止められないけど止まったように見せることはできる」
「なにっ!?」
何を訳の分からないことをという言葉が口をついて出そうになったところで、天啓にも似た閃きがあった。
「写真に収めるイメージで情報を一時的にコピーしてから検索すればいけるのか」
「その通り」
「だけどコピーする範囲が広すぎる」
一時的とはいえ膨大なアカシックレコードの海全体を複写するなど考えただけでも恐ろしくなる。
検索をかける間だけ保持するにしても魔力の消耗が尋常ではなさそうだ。
それ以前にコピーすることさえ不可能だろう。
「そんなことはないさ。スナップ写真のように手軽にできるよ」
とても信じられないのだが。
「アカシックレコードの情報というのは目の前にあるんだよ」
「は? いや、意味がわからん」
「目の前にあるものの情報はそこに記録されている。パソコンのように別の場所や分散された状態で保管されたりはしていないんだよ」
つまりハードディスクやSSDなどの補助記憶装置から読み込んでモニターに表示している訳ではないということか。
それに対する付随情報は対応する亜空間にあるイメージが最も近いかもしれない。
「なるほど。接写すれば情報も絞り込める訳か」
理解はできたと思うけど、ヒントはひとつじゃなかったな。
ほとんど答えを教えてもらったようなものだ。
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