第22話 正攻法がダメなら
空間ゲートの魔法は突貫で構築した割には良い出来映えだったと思う。
何も映さない鏡のような見た目だけど、触れることはできず通り抜けてしまうため引っかかりのようなものを感じることはない。
通り抜ける際には表面に波紋が広がるエフェクトを入れてみた。
その方がゲートをくぐるときの抵抗感が減るかなという思いつきだったんだけど、正直よく分からない。
見た目以外では何も感じないからね。
なんにせよ無事に書庫へ帰ってくることができた。
夕食の時間にも間に合ってホッと一安心である。
夕食を食べた体で食器を片付けた。
今のところ運ばれてくる食事に毒の類いは含まれていない。
リスクディテクションの魔法を使って調べているので間違いないだろう。
毒物を探す魔法ではなく危険を感知する魔法を用いたのは、毒物以外が仕込まれていた場合に対応するためだ。
毒はないと油断しているところに呪いをかけられたりしてはたまったものじゃないからね。
他にも魔法で昏睡状態にさせられたりなんてこともあるかもしれない。
まあ、物品に魔法を込めておいて特定の条件を満たした際に発動させるなんて高度な技術を要求されるから誰にでもできる訳じゃないだろうけど。
それに魔法が込められているということは相応の魔力がそこに留まる訳で。
魔力制御ができなかった先代ならともかく、いまシドである俺には魔法が込められていることは丸分かりになるので通用する手ではない。
隠蔽でもされていると話は別なので確認はしたけど。
何もしてこないのは体調を崩した俺に対して罪悪感を抱いているのか、それとも怪しまれないようほとぼりが冷めるのを待っているのか。
もしくは他の理由があるのかもしれないが、何であれオルランが帰ってくるまでは仮初めの平穏を享受できると考えて良いのかもしれない。
いや、ダンジョンをどうにかしないと平穏とは言えないだろうな。
放置すれば領内を蹂躙される恐れがある訳だし。
という訳で今夜からはダンジョンを壊滅させるべく動いていくとしよう。
ひょっとすると初日で終わってしまうかもしれないけど。
リスタがやる気満々だからね。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
晩ご飯を終えて仮眠を取ったら真夜中の活動タイムだ。
空間ゲートを使ってダンジョン入り口へ向かう。
念のため攻略ポイントまで一気に行くことはしない。
ダンジョンにカウンターを食らって書庫がダンジョン化したらシャレにならないからね。
そうなると決まった訳じゃないけどアニメとかマンガだとよくあるパターンのひとつだし。
もちろん入り口から攻略再開なんてしていられないので新たに空間ゲートを使って前回の攻略ポイントまで移動する。
「おっと」
ゲートから出た途端にゴブリンどもと鉢合わせた。
こういうこともあり得るから空間ゲート周辺は結界で守られるよう改良が必要だな。
ただ、それは後回しだ。
急に現れた俺やリスタに驚いているゴブリンどもを始末する方が先である。
などと考えている間にリスタがゴブリンの数だけ触手を出してワンパンで終わらせてしまった。
相変わらずの汚物は消毒だ的扱いである。
その後もタイヤモードになったリスタによってゴブリンどもが瞬殺されていった。
俺はナビ係でしかない状態が続いているが下手に連携を試みるより効率が良いので口を出さない。
で、ダンジョン内をくまなく駆け回ること数時間。
殲滅したゴブリンの数は軽く3桁を超えていた。
「このダンジョン、広いよなぁ」
いや、深いと言うべきか。
横の広がりはそこそこだったが、何度も階段を下ってきたからね。
同じくらいの面積のフロアが何階層も連なっている。
これならあふれ出すほどゴブリンが異常繁殖した場合に万を超える数になったとしても不思議ではない。
問題はどんな条件でそうなるかが不明なことだ。
よくあるパターンだとダンジョンの主とも言うべきボスが何らかの原因で暴走して際限なく魔物を増やし続けたとかだろうか。
ところがダンジョンを隅々まで探してもゴブリンしかいなかった。
ゴブリンの上位種すらいないのだ。
ある意味、これも異常事態ではなかろうか。
どうにも不自然な気がしてならない。
だからこそゴブリンが異常繁殖する恐れがあるのだろうが、根本原因が分からないのでは手の打ちようがない。
少なくとも正攻法では。
となると強引な方法でスタンピードを防ぐしかないだろう。
「リスタ、ダンジョンを破壊するぞ」
俺が宣言するように言うと、リスタはミニョンと伸びて上の方をかしげた。
首をかしげる仕草を真似たのだろうか。
その証拠にどうやってと疑問を感じている思念を送ってきている。
手っ取り早いのはガイザーのメガクラッシャーを上空から垂直に撃つことだろう。
真上からなら周辺被害も最小限に抑えることができると思う。
問題は、あんな派手なのをぶっ放せば領内で騒ぎになりそうなことだ。
ドラゴンの襲来だとかいう話になってしまえば単なる騒ぎでは収まらない気がする。
それなら地震を起こして破壊する方がまだマシか。
ここのダンジョンを破壊するほどの地震となると領内の広い範囲にわたって被害が出そうなので採用する訳にはいかないが。
結界で囲って被害が広がらないようにすれば、あるいは……
いきなり巨大地震の規模を引き起こすのは怖いので、少しずつ揺れを大きくしていく感じで。
「やってみるか」
まずは空間ゲートで外に退避する。
念のためフロートで高度を確保して安全を確保。
ダンジョンを囲うように三重の結界を構築。
ひとつ壊れたとしても複数なら威力も減衰するだろうし耐えられるだろう。
「じゃあ、やるぞ。アースクェイク!」
まずは震度5弱くらいで。
いきなり威力が強すぎないかと言われそうだが、この程度でダンジョンは壊れたりしない。
そもそも空間的に断絶しているので通常の地震ではビクともしないのだけど。
ただ、魔法で引き起こした地震となれば話は別である。
魔力が込められていることでダンジョンにも影響が及ぶからだ。
「ん、なんだ?」
アースクェイクで地震を起こした瞬間、魔法に込めた魔力が他の魔力に干渉したような気がした。
その魔力の出所を探ってみる。
どうやらダンジョン全体を覆っているようだ。
今まで気付かなかったのは、すごく薄められた状態だからか。
「もしかして、この魔力が原因か?」
塵も積もれば山となる。
どんなに希薄でも常に供給され続ければって訳だ。
思わぬところで答えを得てしまったな。
とすると、この魔力の供給源を断ってしまえばゴブリンの異常繁殖も防ぐことができるのか。
派手な魔法で魔力を大幅に消耗するような強引な方法よりもスマートというもの。
もちろん、こちらの方法に切り替えるさ。
肝心の供給源は地下を流れる魔力のようだ。
おそらく、これが地脈なんだろう。
不自然な形でダンジョンに魔力を供給する形になっているあたり怪しさ満点なのだが、断ち切ってしまえば終わる話なのでどうでもいい。
よく探ってみると地脈から枝分かれした魔力の流れがあった。
ここを空間魔法で断絶してしまえばダンジョンへの魔力供給は断たれるだろう。
という訳でレッツ切断。
使うのは空間ゲートの応用で作ったオリジナル魔法の断空牙だ。
厨二病くさいネーミングだけど、余人に見せる魔法じゃないから別にいいよね。
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