第21話 ダンジョンへ

 リアルで洞窟を見るのなんていつぶりだろうか。

 少なくとも宍戸紀文の人生ではテレビや動画でしか見た覚えがない。

 そして、この洞窟の入り口で魔力の流れが不自然に途切れている。

 入り口から向こう側は異界である証拠だ。


「ダンジョンで間違いないようだな」


 俺の呟きにリスタがポンポン飛び跳ねて反応する。

 ひと狩りしようぜとでも言っているようなテンションだ。

 これは止められそうにないな。


「今日のところは様子見だけだぞ。そろそろ晩飯の時間だからな」


 書庫に運ばれてくる食事の取り込みが遅れると怪しまれかねない。

 運んでくる使用人に不審に思われてオルランに報告でもされたら面倒だ。

 それはリスタにも説明済みだし一応は理解してくれている。

 まあ、俺がクリエイションで用意する美味いものが食べられる時間としての認識の方が色濃いとは思うけど。


 現にリスタは悩ましげに身もだえし始めた。

 ゴブリン退治と晩ご飯のどちらを優先するかを決めかねているように見受けられる。

 リスタは食いしん坊だと思っていたけど、バトルジャンキーの気もありそうだ。


 とりあえず周辺に何台か監視カメラを設置していく。

 入り口だけを見張っていれば事足りるというものではない。

 ダンジョンから出て活動する魔物が何処へ向かうのか。

 それと外に出ていた魔物が帰ってくる際の様子も確認しておけばクセというか習性のようなものを発見できるかもしれない。

 野良はともかくダンジョン産のゴブリンにそういう個性があるかは不明だが。


「行くか」


 リスタに呼びかけるように言うと、ひときわ高くポーンと跳ねた。

 思わずやる気があってよろしいと言いたくなったが抑えるのが大変になりそうでやめた。


 ダンジョンに足を踏み入れる。

 魔力が途切れていたあたりで転移などの大きな変化があるかと身構えていたが、そういうことはないようだ。

 多少の違和感があった程度である。

 おそらく無意識だとそれにも気付けたかどうか。


 ただ、洞窟の中に入ってしまうと、ここはやはりダンジョンなのだと思い知らされた。

 人工的に掘り進んだようにしか見えない通路はともかく洞窟に光源などないはずなのに奥まで見通すことができたからだ。


「こりゃゲームの世界だな」


 ダンジョンの魔物は食事を必要としないという説があるだけでなく倒せばドロップアイテム化するし。

 ゲームの世界にまぎれ込んだと言われても納得してしまいそうだ。

 生憎とリロードなど存在しない上に死ねば人生そこで終わりのデスゲームの類いだが。


 故に慎重にならねばならない。

 ゲームで似たようなものを見知っていることで油断を生みやすそうだし。

 そこから思わぬ見落としを誘発する恐れがある。

 魔物には反応しないトラップとかがあってもおかしくない。

 リスタが同行しているが、そういう意味ではソロみたいなものだと思っておいた方がいいだろう。


 様子見とは言ったが何がどうなるかわからない。

 マッピングはしておこう。

 とはいえ筆記用具を用意していちいちメモるのも面倒だ。


 3Dレーダーに連動して自動でマッピングされる魔法をチョチョイと創造する。

 名付けてオートマッピング。

 そのまんまや内科医!

 思わず関西弁とダジャレをミックスしたような脳内ツッコミをしてしまった。

 あと、何処に記録されるのかとかは気にしてはいけない。

 そういう魔法なのだ。


 それと3Dレーダーに連動させているので重ねて表示させている。

 索敵範囲を拡大させるだけでダンジョンのすべてが把握できるようになる訳だ。

 トラップも検知するようにしたので安全性がより高まったと言えるだろう。


 残念ながらトラップの種類によっては作動させてみないと、どういう罠が発動するのか分からないこともあるのだけど。

 転移トラップなんかは正にその類いだ。

 ここにはそういう高度なトラップはなさそうだけど。

 単純な落とし穴だけである。


 という訳で落とし穴は回避しつつ移動開始だ。

 通路はリスタと並んで歩いても狭さを感じない充分な広さがある。

 戦闘時には魔物に囲まれてしまうかもしれないということでもあるのだけど。

 まあ、ゴブリン相手ならそういう事態に陥るとも思えないが。


「リスタ、さっそくだぞ」


 曲がり角の向こうから魔物が数体こちらに向かってこようとしている。

 待ち構えて魔法をお見舞いしてやろうと思っていたのだけど。


「あっ、こらっ」


 ゴブリンが姿を現すなりリスタが飛び跳ねて突進。

 触手を伸ばしたかと思うと顔面にクリーンヒットする。

 一撃で頭蓋を砕かれたゴブリンは倒れ込みながら消滅していった。

 そのまま残りのゴブリンも同じ運命をたどる。


 なんというか呆気にとられて言葉が出てこない。

 血を流さずに仕留めるとは思ってもみなかった。

 しかも一撃がスゴく重い。

 雑魚の魔物だったとはいえ頭蓋の形を変えてしまうほどのパンチ力は今までのリスタにはなかったはずだ。


「身体強化を使ったのか」


 どうだと言わんばかりに反り返るリスタが肯定している。

 ガイザーで色々と試した時にリスタに身体強化を軽くかけていたから、そういうものがあるというのは理解していたとは思うけど。

 まさか教えもしていないのに使えるようになるとはね。

 天才か?


 それはともかくリスタがやる気になっていたのは、これを確かめたかったというのもあるのだろう。

 この調子で満足すれば途中で引き返すと言っても反対はしないものと思いたい。

 はやくはやくと急かしてくるリスタを見ていると自信がなくなってくるけど。

 とにかくギリギリまで粘ってみるしかあるまい。


「時間がない。ここからはダッシュで行くぞ」


 了解とばかりにやる気満々でリスタが跳ねたかと思うと輪っかになった。

 これで色が黒ければバイクのタイヤのようだと思ったかもしれない。

 丁度それくらいのサイズなのだ。

 勢いよく回転して俺の目の前で左右に行ったり来たりする。

 先程よりもさらに強い思念で急かしてくるリスタ。


「はいはい、わかりましたよ」


 そこからは虱潰しにフロア内を巡っていった。

 俺がナビをして誘導しリスタが先行してゴブリンどもを殲滅していくような格好だ。

 攻撃方法は輪っかのままでの体当たりである。

 あの形状じゃ移動しながら触手パンチは使いづらいよなぁ。


 とはいえ、回転と突進力が合わさった状態の体当たりは触手パンチの威力を越えていた。

 当たれば派手に弾き飛ばされてゴブリンどもが次々と消えていく。

 それこそ殲滅と評したのも大袈裟ではない。

 嫌気がさしてくるほど部屋も通路もゴブリンだらけであったにもかかわらず、わずかな時間でかなりの範囲を綺麗にしてしまったからね。


「残念だが時間切れだ。そろそろ帰らんと本当にマズい」


 というより帰路の移動時間がほぼない状況だ。

 瞬間移動でもしない限りは遅刻確定である。


 ん? 瞬間移動か……

 地球だと物語の中でしか成し得ない絵空事だったんだけど、こっちだと魔法があるから不可能と決めつけることはできない。

 やるだけやってみてダメそうなら、その時に考えればいいさ。


 ただ、見知った場所とはいえ向こうの様子が不明な状態で瞬間移動するのは怖い。

 何が起きるか分からないから瞬時に引き返せるようにしたいところだ。

 耳がない猫型ロボットの何処でも移動できるドア方式がいいだろう。

 ドアまで再現する必要性は感じないので移動元と移動先の空間をつなげる空間ゲートを作る感じでやってみよう。

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