第20話 狩りと捜索

 諸事情により昼間からゴブリン狩りに来ています。

 人が入ってくるとは思えないくらい森の奥に来たので倒し方は適当にするつもりだ。

 という訳でガイザーに変身して影の亜空間の中にいる。


「やっぱ、昼に来ると印象が違うな」


 森の奥だから明るい訳じゃないけどね。

 それでも所々開けた場所はあるので明暗の差が大きいところが夜との違いだろうか。

 などと呑気なことを考えていると前方にゴブリンの反応があった。

 木々が邪魔をして向こうはまだこちらを発見できていない。

 こちらもガイザーの頭部センサーがなければ見つけるのが遅れていたことだろう。


 先手必勝と言いたいところだけど距離があるからなぁ。

 だからといって不用意に近づけば、さすがに気付かれてしまう恐れがある。

 ここから届く攻撃方法となると頭部熱線砲しかあるまい。

 そういう体で放つレーザーの魔法なんだけど。

 いささか障害物が多い場所ではあるが射線を通すのは可能だ。

 ゴブリンの頭が見える瞬間を待って……


「ズビッとな」


 気の抜けそうな掛け声だがシャドウシェルターで作った影の亜空間内なので誰かに聞かれる心配はない。

 宍戸紀文よりも前の日本人だったときに視聴していたアニメの悪役キャラになりきっても恥ずかしくない訳だ。


 で、肝心のレーザー……もとい頭部熱線砲で攻撃したゴブリンがどうなったかというと。

 頭部に命中して倒れ込むのが確認できた。

 ここからだと死体がどうなったかを見ることはできない。

 頭部センサーで確認することはできるが、今は残りのゴブリンを始末する方が先だ。


 俺はガイザーを駆け出させた。

 接近する間に射線が通ればゴブリンを頭部熱線砲の餌食にしていく。

 連中のいる場所に到達する頃には向こうは残り1体となっていた。


「ゲギャッ!?」


 木々の間から急に飛び出してきたガイザーに驚愕の表情を浮かべ固まってしまうゴブリン。

 仲間が次々と倒れていったことで動揺していたとしても決定的な隙である。

 もちろん、それを見逃しなどしない。


 ガイザーの腕を変形させた超音波ソードでなぎ払うように腕を振るう。

 振るいきった腕を元の形に戻すタイミングでコロリとゴブリンの首が落ちていく。

 だが、地面に落ちる前に首が消えていった。

 周囲を見渡してみるもゴブリンの死骸は何処にもない。

 かわりに魔石と粗末なナイフや棍棒、そしてゴブリンの右耳が落ちている。


「ダンジョン産が確定したな」


 厄介なことになった。

 ゴブリンの異常繁殖の原因がダンジョンであると、ほぼ確定したようなものだからだ。

 そうなるとダンジョンに入って原因を特定しなければならない。

 スタンピードが起きてから対処するより、先手を打って大本を潰した方が被害も少なくなるし何より楽だからね。


 まずはダンジョンの入り口を探さねばならないが、これが骨である。

 なんの手がかりもないから地道に探し続ける他ない。

 と言いたいところだが、そんな面倒な真似をするのは時間の無駄だ。


 もっと手っ取り早くダンジョンの入り口を発見するために魔法を使う。

 新たに開発する必要はない。

 3Dレーダーでゴブリンの位置を特定しつつ魔力の流れを追えば、闇雲に探し回るよりも効率的に捜し出すことができるだろう。


 という訳で紀文くんフィギュアの出番はここでおしまい。

 ガイザーの変身を解除して影の亜空間から外に出る。


 通常のスライム形体に戻ったリスタがミニョンと伸びて俺の顔を覗き込むような仕草をした。

 何を始めるのかと問いたいようだ。


「魔法でゴブリンどもが何処から出てきたのかを探るんだよ」


 楕円形の基本形状に戻ったリスタがポンポンと飛び跳ねる。

 汚物は消毒だぁと言っているかのような興奮ぶりに苦笑を禁じ得ない。

 実際、その通りのことをする予定なのでスルーしていいだろう。


 それよりも3Dレーダーに集中しないとな。

 まずは通常よりも索敵範囲を広げる。

 普段は魔力の節約のため、そこそこ範囲を狭めているのだ。

 索敵範囲に敵が侵入してきた際に対応できる時間の余裕があれば充分だからね。


 そんな訳でぐんぐん索敵範囲を広げていく。

 その結果、他にもゴブリンの群れが森の中にいることが判明した。

 しかもゴブリンどもに濃いめの魔力がまとわりついている。


 よく見ればゴブリンたちから魔力が細長く伸びていた。

 どうやら特定のポイントに伸びているようだ。


「ビンゴ!」


 いや、まだダンジョンの入り口を発見した訳じゃないけどね。

 それでも今よりずっと奥の方から来ているのは間違いない。

 ならば、把握できている場所まで進んでから探って絞り込んでいけば特定できるのも時間の問題だろう。


 いったん索敵範囲を通常の状態に戻す。

 ゴブリンどもの居場所はすべて記憶した。

 連中の移動速度は大したことがないから問題あるまい。


「ガイザァーッ!!」


 再びガイザーに変身する。

 でないと俺の方が速すぎてリスタを置いてけ堀にしてしまうからね。

 子供の体では抱えても背負い込んでもバランスが悪くなる。

 とっさの場合に対処しづらいのは避けたい。


「行くぞ!」


 腰部の重力制御急Gコントローラーを使っているという体で宙に浮かび飛んでいく。

 もちろん魔法を使っている。

 フロートではなく、より高度なフライだ。

 俊敏な機動ができるので障害物の多い森の中でも素早く進んでいける。

 走って行くよりもずっと速い。


 木々の上に出て飛んでいけば、さらに速く目標地点に至れただろう。

 それをしてしまうと途中にいるはずのゴブリンどもを無視してしまうことになるので不採用とした。


 そんな訳でゴブリンを狩りながら飛んでいく。

 遭遇戦となった際には減速を余儀なくされたものの重力砲プレッシャーガンを二丁拳銃よろしく両手で放ち──実際はエアブラストの魔法だが──頭部熱線砲も駆使して殲滅していった。


 ドロップ品はスルーしたけど移動速度優先ということで。

 こんな奥地まで誰も入って来やしないんだから、かすめ取られることもないので問題あるまい。

 どうせ大した価値もないんだから無くなっていても惜しむようなものではないんだけど。

 とにかく、蛇行しながらゴブリンどもを殲滅していった。


 目標地点に到達。

 始末したゴブリンの数は百を超えていると思う。

 ただ、中には少ないながらも死体が残るゴブリンもいた。


「こりゃあ野良ゴブリンの集落もありそうだな」


 とはいえ、優先すべきはダンジョンの捜索だ。

 再び変身を解除して3Dレーダーのお世話になる。


「見っけ」


 残留している濃い魔力の流れが一点に集中している場所がある。

 その割には膨れ上がったりはしていない。

 不自然なほど綺麗に途切れている。

 先代の知識によるとダンジョンは異界であるため外界とは隔絶されているという。

 そのことと照らし合わせて考えると、これは間違いなくダンジョンだろう。


 ここからさほど離れてはいない。

 このまま行くべきか少し悩んだものの、自分で戦う感覚を忘れないためにも変身は解除して赴くことにした。

 危うくなれば、いつでも変身できる訳だし。


 という訳でそのまま走って目的地へと向かった。

 ここからは飛んでいくほどの距離じゃなかったし周辺の木々が密集していなかったというのもあったからだ。


 で、あっという間に到着。

 そこは岩肌の見える小高い丘と言った感じの場所で、あからさまな感じに洞窟とわかる大穴が開いていた。

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