第18話 敵に見つからない監視カメラを作ってみた
今日の朝食はカンタータフライドチキンだ。
略称はカンタもしくはCFCである。
一部地域ではカンチキだそうだが、どうしてそう呼ばれるかまでは知らない。
「今日も元気だ、チキンが美味い!」
触手でチキンバーガーと骨付きチキンを掴んで交互に食べているリスタも「その通り」と言わんばかりにプルプルと縦揺れを繰り返す。
かなり気に入ったみたいだな。
ガイザーでの戦闘にも慣れただけでなく面白がっていたみたいだし、不具合や面倒事にならないのは本当にありがたいね。
まあ、そうやって安穏としていられるのもオルランが次の手を打ってくるまでだろうけど。
次のタイミングは視察から帰ってきた直後からだろう。
それまでに母屋の監視をできる準備を進めておきたい。
最初はリスタを使うかと考えたんだけど、高スペックすぎてもったいない使い方になるとの判断からボツにした。
戦闘力は必要ないんだよな。
それよりも隠密性の高さが必要だ。
これがかなり難しいんだよね。
小動物でも気配はあるし監視体勢になると気を張るぶん余計に察知されやすくなる。
そもそも動物では屋敷に潜入できない。
虫を使うという手もあるだろうが、それとて掃除の際に排除されるのが目に見えている。
耐久性に問題がある上に知能がないに等しいのが致命的だ。
命令を出しても思い通りに動くかわからないからね。
例えば、あの男を監視しろと命令したとする。
簡単な命令に思えるがダメだ。
まず、あの男という時点で理解できない。
何かマーカーをつけてそれを追尾させるしかないだろう。
あと監視という概念もないので、これも理解できない。
定点カメラ状態にするなら命令を出す必要もないが先の理由によりアウトだ。
保護色で目立たなくなる虫を使ったとしても完璧に背景へ溶け込める訳ではないし。
壁に潜り込んで隠れるくらいはしないとね。
それで監視ができる虫や動物がいるなら見てみたいものだ。
魔物ならいそうな気はするけど、生憎と先代の記憶に該当するものはいない。
アカシックレコードにアクセスして調べられればいいんだけど、鑑定でも大した成果が出ていないのに検索条件が曖昧になると時間がどれほどかかることやら。
そんなことをするくらいなら自前で監視カメラを作って母屋の壁に埋め込んだ方がマシというものだ。
んー、それなら可能か。
紀文だった頃に監視カメラのシステム開発に携わったことがある。
あの会社、何でもかんでも手を出していたからなぁ。
営業は開発部に相談なく無茶な仕事を振ってくるし、企画部も唐突に経験のないゲーム開発をやろうと言い出したりするし。
まごうことなきブラック企業だったな。
俺が事故にあって寝たきりになったのも残業時間が過労死ラインを突破して朦朧とした状態の時に横断歩道を渡りきれなかったせいだし。
当時はそのあたりの記憶が曖昧だったが、転生してシドになってからは車にひかれた瞬間まで克明に思い出せてしまう。
これも世界の管理者が転生特典として前世の記憶すべてを引き継いだからだろう。
美味しい御飯が食べられたりと役に立つことが多い反面、こういう時はゲンナリする。
まあ、世の中なんでも思い通りになる訳じゃないってことだ。
そんな訳で監視カメラを作ることになったけれども、一から作らないといけないのが手間だ。
紀文が開発の仕事の時に使ったものをコピーできれば良かったんだけど、そうはいかない。
本体を完全に壁に埋め込んでもレンズの部分を露出させたらバレバレの状態になってしまうからね。
目指すはCCDと言われるイメージセンサーよりも小さいサイズ。
CCDはセンサー部分だけなら指先に乗ってしまう大きさだ。
色々なものに使われているけどサイズを実感しやすいのは内視鏡だろうか。
ドラマの手術シーンや医療系の情報番組とかでも出てきたりするアレだ。
内視鏡の管はそこそこの太さがあるように見えるけどライトや処置具をも内包しているため、そう見えるだけである。
簡単に言ってしまえば極小な訳だ。
通常の目線から外れる範囲に設置すれば、まず発見される恐れはないだろう。
後は音声を拾うマイクだが、これは完全に壁や調度品の中に埋め込んでしまっても問題ない。
消音の魔法でもかけない限り音の波は物にも伝わるからね。
ノイズは乗るだろうけど、そこは魔法で調整すればいい。
大体の仕様が決まったのでイメージを固めてクリエイションでレッツ作成。
明確なイメージがあったので手間取ることなく超小型監視カメラは完成した。
加工の魔法で壁に埋め込む予定なので本体はケースのない基板のようになってしまった。
そこは御愛敬というか必要になればケースを用意すればいいだけのことだ。
壁に埋め込むなら基本的にケースは不要。
必要になるのは別の場所で使う場合だ。
例えば森の奥とか。
初めて作ったものをいきなり実戦投入なんて真似をするのは怖いからね。
不具合で使い物にならないだけならともかく、相手にバレるようなポカがあったらシャレにならんし。
という訳でいくつか複製して森の奥で試験運用する。
距離があるから映像の転送が上手くいくかのテストにもなるし。
受信用の機器も必要だけどタブレット風の見た目でサクッと作成。
受信映像を自動的に録画して後で見られるようにしておくのを忘れない。
倍速再生で確認すれば時短になるからね。
その夜、さっそく監視カメラの設置のため森の奥へと向かった。
もはや日課のようなものだと思っているが昨日までよりさらに奥を目指す。
魔物や危険な獣との遭遇率を上げるためだ。
丸1日監視して映っていたのはわずかな時間だけでしたとなるのは避けたい。
できれば数時間は記録されていてほしいところである。
「この近辺にしようか」
少し距離を置きながら木に貼り付けるようにして設置していく。
基板むき出しだと動物や魔物の興味を引いて壊されたりする恐れがあるので木に見えるようなカバーをして偽装する。
「これで良し」
設置が終わったら場所を変えて鍛錬だ。
時間は有り余っているからね。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「うん? 割とノイズが乗っているな」
タブレットに記録された映像はお世辞にも鮮明だとは言えないものだった。
暗がりでもライトなしで撮影できるようにしたけど、そのせいだろうか。
距離があるせいで魔力波の送受信の間で他の魔力の干渉があったとも考えられる。
試しに同じカメラで書庫内を数分ばかり撮影してみた。
すぐに確認してみるが、これだと鮮明な映像になる。
念のためダークネスの魔法で周囲を夜の森のように暗くして撮影し確認してみる。
こちらはやや暗さが残って鮮明とは言い難い映像になったけれどノイズは乗らなかった。
「魔力波の問題みたいだな」
生データのままで送受信するのは外部の影響を受けやすいのか。
距離もそうだけど結界の影響も受けると考えた方がいいかもしれない。
オルランに怪しまれぬようにと結界を展開したのが仇になったな。
まあ、これはアンテナを結界の外に設置すれば済む話だ。
問題は母屋の方だな。
実はあちらにも結界があることが判明したのだ。
屋敷全体ではないが執務室や応接室は外部に音が漏れないように結界が構築されている。
伯爵家ともなれば間諜が送られてくることもあるのだろう。
おかげで対策しないと監視カメラの映像や音声が使い物にならない恐れが出てきた。
慎重にやらないと監視カメラを仕込んだのがバレたら面倒だ。
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