第17話 色々と試してみた

 という訳でやって来ました、夜の森。

 なんだけど、俺はガイザーの影の中にいる状態なので元から暗い場所にいるんだよね。

 不思議と狭いとは感じないんだけど。

 あと、リスタとのリンクを利用して視覚を共有しているので昼間のように視野を確保できている。


「よしよし、ガイザーの頭部センサーは全周囲を把握できているな」


 思わず独り言が出てしまうくらい再現度が高い。

 これなら3Dレーダーに頼らなくても敵の位置が把握できる。

 本家がそうであるように壁の向こうにいたとしても関係ないだろう。

 やはりイメージの力は偉大だ。


 そのセンサーで少し離れた場所にいる何者かの気配を感知した。

 方角的には人が住んでいる方に近い。

 魔物や危険な獣であれば対処しなければならないだろう。


 頭部センサーをそちらに向けて対象の正体を探る。

 周囲の警戒が少しおろそかになってしまうのが難点だけど、今は周囲に脅威になりそうなものはいないので大丈夫だろう。


 単体なのは間違いないようだ。

 けれども結構な大きさがある。

 四足歩行のせいでゴブリンの方が頭の位置は上だけど質量だけで言えば確実にゴブリンの数倍以上だ。

 しかも手足は太くて短い。


「これは熊だな」


 大きさからするとヒグマのように思えるが、まだ断定はできない。

 そこで頭部センサーの感度を上げてみた。

 牙が長いとか角があるなど特徴的な見た目をしていなければ魔物でないことが確定するからだ。


「魔物じゃなさそうだな」


 だからと言って安心できる訳ではない。

 俺にとっては脅威でもなんでもないのだけど、コイツは人里に近づきすぎだ。

 餌場で充分な食糧を確保できなかったのだと思われる。

 そういえば先代の記憶に熊が領内で大暴れしたことがあったような……


「コイツか!」


 これは放置すると先代の記憶通りの大変な事件になってしまいかねない。

 いや、なってしまうだろう。

 そして領内で被害が出てしまうと領主代行であるオルランが色々と動かねばならない。

 それで陣頭指揮を執っているところを襲われて大怪我をしたらしい。

 奴がどうなろうと知ったことではないが、領民が犠牲になるのは見過ごせない。


「運がなかったな、お前」


 せめて一撃で仕留めてやろう。

 まずはダッシュで一気に距離を詰める。

 魔法で消音などしていないので普通に音が出てしまうが構わない。

 向こうが気付いて、こちらに意識を向けてくれた方が好都合だ。

 森から出ようとされると面倒だからね。


 読み通りにヒグマがこちらに気付いた。

 そして殺気のこもった視線を送ってくる。

 獣と遭遇したことのない人間なら足がすくんだかもしれないな。

 生憎と地球で何度も転生してきた自分にとっては何度も経験してきたことだ。


 まだ距離があったせいかヒグマがこちらに向けてダッシュしてきた。

 まあ、そうなるよな。

 この展開も読めていたので慌てず騒がず迎撃するだけだ。


 タイミングを合わせて足を止めガイザーの膝を前に出す。

 膝蹴りではなくヒグマの眉間に当たるよう軽く置くように膝を出しただけだ。

 それでも──


 グシャッ


 嫌な音と確かな手応えが伝わってきた。

 大質量の突進だったけど、こちらはガイザーのGコントローラーを使ったという体でサイコキネシスの魔法を使ったのでビクともしていない。

 当然のことながら衝突の衝撃がすべてヒグマの額に集中する格好となった。


 このままだと額を割るだけでは済まなさそうなので膝を引きつつ半身になって突進してきたヒグマの体を後方へと流す。

 死体となったヒグマは斜め後方へと流れ地面を滑っていき木の幹に当たって跳ねるように転がり、ようやく止まった。


 派手に転がったが血飛沫をまき散らしたり頭の中身をぶちまけたりというスプラッタなことにはならずに済んだ。

 膝を引くのが少しでも遅ければ、そういうことになっていたはずなので少しばかり安堵する。

 後片付けが面倒なのは嫌だからね。


『リスタ、ヒグマは捕食したことがあるか?』


 リンクを介して思念を送ると肯定する返事があった。

 とするとリスタに食べてもらって片付けというのは無しかな。


『一応、聞くけどヒグマは美味しいか?』


 少し間があって返されたリスタの思念は否定であった。

 どちらかと言えば美味しくないといったところか。


『じゃあ、いらないな?』


 この問いには、ゆっくりとうなずくような思念が送られてきた。

 という訳で俺が処分する必要がある。


 新たに会得した魔法、ストレージの出番だ。

 ヒグマに近づいてガイザーに触れさせ魔法を発動すると一瞬にしてヒグマは姿を消した。

 とはいえ亜空間に取り込まれただけなので、後で解体する必要がある。

 ストレージの中は時間が経過しないから焦ることはないんだけど。


 頭部センサーで周囲の状況を確認する。

 血痕が飛び散っている。

 生活魔法の洗浄を多重起動。

 両手ですくった程度の水が点在する血痕の元に現れ洗い流していった。


 ただ、ヒグマがここまで来た痕跡は消すのが面倒だ。

 森の奥までたどってすべて消すなんて考えるだけでも骨が折れるし現実的とは言えない。

 この近辺だけ消すのも途切れる部分が不自然になるのが目に見えているから賢い方法とは言えないな。

 しかも、それが発見されたときにどうなるかが読めなくなってしまう。

 森の中を領軍総動員で隠蔽工作をした誰かを捜索するなんてことになった日には大迷惑もいいところだ。

 それなら、ありのままを見せて大型の獣を警戒するように仕向けるだけの方がいくらかマシというもの。


 ただ、戦いの痕跡だけは残さないようにしておこう。

 これも死体が残っていないし誰が倒したのかも謎で不自然だからね。

 消すのはヒグマが滑った所とぶつかった木の幹、そして派手に転がった場所。


 これぐらいならと思ったが簡単ではなかった。

 ヒグマの足跡をグシャグシャにしていたからね。

 時間をかけて入念に直させていただきましたよ?

 そのぶんガイザーの機能確認の時間は削られたのは業腹だったがイレギュラーに対応したんだからしょうがない。


 気を取り直して人が入ってこないほど森の奥へと向かった。

 朝食まで残された時間は少ないけどチャチャッと確認していこう。


 まずはヒグマを倒す時に使ったGコントローラー。

 オリジナルは腹部にある半球状の重力制御ユニットということになっている。

 コスプレ版は見た目だけ似せているので機能は魔法で再現する他ない。


 宙に浮くのはフロートの魔法で再現可能。

 これをやってみたところリスタが面白がっていた。


 Gコントローラーで制御する重力砲のプレッシャーガンは頭を抱えたくなった。

 重力砲なんて魔法でできるのかって話だよ。

 結局、それっぽく見えればいいかということで圧縮した空気の塊を放つエアブラストでなんとか再現したけどね。


 その点パンチやキックの威力をGコントローラーで増すのは目に見えないからなんとでもなる。

 リスタに身体強化をかけてそれっぽくしてみた。

 ちなみに的にしたのは地属性で作った岩である。


 続いてソニッククラッシャー。

 口に相当する部分にある上下2個の球体から発する共鳴振動波というのがオリジナルの設定だ。

 リスタがそれっぽく振動させることしかできなかったので音と効果は魔法で再現した。

 ディスインテグレイトなんて無駄に高度な魔法を使っている。

 これで破壊した岩の破片を粉々にした。


 頭部熱線砲はレーザーの魔法を新たに構築して再現した。

 これも破片を破壊するのに使ったが貫通して地面を焦がしてしまったのは御愛敬か。


 そして超音波ソード。

 腕部や脚部がフレキシブルに形状変更し剣状の武器になる代物だ。

 刃の部分は超音波カッターと同じ原理で切れ味を増している。

 これはリスタが再現できた。

 やはり天才肌だよな。

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