第16話 イメージだけで変身できるか

 リスタの擬態は多岐に及んだ。

 森に生息している小動物は軒並み網羅していたからね。


「虫には擬態しなくていいぞ」


 そう言ってなかったら、きっと変身していたことだろう。

 虫は割と平気な方だけど唯一の例外がある。

 焦げ茶色で薄べったくてカサカサとすばしこく走るアレだ。

 名前を出すのもはばかられる人類の敵にして生きる化石G。

 奴だけはダメだ。


「それだけ擬態できるなら俺がイメージした物を再現することもできるかもしれないな」


 なにしろテイムしたことで俺とリスタの間にはリンクとでも言うべきつながりができている。

 念じるだけで相互に意思を伝え合えるのは大きい。


 ちなみにリスタはワクワクしているような反応を見せていた。

 興味を持ってもらえているようで何よりだ。


「俺が再現したいのはコレだ」


 そう言いながら思い描いたイメージをリスタに送る。


「………………」


 しばらく待ってみたが反応が薄い。

 俺の全身を覆って強化外骨格のヒーローになるなんて無茶な要求をしたからなぁ。

 超殖剛装ガイザー。

 古代遺跡から発見された生体ユニットと偶然にも融合してしまった高校生が悪の組織と戦う日本のマンガだ。


 アニメ化もされているのでイメージソースにしたけど、さすがに厳しかったか。

 実写映画もあったけど俺の中ではあれは無かったことになっている。

 まるで別物だったから黒歴史ですらないとだけ言っておこう。


「さすがに無理だよなぁ」


 リスタに話しかけると意外にもフルフルと横に体を震わせた。


「え? できるけど動けなくなる?」


 コクコクとうなずくリスタ。

 どういうことだろうと思っていたら、俺の姿とガイザーを並べたイメージが送られてきた。


 一瞬にして理解する。

 10才児が大人サイズのガイザーの中に入ったら身動き取れる訳ないってことを。

 オリジナルの方は変身すると生体ユニットと瞬時に融合してしまうので、そういう心配はないけれど。


 さすがにそこまで再現するつもりはない。

 コスプレで我慢ってところだ。

 まあ、そのコスプレすらままならないのが現状なんだけど。


「どうしたものかねえ」


 すぐに思いつくのはデフォルメ化したガイザーのコスプレをすることくらいか。

 可能だとは思うけど微妙なところだ。

 デフォルメはフィギュアを作って飾る方で楽しみたいからね。

 実際に魔物を狩ったりもしたいのでガイザーになるならリアリティがほしい。

 動くガイザーにかわいさは不要だ。

 贅沢な悩みだとは思うんだけど何とかしたい。


 俺が大人に変身してみるとか。

 自分でも、ちょっと意味がわからない。

 いくら魔法でも10才児を大人に成長させるのは無理がある。

 仮にできたとしても不可逆だろうし、そうなると不都合が生じてしまうのは明白だ。


 ならば代役を頼むのはどうだろう。

 ……天地がひっくり返っても無いな。

 誰に頼むと言うのかという話だ。

 ミューラー伯爵家にそれを頼める人間などいない。

 先代も家族のことについては諦めきっていた。


 長兄のオルランは俺を目の敵にしているし。

 次兄のガルフは脳筋で自分より強い者にしか興味がない。

 姉は結婚して家を出たり留学していたりで物理的にかかわる機会がない。

 あれ? 長姉は離婚して帰ってきてるんだっけ?

 どのみち、ここに来る気配がないから兄たちと大差はないだろう。

 父親であるアルブレヒトは王都で仕事に追われており家に帰ってくることすら滅多にない。

 帰省したとしても家族の顔もまともに確認せずに王都へ舞い戻るような有様だ。

 でなければ俺が書庫に押し込められていることに疑問を抱かないはずがあるまい。

 なお、使用人たちはオルランの言いなりで俺のことはいない者扱いしている。


 こんな状態で誰に代役を任せるというのか。

 いや、それ以前の問題か。

 俺が魔法を使えるとオルランが知ったら目の敵にするだけでは済まないという確信があるからね。

 代役なんて誰にも任せられないって訳だ。

 俺の言いなりになるような相手でもいれば話は別だけど。


 いくら貴族の子息とはいえ10才児にそんな人材が専属であてがわれるはずもない。

 もしかしたら先代が知らないだけで、それがこの世界の貴族としては普通なのかもしれないが、オルランが認めるはずはない。

 家のことは屋敷にいない父ではなく後継ぎであるオルランが取り仕切っているから、どうしようもないのだ。


 リスタのようにテイムする相手でもいれば良いのだけど、そうそう都合の良い魔物はいないだろう。

 あの森にいる人型の魔物なんてゴブリンくらいのものだ。

 そんなのが俺の代役? 冗談じゃない。

 リスタだって拒否るだろう。

 そんなバッチイ奴を選ぶくらいなら人形の方がよほどマシというもの……


「そうか、アクションフィギュアだ」


 色々とポーズが取れてイラストとか描くときの参考になるんだよな。

 紀文の学生時代にマンガを描く資料として活用させていただきましたよ。

 だからクリエイションで再現するのはバッチリだ。

 もちろん縮小モデルから拡大させて人間サイズにするさ。


 とはいえ、ただ大きくするだけじゃダメだ。

 柔軟性を持たせて可動領域を広げるのは必須である。

 アクションフィギュアは人体の動きを完璧に再現できる訳じゃないからね。

 小さいために不可能だった指も動くようにする。


 顔は紀文の写真を仮に貼り付ける感じで。

 ガイザーの主人公にしなかったのはコスプレだからというのが大きい。

 マンガやアニメの顔を等身大で貼り付けるのが怖いからというのも否定はしない。


 そんなこんなで完成した等身大紀文くんフィギュア。

 重心の調整はしたから立ってはいるけど風が吹いただけで倒れそうなほど不安定だ。

 という訳で倒れないようサイコキネシスで保持している。

 動かすのもサイコキネシスを使おうと思っていたから問題ない。


 軽く操ってみたけど悪くない感じだ。

 等身大ロボットをコントローラーで操作している感じがして楽しいくらいである。

 いっそのこと搭乗型のロボットを作るのも面白そうだな。

 とはいえ、それはまた今度。

 今はガイザーの再現に集中しないと。


 ただ、操作に集中すると注意力が散漫になりそうなのが気がかりだ。

 無防備になるのはいただけない。

 どうにかならないかと考えて魔法をひとつ新たに作った。

 シャドウシェルター。

 影の中に亜空間を形成して退避する魔法だ。


 ガイザーに変身するときは紀文くんフィギュアをシャドウシェルターで引っ張り出して入れ替わりで俺が退避する。

 そして、紀文くんフィギュアがリスタに覆われてガイザーの姿を形成し変身完了と。


 特に問題なく変身できたな。

 サイコキネシスで手足を動かしてみるが滑らかで引っかかりを感じることもない。


『リスタ、どうだ?』


 声を出しても届かないのでテレパシーの魔法で確認してみる。

 そんなことをしなくてもリスタとはテイミングしたことでリンクがつながっているので相互に思念を送り合えるのだけど、そのことを失念していた。

 俺が喋らず意思疎通するのに慣れていないというのも影響しているとは思う。

 リスタの返事はリンクを介した思念で送られてきたのは言うまでもない。


 ちなみに返事の内容は困惑だった。

 質問の意図を理解しかねるような感じだ。


『単純にその状態がしっくりこないとか自分の意図しないタイミングで体が動いて不快だとかは無いかってことだよ』


 今度はテレパシーではなくリンクを介した思念波で問うてみる。

 リスタは済ました感じの思念を返してきた。

 どうってことないと言いたいのだと思う。


『なら、この調子で夜の狩りでは色々と試してみよう』


 即答でOKの返事があった。

 よし! これでガイザーのあれやこれやが試せるぞ。

 とはいえ、胸部装甲を展開して発射する粒子ビーム砲メガクラッシャーは威力が高すぎて使えないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る