第15話 実は天才肌だった?

「お代わりはいるか?」


 フルフルと体を震わせるリスタ。

 食べようと思えば食べられるけど昼食も楽しみたいから不要らしい。

 そういう思念がイメージで送られてきた。


「燃費いいなぁ」


 思わず感心するがテイムする前はそうではなかったようだ。

 俺が作った新しいボディがそういう仕様なのか、それともテイムした影響か。

 別の魔物をテイムしてみないと判断のつかないところだな。

 だからといって無理に知る必要もないだろう。

 不潔不浄のゴブリンとかテイムしたくないし。


 なんにせよリスタが俺の一食分と変わらぬ量で満足するのはラッキーだ。

 飯の生産で疲労困憊なんてことにならずに済みそうだからね。


 現に俺が自分の分をクリエイションで用意して食べ始めてもリスタは特に興味を示さなかった。

 メニュー的にほぼ同じだったということもあるからなんだろうけど。

 ちなみに俺はサイドメニューをサラダにした。

 野菜も食べないとねってことで通常の数倍の量にしたのは御愛敬。

 mの店では無理な芸当だけど俺が魔法で用意しているから融通が利く訳だ。


 俺が朝飯をモグモグし始めると、リスタは擬態の練習に取り掛かった。

 昼までかかって変身できるかどうかだろうなと思っていたのだが。


「おおっ、スゴいじゃないか」


 リスタは俺が朝食を食べ終わる頃合いでフクロウに変身し終わった。


「一気に進歩したなぁ」


 褒めたはずなのにリスタは不服そうな思念を送ってくる。


「もっと手早くできるようにならないと話にならないって?」


 返事は肯定の思念だった。


「そりゃそうなんだが段階ってものがあるだろう。少なくとも想像していたよりずっと早いぞ」


 それでも当人は不服だと主張していた。

 すぐさま元の姿に戻る。


「なになに? これくらいで擬態できるようにならないと、いざという時に使い物にならないってことか?」


 なんとなくだがリスタがそんな風に主張しているように感じた。

 それを肯定するように体を縦に伸ばしてブンブンと振るリスタである。


「あー、うん。目標があるのはいいことだ。その調子で頑張ってくれ。俺は俺で頑張るから」


 リスタからはすぐに了解の返事があった。

 もちろん言語化されていないので受け取った思念からなんとなく察する形だ。


 俺は魔法の修行を兼ねて鑑定をどうにかしたい。

 アクセスするアカシックレコードらしきものの情報量が膨大すぎて検索にやたら時間がかかってしまうのが困りものなんだよね。


 という訳で、色々と試してみるつもりだ。

 そうして各々が自分のすることに集中していく。


 俺の方は一朝一夕で解決する問題じゃないので根を詰めてまでやろうとは思わない。

 ちょっとした思いつきを試していく感じで進めるつもりだ。

 いま思いついているのは、ちょっとぶっ飛んだ方法である。


 検索に時間がかかるならプロセッサーの処理速度を上げればいいじゃない作戦。

 ここで言うプロセッサーとはコンピューターのCPUではなく自前の脳のことである。

 それをどうやってスピードアップさせるのか。

 やり方はスゴく簡単。

 単純に身体強化の魔法をかけるだけだ。


 ちょっとどころでなく過激にぶっ飛んだ方法だよね。

 自分の脳に身体強化をかけるなんてさ。

 少し怖いので試しに一瞬だけかけてみる。


「………………」


 特に痛みや吐き気などはしない。

 まあ、普通に身体強化を使った時だって魔法での防護とセットになっているので危険がないことはわかっているのだ。

 使う場所が場所だけにビビってしまった訳だけど。


 慎重になって損はないとも思うので無理はしない。

 少しずつ時間を延ばしていく。

 そうして数十秒連続で身体強化するところまで来た。

 スピードに特化しているのでパワーに回す分の魔力を節約できているのは収穫なんだけど効果は実感できない。

 鑑定の結果が出ないからね。


 仕方ないので魔力の消費を上乗せしてスピードアップしてみた。

 少しずつ慎重に。

 結構な魔力を消費してようやく──


[紙ゴミ]


 という鑑定の結果が得られた。

 ハンバーガーの包み紙を数十秒ほど鑑定して得られた情報がこれだけどいうのは微妙なところだ。

 ただ、一歩前進したとも言えるので無駄だとは思わない。

 チャレンジは続けていこう。

 そう思ったところで気がついたのだけど、いつの間にか昼時になっていた。


「うっわ、もう昼かぁ」


 俺が驚きの声を上げると少し離れた場所にいたリスタがビュンとすごい勢いで俺の目の前に来た。

 とは言っても俺の定位置はベッドの上なので座っていても見下ろす格好になってしまうのだけど。


「飯だろ? 待ってな、今度は──」


 ミスディのドーナツだぞと言おうとしたところでリスタから待ったがかかった。

 ポンポン飛び跳ねて必死な様子だ。


「なになに? 飯の前に見せたいものがあるってことでいいのか?」


 ミニョーンと縦に伸びて先端が鎌首をもたげるような格好になったかと思うとコクコクとうなずくリスタ。

 段々と器用になっていくな。


「何を見せてくれるんだ?」


 おおよその見当はついていたけど、それを先に言ってしまうのは野暮ってものだ。

 という訳で黙って見守る。

 すると、ひときわ高く飛び跳ねたリスタがジャンプの頂点でフクロウに姿に変身した。

 音もなく羽ばたいて宙を舞う。

 スイ────────っと広い書庫内を大きく旋回しながら飛んで俺の元まで戻ってくる。

 そして目の前まで来るとスライムの姿に戻って着地した。


「おおーっ」


 思わぬ成果にパチパチパチと拍手する。


「予想以上だな。一瞬で変身するのは夕方くらいまではかかると思っていたのに、もうできるようになったなんてな」


 ドヤと言わんばかりに膨れながら反り返るリスタ。

 もちろん送られてきた思念もそれに合わせたものだ。


「その調子で他の形体にも擬態できるよう頑張ってくれ」


 俺としては励ましの言葉のつもりだったのだけど、リスタは複雑な心境のようだ。

 前向きな気持ちと拒否感がせめぎ合うような感じなのだが言語化されないから何がなにやらサッパリである。


「何かやりたくない理由でもあるのか?」


 疲れたのであれば休ませなければならない。

 ずっと集中して励んでいたから一気に疲労が吹き出したなんてことも考えられる訳だし。


 だが、リスタはブルブルと身を震わせて否定した。

 と同時にネガティブなイメージを送ってくる。


「ああ、そういうこと」


 リスタが送ってきたのはゴブリンの姿だった。

 俺だってゴブリンに変身しろと言われたら嫌だよ。


「ゴブリンは擬態しなくていいぞ。狩るときならともかく、あんなバッチイのを間近で見たくないからな」


 そう言うとリスタは俄然やる気になった。

 スライムにとってもゴブリンは嫌われ者なんだな。

 まあ、捕食したときの味が最悪だったからなんだろうけど。


 この調子で午後からは狼にチャレンジしたのだけど明らかに短い時間で瞬間擬態を成し遂げていた。

 明らかにコツを掴んだとしか思えないのだけど。

 こんな短期間で?

 冗談でしょと言いたくなるくらい俺の予想を上回ってばかりだ。


 リスタの才能が並でないことは間違いない。

 それどころか天才と言っても良いだろう。

 どうやら俺は拾い物をしたようだ。

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