第14話 まずは腹ごしらえ

 擬態するのに時間はかかったもののリスタはフクロウに変身することができた。

 もちろん、最初の巨大フクロウの時と違って飛ぶことができる。


「とりあえずは合格だな」


 そう言うと不服そうな思念が返信されてきた。

 頑張ったのに、とりあえずとは何事かと言わんばかりである。


「姿形や能力面においては完璧だが時間がかかりすぎだよ。初回だからとりあえずの合格なんだが?」


 そう言うと悔しそうに震えていた。

 それでいて闘志を燃やすような意思も感じられるあたり本当に負けず嫌いだな。


「時間短縮は今後の課題として帰るぞ」


 本格的に明るくなってから森の中をうろつくと誰かに目撃されたときが面倒だ。

 今は隠密行動がどこまでの精度でこなせるか未知数なリスタもいる。

 俺の魔法でフォローできるとは言え慎重になった方がいいだろう。


 そんな訳で帰路につく。

 幸いにも道に迷うことはなかったし誰かに察知されることもなかった。

 3Dレーダーで確認したけど近くに誰もいなかったからね。

 夕食時以外は誰も書庫に近づかないからなのは言うまでもない。

 念のため自分とリスタにも光学迷彩を使って書庫へと戻ったけど。


「さて、この中なら擬態の練習はし放題だ」


 さっそくリスタはスライムの姿に戻った。


「戻るのは一瞬なんだな」


 しかもフクロウサイズに縮んだままだ。


「コピーした能力は姿を変えても使える訳か」


 リスタが一瞬だけプクッと膨れた。

 まるでドヤ顔で胸を張っているかのように感じたのだけど気のせいではないだろう。

 これくらいは朝飯前てなもんよと言わんばかりの思念が伝わってきたからね。


 実際は馴染んだ姿だから可能な芸当だと思う。

 例えば、まだ擬態していない狼の姿になる際に縮小化した今のサイズを維持できるかは疑問だ。

 する意味がないというかメリットはなさそうだけどね。


 なんにせよ、変身すればするほど擬態した姿にも馴染んでいくことだろう。

 そうすれば今よりずっと簡単に色々な姿になることができるようになるはずだし、異なる姿の際に得た能力も使えるようになっていくものと思われる。

 現状ではスライム以外に馴染んだ姿などないから、どれだけ時間がかかることやら。


「とりあえず朝食にしよう。擬態の鍛錬はそれからだ」


 俺がそう声をかけるとリスタは軽くポーンと跳ねた。

 嬉しそうだ。

 先代の知識によればスライムは超のつく雑食らしい。

 超雑食ってなんだよと思ったけど、雑食に加え悪食でもあるということなんだとか。


「その気になれば何でも食うのか」


 俺の独り言にリスタが反応してポンポンと跳ねた。

 ちょっと怒っているというか抗議しているような感じだ。


「え? 手当たり次第になんでも食うみたいな見方をされるのは心外だって?」


 肯定の返事が思念で送られてきた。


「けど、ゴブリンを捕食したこともあるんだろ?」


 今度は肯定しつつもネガティブな感情が上乗せされている。

 よほどマズかったのだろう。

 ただ、捕食したことでゴブリンのことを理解できたことに対しては満足したようでもある。

 好奇心は猫を殺すの典型例かもしれない。

 あれって続きの文言があるんだよな。

 詳しいことは知らないけど、最終的に猫は生き返るとかなんとか。

 無茶な話だけど外国のことわざにケチをつけてもしょうがない。


「心配しなくてもマズいものなんて出さないよ。俺だってそんなの食べたくないしな」


 そう言うとリスタは全身で喜びを表現するかのようにポーンと高く飛び跳ねた。


「喜ぶのはまだ早いって。俺が美味いと思っていてもリスタの口に合わないかもしれないだろ?」


 何度も飛び跳ねようとしていたリスタだったがピタリと止まる。

 それでも待ちきれないと言わんばかりのウズウズした感情が伝わってきた。


「はいはい、わかりましたよ」


 さっそくクリエイションで朝飯の用意にかかる訳だが床に直置きして与えるのは、はばかられるので受け皿を先に作り出す。

 宍戸紀文の少年時代に飼っていた犬が使っていた台座が高めの代物だが、リスタは自在に体の形を変えられるから問題ないだろう。

 と思って作り出したのだけど……


「待て待てっ」


 ガバッと広がって覆い被さろうとしていたリスタを制止する。


「それは御飯じゃないぞ。ご飯をのせるための受け皿だ」


 不満たらたらな思念を送ってきて抗議してくるリスタ。


「スマンな。朝飯はこっちだ」


 受け皿の上にmなバーガーショップの朝のセットメニューであるベーシックなマフィンタイプのハンバーガーとサイドメニューのチキンナゲット、ドリンクはコーラにした。


「おいおい、包み紙とか箱は食うなよ。そんなの美味くないんだからさ」


 またしてもガバッと覆い被さろうとしたのでやめさせる。

 美味くないという言葉に反応してリスタは止まったが戸惑っているような思念が送られてきた。


「これはこうやって中身を出して食べるんだ」


 包み紙と箱を開いてやる。


「そっちのは飲み物だからこぼすなよ」


 理解と了解が入り交じったような思念で返事をしてきたかと思うと、リスタは触手を3本伸ばしてきた。

 マフィンのハンバーガーとナゲットには触手をグルグルッと巻き付け、コーラにはストローのように上から触手を垂らしていった。

 次の瞬間、リスタがブルブルッと身を震わせる。


「おっと」


 リスタが身震いした拍子に触手を引っかけてコーラの入ったカップを倒しそうになったが、こんなこともあろうかとサイコキネシスの魔法をスタンバイしていた。

 もちろんカップも中身のコーラもセーフだ。

 液体を掴んで止めるなんて芸当は魔法でなきゃできないから少しばかり奇妙な感じはしたけどね。


「シュワシュワするけど別に痛くはないだろう?」


 コクコクと本体のみ縦にボディを震わせるリスタ。

 うなずいたつもりらしい。

 そして、妙に興奮気味なテンションで何かを伝えたがっている。


 テイムしたおかげもあって思念で意思の疎通はできるようになったけれど、そもそもまともな言語を習得していないリスタに複雑な説明は無理だ。

 喜怒哀楽の感情をイメージで補強しつつ伝えてくるのが精一杯。

 大抵のことは、それで充分に伝わりはするのだけど、今回に限ってはリスタが興奮しすぎて意味不明である。

 怒っている訳ではなさそうなのでマズかったということはない、と思いたい。


「それはコーラという炭酸飲料だ。あ、炭酸飲料ってのは泡がシュワシュワする飲み物のことな」


 ポンポンと飛び跳ねるリスタ。

 またしてもコーラのピンチかと思ったけど今度はこぼさないよう触手の動きを止めていた。

 なかなか器用なことをするものだ。


 なんにせよリスタはコーラが気に入ったみたいだね。

 それだけじゃなくてマフィンのハンバーガーとナゲットにも感動していた。

 触手を器用に動かして本体のボディに取り込みジュワッと溶かすように食していく。

 ナゲットをひとつ取り込んでブルッと震え。

 マフィンのハンバーガーは全部を一気に飲み込むのではなく一口かじるように端っこを取り込んでいた。

 そして、やはりブルブルッと震える。


「どうだ、美味いか?」


 ポンポンと飛び跳ねながら肯定の思念を送ってくるリスタ。


「そうか、美味いか」


 コーラが気に入った時点で口に合うだろうと思っていたけど喜んでもらえたようで何よりだ。


「これからも色んなものを食わせてやるからな」


 俺がそう言うと、リスタはブンブンと体を縦に振って喜びをあらわにしていた。

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