第13話 新しいボディを作ってみた
スライムのリスタをテイムしたのは良いのだが。
「このまんまじゃクリスタルの玉となんら変わらないんだよなぁ」
ボディも魔石もないので動くことも魔法を行使することもできやしない。
つまり、移動は俺が持ち運びするしかないって訳だ。
幸いにしてビー玉サイズなので10才児の俺でも持て余すことなく持っていくことはできる。
ただ、リスタが外部情報を得るためにはポケットに仕舞い込む訳にはいかないので片手がふさがり探索効率が下がってしまうという難点がある。
フロートを維持したまま移動するのも索敵がおろそかになりそうだから何もない場所で慣れてからにしたい。
「となると仮でもいいからボディが必要か」
リスタがピクンと反応した。
そこから物凄く期待している感情が伝わってくる。
これが犬だったら尻尾を振りまくっているんじゃなかろうか。
今はまともに身動きが取れないから動けるようになりたいと思うのは自然の流れだろう。
「とりあえず間に合わせで動けるようにするだけだぞ」
そう言ったところでリスタのテンションは変わらぬままだ。
「変に期待されても困るんだけどな」
そう言いつつもリスタの新しいボディのイメージを始めるべく、まずは結界を展開する。
作業スペースが確保できればいいので範囲は狭めで半径数メートル程度。
そのぶん頑丈にしたので敵意ある魔物や獣が襲いかかってきても一撃で破壊されることはあるまい。
気兼ねなく作業ができるようになったので、さっそくリスタの新ボディをどうするかイメージを練り上げていく。
スライムなんだから前と同じでいいだろうって?
いやいや、前と同じじゃダメなんだ。
なんといっても移動に難があるのがいただけない。
自在に飛び跳ねることはできるようなので移動速度だけで見ればそんなに悪くはない。
けれども音や振動で周囲の魔物や獣に悟られてしまう恐れがある。
そうならないようにするには……
「リスタ、今まで捕食した獣や魔物は覚えているか?」
その問いにリスタは肯定する意思を送ってきた。
と同時に狼やフクロウに加えゴブリンなどの姿が俺の脳裏に浮かんでくる。
御丁寧にイメージで教えてくれるのか。
「具体的に覚えているなら都合がいい」
俺が何を言っているのか理解できないらしく、リスタが困惑しているようだ。
「単にボディを用意するんじゃ芸がないから擬態できるようにするのさ」
スライムのボディから狼や他の獣に変化する様をイメージで送ると、リスタはテンションが上がったらしく飛び跳ねんばかりに核を揺すり始めた。
「喜んでくれたようで何よりだ」
ということで擬態能力を追加するのは決定だ。
これで移動時の問題は解決したと言っていいだろう。
ただ、そうなると魔力の消費も大きくなりそうな気がする。
元の魔石ではまかないきれないだろう。
他の魔物を倒して得た魔石を追加する手もあるが質が悪いものでは無いのと同じか逆効果になりかねない。
例えばゴブリンの魔石がそれだ。
リスタが捕食した魔物はゴブリンしかいないので、このあたりで使い物になる魔石は無いと考えた方が良さそうである。
最悪、リスタが持っていた魔石を使うとして別の方法を考えてみる。
別に魔石でなくても魔力が供給できればいいのだ。
ボディそのものが魔力を発するのであれば間違いなく解決するだろう。
そのためにどうするか。
ひとつ思いついたことがある。
ボディ自体に魔力をため込めることができるようにする方法だ。
スライムは自在に形を変えられ不定形でありながらクリスタルのように透き通ったボディを持っていた。
そう、クリスタルだ。
元の世界でも占い師などの間ではクリスタルなどの宝石が神秘の力を秘めていると認識されていた。
いわゆるパワーストーンというやつだな。
実は俺には占い師の前世もあるんだけど当時よりも魔力を明確に感じられるようになった今の方がそれを正しいと信じられる。
要するにパワーストーンも魔石の一種として考えられる訳だ。
問題があるとすれば魔石よりも魔力が漏れ出やすいことだろうか。
溜め込む能力に差がないのであれば、漏れないようにできれば解決する。
それは誰かが保持すればいいだけの話だ。
もちろんリスタがやるべきことである。
という訳でリスタの名前の由来となったクリスタルのようなボディをイメージしてクリエイションの魔法を使う。
かなり魔力を持っていかれたような気はしたけど枯渇するようには思えない。
そうこうしている間に仮のボディが完成。
「できたぞ」
言いながらフロートで浮かせていたリスタの核を新ボディの上に持っていく。
「どうだ?」
新ボディの上に乗ったリスタが何かを訴えかけてくる。
「魔石? そんなものは必要ないぞ。ボディの中に入れば分かることだ」
俺がそう言うとリスタは透明な餅の中に沈み込んでいき、真ん中あたりまで来るとボディがプルンと震えた。
「どうだ、魔力は保持できるだろ?」
その問いに首肯するかのごとくボディを縦に動かすリスタ。
同時に肯定のイメージも送ってくる。
「どんな具合だ? 魔力が漏れてしまいそうな感じはするか?」
横にプルプルと震えるリスタ。
送られてきたイメージからすると魔力保持のために集中する必要はないみたいだな。
そこまでだとは思わなかったが何の問題もない。
嬉しい誤算というやつだ。
「それなら、さっそく擬態を試してみよう。まずはフクロウからだ」
リスタが徐々に形を変えていくと同時に茶褐色の色が表面に浮き上がってくる。
そしてフクロウの姿になった。
「うん、まごうことなきフクロウだな。形と色は」
それ以外の部分、サイズがフクロウにしては異様にでかいのだ。
具体的に言うと地球のダチョウくらい。
この調子だと魔法の補助なしに空を飛ぶことは難しそうだ。
あとデカすぎて悪目立ちするのもいただけない。
「そのサイズで飛べるのか?」
リスタは羽ばたいたが、どれだけ頑張っても飛べなかった。
羽ばたきの音がしないのはフクロウらしさがあると思うのだけど、それって形を真似ただけだと言ってるようなものなんだよなぁ。
「捕食したんならサイズも覚えているよな。擬態するからには完璧にコピーするのは基本だぞ」
それができるように俺はリスタの新しいボディをイメージして作り上げたつもりだ。
物理法則? そんなものは知らん。
時には常識でイメージを強固にして魔法の効果を高めることもあるだろうが今は常識をねじ曲げる時である。
要するにイメージさえできてしまうなら何でもありなのだ。
そういうことを思念で伝えると、リスタはブルリと身震いして一瞬でスライムの姿に戻ってしまった。
無茶振りしてしまっただろうか。
少なくとも性急な要求をしてしまったかもしれない。
少しずつできることを増やしていく方が良かったかと後悔しかけていたのだけど。
「ん?」
リスタの様子に変かがあった。
力みがあるのかブルブルと体を震わせているだけでなく、魔力も核を中心に渦巻くように練り上げている。
これはもしかすると極限まで集中したゾーンの状態に入ったのかもしれないな。
どうやら俺の言葉を受けて発憤したようだ。
負けず嫌いな奴だな。
とはいえ、気持ちだけですぐに成し遂げることができるほど簡単なことではなかった。
その後もリスタは空が白み始めるまでゾーンの状態を続けたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます